Presentation Information
[R6-01]Hydrothermal alteration of granitoids and formation of “episyenites” in Hakatajima Island, Ehime Prefecture, Japan.
*Toko FUKUI1, Kazuya SHIMOOKA2, Toshiro TAKAHASHI3, Yasuhiro OGITA4,5, Mitsuhiro NAGATA6, Satoshi SAITO1 (1. Ehime Univ. , 2. Kwansei Gakuin Univ., 3. Niigata Univ. Grad. Sci., 4. JAEA, 5. Yamagata Univ., 6. Nihon Univ.)
Keywords:
Episyenite,Granitoids,Hydrothermal alteration,Episyenitization,Element mobility
【はじめに】
大陸地殻の成熟過程を理解するうえで,珪長質マグマの発生・固結・定置に加え,マグマから放出される熱水流体や,それによる地殻の変質過程を明らかにすることは重要である.花崗岩中では,アルカリ成分に富む流体との岩石―水相互作用により,石英に乏しくアルカリ長石に富む「エピ閃長岩」が形成される(Suikkanen and Ramo, 2019).このエピ閃長岩形成過程では,原岩に含まれる石英の溶脱とそれに伴う空隙の形成,さらに長石類のアルカリ長石化が主たる反応として進行する(例えば, Cathelineau, 1986).近年,日本国内でもエピ閃長岩の報告が相次いでおり(Nishimoto et al., 2014; Imaoka et al., 2024; 福井・齊藤, 2025),火山弧における流体活動の記録を残している岩石としても重要である.本研究では,愛媛県伯方島で見出したエピ閃長岩および関連岩石について,野外産状・岩石記載,全岩化学組成,Sr-Nd同位体組成,ジルコンおよびチタン石U-Pb年代測定結果に基づき,その成因を検討した.
【野外産状・岩石記載】
伯方島には,色調の違いから真珠色エピ閃長岩と牡蠣色エピ閃長岩に区分される2種類のエピ閃長岩が産する.これらは黒雲母および角閃石を含む花崗岩に伴い,いずれも花崗岩から漸移するが,両者が直接接する産状は認められない.また,真珠色エピ閃長岩付近の花崗岩中には流紋岩質斑岩脈が貫入している.
真珠色エピ閃長岩は有色鉱物に乏しい優白質な岩相で,空隙およびそれらをつなぐ亀裂が認められる.主な構成鉱物はアルカリ長石および柘榴石であり,少量の単斜輝石,チタン石,二次的な石英を伴う.柘榴石とチタン石は空隙を充填するように晶出する.
牡蠣色エピ閃長岩では露頭中で視認できる空隙が乏しく,真珠色エピ閃長岩に比べて母岩の花崗岩の組織が残存する.主な構成鉱物はアルカリ長石および単斜輝石であり,少量の柘榴石,チタン石,ジルコン,燐灰石,褐簾石,磁鉄鉱,二次的な石英を伴う.単斜輝石と柘榴石は粒状集合組織を呈し,その内部に微細な空隙が認められる.ジルコンは湾状に融食された他形を示すものが多く,CL像では複雑な内部構造を示す.
【全岩化学組成】
エピ閃長岩および母岩の花崗岩の全岩化学組成を用いて,Isocon解析(Grant, 1986)を行った.なお,不動元素にはAlを設定した.その結果, 両エピ閃長岩のいずれも花崗岩からのSiの減少と,Li,Na,Kといったアルカリ元素の増加が認められた.一方,Ti,Fe,CaやZr,REEなどの多くの元素は,真珠色エピ閃長岩では花崗岩に比べて減少するのに対し,牡蠣色エピ閃長岩では増加するという対照的な特徴がみられた.
