講演情報

[R1-02]デマントイドガーネット:原産地鑑別のための特性評価

*江森 健太郎1、趙 政皓1、谷口 奏子1、北脇 裕士1 (1. ㈱中央宝石研究所)

キーワード:

デマントイドガーネット、原産地鑑別、LAICPMS

デマントイドガーネットは、アンドラダイト(Andradite, Ca3Fe3+2(SiO4)3))に属する緑色の宝石変種である。通称ホーステールと呼ばれる繊維状の包有物は視覚的に美しく、それらが観察されるロシア産は伝統的に人気が高い。しかし、ホーステールはロシア産以外からも観察され、潜在的な原産地鑑別の要望は高い。 
 デマントイドガーネットの産状は蛇紋岩ホスト型とスカルンホスト型に大別される。蛇紋岩ホスト型はロシア、イラン、イタリア、カナダ、パキスタンが、スカルンホスト型としてはマダガスカル、ナミビアが知られている。また、デマントイドガーネットの原産地鑑別の先行研究については数多くあり(e.g. Binderief at al. 2020, Giuliani et al. 2025など)、本学会においても阿依(2023)により報告されている。これら先行研究では、特に微量元素濃度を比較した分析結果で成果が挙げられている。
 本研究では、微量元素濃度に加えて、紫外-可視-赤外領域の分光特性や顕微鏡による拡大観察結果を産状との関連性を踏まえて比較し、デマントイドガーネットの原産地鑑別に有用なプロトコルの確立を目指した。
 使用したサンプルは、蛇紋岩ホスト型のデマントイドガーネットとして、ロシア(ウラル)産11点、イラン産10点、イタリア産4点、カナダ産5点、パキスタン(コヒスタン)産5点を、スカルンホスト型としてマダガスカル5点、ナミビア10点である。これらに対し、宝石顕微鏡による観察、UV-Visスペクトル・赤外スペクトル・ラマンスペクトルの測定とEDXRFおよびLA-ICP-MSによる元素分析を行い、特性評価を行った。 
 まず、EDXRFによる分析の結果、今回分析したサンプルすべてがアンドラダイト成分98%以上であった。
 顕微鏡観察では、蛇紋岩ホスト型のほとんどのサンプルからはホーステールが観察された一方、スカルンホスト型からは確認されなかった。ホーステールの形状は産地によって異なり、特にカナダ産ではやや縮れた形状が特徴的である。また、パキスタン産のサンプルからは針状のダイオプサイド結晶や自形のオリビン結晶の包有物が観察された。スカルンホスト型においてもダイオプサイド結晶が確認されたが針状ではなく、特にマダガスカル産では特徴的なパンくず状の形態を示した。交差偏光下では、カナダ産は他産地と比べて二次干渉を伴う非常に強い歪みが顕著であり、イラン産では二段階成長を示唆する中央の立方体状コアが観察された。
 赤外スペクトルでは、スカルンホスト型において 3562、3581、3610、3631 cm⁻¹ の吸収が認められた。これらは Ca や Fe の欠損部に H が入り込むことで生じる OH に由来し、成長速度の速いスカルンホスト型の重要な特徴となる。いっぽう、蛇紋岩ホスト型では 3604 cm⁻¹ と、強く飽和した 3560 cm⁻¹ の吸収が観察された。3560 cm⁻¹ はハイドロガーネット置換によるもので、蛇紋岩ホスト特有の Si 欠乏を反映している。また、蛇紋岩ホスト型では 3690 cm⁻¹ が観察されることがあり、これは顕微鏡では識別困難な超微細な蛇紋岩結晶の混入によるピークで、加熱により消失することが先行研究で示されている(Serov et al., 2015)。
 LA-ICP-MS 分析では、Ga 含有量が 1 ppm 未満のものは蛇紋岩ホスト型、1 ppm 以上のものはスカルンホスト型に大別された。Ga 含有量は母岩の Al 濃度と関連し、蛇紋岩はスカルンに比べて Al が相対的に多いため、その差が反映された結果と考えられる。Ga による大別に加え、蛇紋岩ホスト型は Ga–Mn、Ga–Sc のプロットで、スカルンホスト型は Mg や Mn の含有量などでさらに分別が可能であった。
 今後さらなるデータベースの拡充と検証が必要であるが、光学顕微鏡観察、赤外分光、LA-ICP-MS による微量元素分析を組み合わせることで、デマントイドガーネットの精度の高い原産地鑑別が可能となる。

参考文献
Binderief S G., Rull F., Schwarzinger S., and Schwarzinger C. (2020) Chemometric Modeling of Trace Element Data for Origin Determination of Demantoid Garnets. Minerals 2020, 10, 1046; doi:10.3390/min10121046Giulani G., Pignatelli and I. Feneyrol J.(2025) Demantoid Garnet Deposits: Review and Geological Classification. The Canadian Journal of Mineralogy and Petrology, Vol. 63, pp.421-465阿依アヒマディ(2023)スカルンと蛇紋岩起源のアンドラダイト・ガーネットの変種デマントイドの微量化学元素の比較研究. 日本鉱物科学会2023年年会・総会講演要旨集, R1-02Serov R., Shelementiev Y. and Serova A. (2015) Russian demantoid color origin. International Gemmological Conference proceedings. 89-92.