Presentation Information

[S3-11]Seawater penetration velocity along the outer-rise fault estimated from the permeability of peridotite

*Yuichiro Naruse1, Ikuo Katayama1 (1. Hiroshima Univ.)
PDF DownloadDownload PDF

Keywords:

Outer-rise fault,Peridotite,Permeability,Triaxial deformation

海溝海側では,沈み込みに伴って海洋プレートが屈曲することにより,広域的な海底地形の高まり,アウターライズが形成され,地震も発生している.それに伴い,海洋プレート表層部には引張応力によって正断層が発達し,断層に沿って海水が海洋地殻,さらにはマントル最上部にまで浸透すると考えられている.本研究では,マントルへの水の浸透プロセス,特にアウターライズ断層での海水の浸透速度を明らかにするため,カンラン岩の試料を用いて三軸変形実験を行い,変形実験中と破壊後の浸透率の変化を測定した.また,変形実験後は,浸透率の圧力効果を調べるために静水圧下での実験を行った.これらの結果に基づき,アウターライズ断層に沿って浸入する海水の浸透速度と亀裂の浸透率からアウターライズ断層が生み出す熱流量を計算し,実際の観測と比較しながら議論する.
 本研究では,試料に北海道の日高山脈にあるアポイ岳周辺で採取された幌満カンラン岩を用いた.作成した薄片とEPMAでの反射電子像観察から,主要構成鉱物は,カンラン石,斜方輝石,Cr-スピネルで,変質をほとんど受けていなかった.実験には,広島大学に設置されている圧力容器内変形透水試験機を用いた.実験は,室温で,一定の歪速度(1.8×10^-6 /s),封圧5-10 MPa,間隙圧は1.0-1.7 MPaの条件下で行った.軸歪と周歪は2つの歪ゲージによって測定し,浸透率は,粘性の低い窒素ガスを間隙流体として用いて測定した.また,試料破壊後には静水圧下での実験を行い,間隙流体には水を用いて,間隙圧は0.5 MPaで一定,封圧は5-200 MPaまで変化させて浸透率の圧力効果を検証した.
 実験の結果,カンラン岩は変形初期段階から中盤まで弾性的な挙動が確認され,破壊直前の高い差応力下では試料が少し体積膨張(ダイラタンシー)することが明らかとなった.この破壊前の応力-歪曲線の非線形関係は脆性変形時の典型的な挙動で,試料中のマイクロクラックの発達を反映している.最大差応力は,封圧5 MPa下では,312-378 MPa,封圧10 MPa下では,425-452 MPaとなり,封圧の上昇に伴う最大差応力の上昇傾向がみられた.変形前の浸透率は10^-20-10^-19 m^2で,変形中の浸透率はほぼ一定であり,最大差応力の96-99%の破壊直前で急激に上昇した.いくつかの実験では最大差応力では変化せず,破壊後の応力降下中に浸透率が急激に上昇した.破壊後の浸透率は10^-16-10^-15 m^2となり,破壊前後で3-5桁の浸透率の変化がみられた.試料破壊後に行った静水圧下での実験では,封圧の上昇に伴い,浸透率が減少する傾向がみられ,浸透率変化は実験前後で約3桁の減少が観察された.また,高い封圧下では浸透率はおおよそ一定の値となった.なお,浸透率の圧力効果は一定ではなく,封圧40-60 MPaまで浸透率は封圧に対して指数関数的に減少し,その後は線形関係に変化した.
 これらの破壊したカンラン岩の浸透率に基づいて,断層に沿って海水が浸透する速度をダルシーの法則によって算出した.計算では,断層先端の水圧をゼロとして,水深4,000 mでの水圧を流体移動の駆動力とした.そして,パーコレーションモデルに基づき,断層に沿って海水が浸透する深さを求めた.その結果,海水の断層に沿った拡散距離は,100万年で100-150 kmに達することが分かり,アウターライズ断層深部にまで海水は十分に浸透し,マントルまで到達しているといえる.また,得られた亀裂の浸透率から温度差を駆動力として断層内の流体循環が生み出す熱流量を計算すると,数十mW/m^2の熱流量を生み出すことが推定され,これはアウターライズ領域で確認されている高熱流量異常と調和的である.