【U-Pb年代・Sr-Nd同位体組成】
真珠色エピ閃長岩の薄片中のチタン石,および牡蠣色エピ閃長岩,花崗岩,流紋岩質斑岩脈から分離したジルコンについてU-Pb年代測定を行った.その結果,真珠色エピ閃長岩から88.63 ± 1.16 Ma,牡蠣色エピ閃長岩から90.18 ± 1.31 Ma,花崗岩から92.79 ± 0.69 Ma,流紋岩質斑岩脈から88.89 ± 0.87 Maの年代値が得られた.Sr-Nd同位体組成については,真珠色エピ閃長岩と牡蠣色エピ閃長岩のεSrt (88 Ma) 値はいずれも花崗岩と近い値を示す.一方,εNdt (88 Ma) 値は花崗岩に近い値から高い値まで,幅広く変化し,最も高い値は流紋岩質斑岩脈の値と近い.
【議論】
Isocon解析結果から,真珠色エピ閃長岩形成時には原岩からの元素溶脱が,牡蠣色エピ閃長岩形成時には原岩への元素濃集が顕著に進行したと考えられる.この対照的な特徴は,真珠色エピ閃長岩の空隙に富む産状と牡蠣色エピ閃長岩の空隙充填が顕著な産状とも調和的である.したがって,当地域の2種類のエピ閃長岩には,真珠色エピ閃長岩形成時に溶脱した元素が牡蠣色エピ閃長岩形成時に濃集したという成因関係が示唆される.このような特徴の大きく異なる2種類のエピ閃長岩が狭い地域で同一の原岩から形成された本産状は,流体活動の開始から終息までを記録する重要な事例である.
また,牡蠣色エピ閃長岩のジルコンの内部構造が改変されていること,および真珠色エピ閃長岩のチタン石が空隙充填鉱物としてみられることから,得られた年代値は各エピ閃長岩が形成された時期を反映するものと考えられる.これらは流紋岩質斑岩脈の年代値と誤差範囲で一致し,類似したεNdt (88 Ma) 値を示すこととも調和的である.以上より,当地域のエピ閃長岩形成には,流紋岩質斑岩を形成したマグマに由来する流体が関与した可能性が高いと考えられる.
引用文献:Cathelineau (1986) J Petrol, 27, 235–244; Grant (1986) Econ Geol, 81, 1976–1982; 福井・齊藤 (2025) 地質雑, 131, 393–407; Imaoka et al. (2024) Minerals, 14, 929; Nishimoto et al. (2014) Contrib Mineral Petrol, 167, 960; Suikkanen and Ramo (2019) Min Metall Explor, 36, 861–878.
大陸地殻の成熟過程を理解するうえで,珪長質マグマの発生・固結・定置に加え,マグマから放出される熱水流体や,それによる地殻の変質過程を明らかにすることは重要である.花崗岩中では,アルカリ成分に富む流体との岩石―水相互作用により,石英に乏しくアルカリ長石に富む「エピ閃長岩」が形成される(Suikkanen and Ramo, 2019).このエピ閃長岩形成過程では,原岩に含まれる石英の溶脱とそれに伴う空隙の形成,さらに長石類のアルカリ長石化が主たる反応として進行する(例えば, Cathelineau, 1986).近年,日本国内でもエピ閃長岩の報告が相次いでおり(Nishimoto et al., 2014; Imaoka et al., 2024; 福井・齊藤, 2025),火山弧における流体活動の記録を残している岩石としても重要である.本研究では,愛媛県伯方島で見出したエピ閃長岩および関連岩石について,野外産状・岩石記載,全岩化学組成,Sr-Nd同位体組成,ジルコンおよびチタン石U-Pb年代測定結果に基づき,その成因を検討した.
【野外産状・岩石記載】
伯方島には,色調の違いから真珠色エピ閃長岩と牡蠣色エピ閃長岩に区分される2種類のエピ閃長岩が産する.これらは黒雲母および角閃石を含む花崗岩に伴い,いずれも花崗岩から漸移するが,両者が直接接する産状は認められない.また,真珠色エピ閃長岩付近の花崗岩中には流紋岩質斑岩脈が貫入している.
