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[02社-口-07]障害者の弓道実践における〈できなさ〉の諸相「型」をめぐる経験に着目して

*Sekai Shiozaki1 (1. Graduate School of Education, Hokkaido Univ.)
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障害者スポーツにおいて「アダプテッド・スポーツ」の理念は重視されてきた。すなわち、健常者を想定した既存のスポーツ実践に対して、障害者は身体的な〈できなさ〉に直面しており、ゆえに、既存のルールを改良し、参加者の身体条件に適合させることによって、彼らの〈できなさ〉を解消することが求められるのである。

 他方「弓道」では、身体的な障害のある人が健常者と一緒に、彼らと同じルールに基づいて活動を行う事例が認められる。では、このことをもって、弓道とは障害者に対して「アダプテッド」な実践だといえるだろうか。
 そこで本研究では、障害者による弓道実践においてどのような〈できなさ〉が存在しているのか、当事者自身の経験を通じて明らかにすることを目的とする。そのために、11 名の経験者に対して半構造化インタビューを実施し、これまでの弓道経験について聞き取りを行った。

 その結果、一連の動作が「型」に沿って行われる「武道」であることが、弓道を通じて彼らが経験する〈できなさ〉の諸相に関連していることが明らかになった。
 まず、型の動作や姿勢が健常者身体を前提とするために身体的な〈できなさ〉が経験されることが認められつつも、彼らによる自身の身体動作や用具の工夫を通じて、弓を引いて矢を的中させることは実現されていた。それにより、健常者と一緒に大会に参加しながら、的中率の向上を楽しむことは果たされていた。
 だが、その反面、身体的な理念・規範としての「型」を守れないことに関わる〈できなさ〉の経験が見出された。例えば、障害者自身が弓道の「伝統」と区別して自らの身体実践を否定的に意味付け、型を価値基準とした評価の場である「審査」への参加を断念する事例が存在していた。換言すれば、競技的・娯楽的な「スポーツ」としての実践における〈できなさ〉が縮減されうる一方、「伝統文化」としての弓道における〈できなさ〉は残存している現状が示唆された。

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