講演情報

[R1-06]マダガスカル産サファイア中TiO2-rich ナノインクルージョンの4D-STEM分析

*伊神 洋平1、三宅 亮1、乙 星華1、江森 健太郎2 (1. 京都大学、2. 中央宝石研究所)

キーワード:

コランダム、スリランカイト、電子顕微鏡法、4D-STEM

【はじめに】サファイアという宝石名で一般的に広く知られているコランダム(Al2O3, Crn)には、しばしば針状のルチル(TiO2)がインクルージョンとして含まれるが、マダガスカル産の天然サファイア中にはルチルと異なるナノインクルージョンが発見されている(Shen et al., 2012; 江森ほか, 2018)。Shen et al. (2012)はイラカカ産サファイア中のBe, Ti, Nb, Taを微量に含む雲状に濁った箇所からナノインクルージョンを発見・観察し、長さ20-40 nm、幅5-10 nm で、α-PbO2構造をもつTi-richな単一相(鉱物名:スリランカイト, Sri)であると報告した。江森ほか(2018)はディエゴ産天然サファイア中から、Be, Ti, Nb, Taを微量に含む領域においてTi, Nb, Taを含む長さ40 nm、幅10 nm程度のナノインクルージョンを発見した。さらに、このナノインクルージョンをナノビーム電子回折(NBD)で詳細に調べることで、このインクルージョンもα-PbO2構造を持つSri相であることを示し、さらに母相のCrnと特定の方位関係を有することを明らかにした(Emori et al., 2024)。
Emori et al. (2024)ではさらにアトムプローブトモグラフィ(APT)の結果からインクルージョン周辺のBeの濃集を確認し、CrnとSriの界面格子歪みがBe濃集サイトとして働く可能性を提案した。ただし、界面歪みを直接捉えた証拠はまだ得られていない。また、Sriインクルージョンは形状にバリエーションが認められるため、これまで得られた結果がどの程度インクルージョンに普遍的であるかも明らかでない。そこで本研究では4D-STEM法を用いて、Sriナノインクルージョンの形状や結晶方位およびCrnとの界面格子歪みのデータの収集と解析を行った。4D-STEMはナノ電子プローブを2次元(2D)グリッド状に走査して各プローブ位置から2D回折パターンを記録する手法であり、鉱物研究への有効性が分かってきている(伊神・三宅, 2025, 鉱物科学会)。計測には、新たに電子線走査と電子直接検出カメラの同期システムにより高速化した新たな4D-STEM解析環境を用いた (三宅・伊神, 2026)。

【試料と手法】試料はEmori et al. (2024)と同じBeを含有するマダガスカル・ディエゴ産非加熱ブルーサファイア原石サンプルを用いた。LA-ICP-MSを用いて分析が行われ、BeとNb、Taには非常によい相関関係が認められる一方、Tiはこれらとの相関関係が認められない(Emori et al. 2024)。この試料のうちBeが一番高濃度であった付近でCrnのc軸およびa軸方向からの試料を作製し、TEM (JEOL JEM-2100F)を用いて分析を行った。4D-STEMは直接電子検出型カメラ(Dectris, Quadro)とスキャンジェネレータ(point electronic, REVOLON)を用いて実装されたシステムを用いた(三宅・伊神, 2026, 鉱物科学会)。照射光学系としてNBD条件に近い準平行ビームによるSTEMレンズ条件に調整し、高速でのNBD-4D-STEM実験を行った。

【結果と考察】4D-STEMの結果、インクルージョン形状に関わらずEmori et al. (2024)の報告と一致する方位関係が得られた。また、Sri構造に特有の反射で疑似的な暗視野像を作成することで、数十nm径のインクルージョンは、最大3方向のSriにより構成されていることが分かった。ただし必ずしも三連双晶をなしているわけではなく一方向/二方向からなるものもあり、それに対応して形状が異なっていることが分かった。さらに、4D-STEMで得られる回折スポット位置の変化を追うことでCrn結晶格子歪みの分布を可視化した結果、インクルージョン周辺のCrnはc軸方向に収縮している一方、その垂直方向にはほとんど歪みが見られないことが分かった。これらは各相の格子定数データからの予想と整合的である。この格子歪みエネルギーと双晶との関係でインクルージョン形状がおおよそ決まっているものと思われる。格子歪みの分布の非等方性が確認されたことに注目してAPTのデータをより精査すれば、Be濃集と格子歪みとの関係性をさらに検証できるかもしれない。