講演情報

[R1-03]アレキサンドライトの原産地鑑別:特に分光学的特徴と微量元素組成による検討

*趙 政皓1、北脇 裕士1、江森 健太郎1、岡野 誠1 (1. 中央宝石研究所)

キーワード:

アレキサンドライト、クリソベリル、赤外スペクトル、紫外-可視-近赤外スペクトル、LA-ICP-MS

アレキサンドライトはCrを含むクリソベリル(BeAl2O4)の宝石変種であり、自然光下では緑色系、白熱灯下では赤色系の変色効果を有する希少な宝石として知られている。19世紀にロシアで発見されて以降、ブラジル、スリランカ、インド、タンザニア、マダガスカルなどでも産出されており、近年、倫理的な調達や流通の透明性への関心が高まるにつれ、原産地鑑別の重要性が急速に高まっている。
アレキサンドライトの形成には、Beに富む環境とCrを供給できる岩石との相互作用が必要である。しかし、Beは主に大陸地殻、Crは主に海洋地殻や上部マントルに濃集しやすく、両者が共存する地質環境は限られる。ベリル(Be3Al2Si6O18)の宝石変種であるエメラルドも同様にBeとCrを必要とするため、アレキサンドライトとエメラルドが同一鉱床から産出する例は少なくない。また、通常のクリソベリルがペグマタイト関連環境から産出することが多く、ペグマタイトがCrを含む岩石と接触する場合、その周辺でアレキサンドライトが形成される可能性がある。このような産状のため、アレキサンドライトのみを対象とした鉱山が少なく、多くの場合はエメラルドや通常のクリソベリルを採掘する際の副産物として得られている。
産地が既知のアレキサンドライト試料の収集は容易ではないが、潜在的な要求の高まりを背景に、宝石鑑別機関による原産地鑑別の研究は進展してきた。例えば、Sunら(2019)は、肉眼による変色性の観察、宝石顕微鏡による拡大観察およびLA-ICP-MSによる微量元素分析が有効であると報告している。筆者らは、2024年から原産地情報が信頼できるブラジル(ヘマチタ、マラカシェッタ、カルナイーバ:37個)、ロシア(7個)、インド(16個)、スリランカ(10個)、タンザニア(38個)、マダガスカル(2個)の6産地の総計110個のアレキサンドライトを収集し、Sunら(2019)の手法の有効性を確認した。さらに、先行研究では十分に検討されていない紫外-可視-近赤外スペクトルおよび赤外スペクトルを測定し、分光学的特徴とLA-ICP-MS分析による微量元素組成との関係を検討した。
収集した110個の紫外-可視-近赤外スペクトルでは、367 nmおよび375 nmのFe3+に起因する吸収と、420~450 nm付近に見られるV3+、Cr3+、Fe3+の吸収が重なる領域に注目した。他産地間の明瞭な区別は必ずしも容易ではないが、インド産アレキサンドライトは元素分析においてFe3+が少なく、V3+が多く含む傾向があり、367 nmおよび375 nmの吸収が弱く、420~450 nmの吸収中心が低波長側へシフトする例が多い。
赤外スペクトルでは、3225 cm-1付近のOH吸収に着目した。BauerhanslとBeran(1997)は、この吸収をクリソベリル中のBeサイト空孔に関連するOH伸縮振動に帰属している。筆者らは、収集した110個と鑑別業務で検査したアレキサンドライトの中から総計149石を選出し、LA-ICP-MSによる微量元素組成と、赤外スペクトルにおける3225 cm-1付近のOH吸収位置を整理し、その関係性を検討した。その結果、3225 cm-1付近のOH吸収位置の範囲には産地ごとの差異が認められ、産地によってその変化はMg、Cr、Fe、Ga、Snなどの含有量が関与していることが判った。OH吸収位置の中央値は、ブラジル(ヘマチタ)(3221 cm-1)・ロシア(3222 cm-1)の低周波数グループと、ブラジル(カルナイーバ、マラカシェッタ)(3228 cm-1)・スリランカ(3227 cm-1)・インド(3229 cm-1)・タンザニア(3229 cm-1)・マダガスカル(3228 cm-1)の高周波数グループに大別でき、微量元素濃度と組み合わせてプロットすることで、原産地の分別がより明らかとなる場合があった。例えば、元素間のプロットだけでは判断が困難であったロシアとブラジル(カルナイーバ)のアレキサンドライトは、OH吸収位置-GeやOH吸収位置-Taのプロット図で判別が容易となった。
以上のように先行研究による変色性、内包物および微量元素組成だけでなく、紫外-可視-近赤外スペクトルおよび赤外スペクトルも、アレキサンドライトの原産地鑑別に有用な情報を与えることが明らかとなった。Illuminatiら(2025)は、イオン半径がより大きいFe3+がAl3+を置換することでM3+-O-HにおけるM3+-O結合が弱くなり、O-H結合が強くなることで振動周波数が高くなると報告しており、今後、各産地の微量元素濃度とOH吸収位置の関連を精査し、原産地鑑別の精度向上を目指したい。