真珠色エピ閃長岩は有色鉱物に乏しい優白質な岩相で,空隙およびそれらをつなぐ亀裂が認められる.主な構成鉱物はアルカリ長石および柘榴石であり,少量の単斜輝石,チタン石,二次的な石英を伴う.柘榴石とチタン石は空隙を充填するように晶出する.
牡蠣色エピ閃長岩では露頭中で視認できる空隙が乏しく,真珠色エピ閃長岩に比べて母岩の花崗岩の組織が残存する.主な構成鉱物はアルカリ長石および単斜輝石であり,少量の柘榴石,チタン石,ジルコン,燐灰石,褐簾石,磁鉄鉱,二次的な石英を伴う.単斜輝石と柘榴石は粒状集合組織を呈し,その内部に微細な空隙が認められる.ジルコンは湾状に融食された他形を示すものが多く,CL像では複雑な内部構造を示す.
【全岩化学組成】
エピ閃長岩および母岩の花崗岩の全岩化学組成を用いて,Isocon解析(Grant, 1986)を行った.なお,不動元素にはAlを設定した.その結果, 両エピ閃長岩のいずれも花崗岩からのSiの減少と,Li,Na,Kといったアルカリ元素の増加が認められた.一方,Ti,Fe,CaやZr,REEなどの多くの元素は,真珠色エピ閃長岩では花崗岩に比べて減少するのに対し,牡蠣色エピ閃長岩では増加するという対照的な特徴がみられた.
【U-Pb年代・Sr-Nd同位体組成】
真珠色エピ閃長岩の薄片中のチタン石,および牡蠣色エピ閃長岩,花崗岩,流紋岩質斑岩脈から分離したジルコンについてU-Pb年代測定を行った.その結果,真珠色エピ閃長岩から88.63 ± 1.16 Ma,牡蠣色エピ閃長岩から90.18 ± 1.31 Ma,花崗岩から92.79 ± 0.69 Ma,流紋岩質斑岩脈から88.89 ± 0.87 Maの年代値が得られた.Sr-Nd同位体組成については,真珠色エピ閃長岩と牡蠣色エピ閃長岩のεSrt (88 Ma) 値はいずれも花崗岩と近い値を示す.一方,εNdt (88 Ma) 値は花崗岩に近い値から高い値まで,幅広く変化し,最も高い値は流紋岩質斑岩脈の値と近い.
【議論】
Isocon解析結果から,真珠色エピ閃長岩形成時には原岩からの元素溶脱が,牡蠣色エピ閃長岩形成時には原岩への元素濃集が顕著に進行したと考えられる.この対照的な特徴は,真珠色エピ閃長岩の空隙に富む産状と牡蠣色エピ閃長岩の空隙充填が顕著な産状とも調和的である.したがって,当地域の2種類のエピ閃長岩には,真珠色エピ閃長岩形成時に溶脱した元素が牡蠣色エピ閃長岩形成時に濃集したという成因関係が示唆される.このような特徴の大きく異なる2種類のエピ閃長岩が狭い地域で同一の原岩から形成された本産状は,流体活動の開始から終息までを記録する重要な事例である.
また,牡蠣色エピ閃長岩のジルコンの内部構造が改変されていること,および真珠色エピ閃長岩のチタン石が空隙充填鉱物としてみられることから,得られた年代値は各エピ閃長岩が形成された時期を反映するものと考えられる.これらは流紋岩質斑岩脈の年代値と誤差範囲で一致し,類似したεNdt (88 Ma) 値を示すこととも調和的である.以上より,当地域のエピ閃長岩形成には,流紋岩質斑岩を形成したマグマに由来する流体が関与した可能性が高いと考えられる.
引用文献:Cathelineau (1986) J Petrol, 27, 235–244; Grant (1986) Econ Geol, 81, 1976–1982; 福井・齊藤 (2025) 地質雑, 131, 393–407; Imaoka et al. (2024) Minerals, 14, 929; Nishimoto et al. (2014) Contrib Mineral Petrol, 167, 960; Suikkanen and Ramo (2019) Min Metall Explor, 36, 861–878.
