講演情報
[R1-09]緑簾石族とその類縁鉱物の最近の鉱物学的な知見
*永嶌 真理子1 (1. 山口大学・院創成)
キーワード:
緑簾石、パンペリー石、水素結合、遷移元素
低変成作用や熱水環境下では,類似した化学組成,結晶構造,および安定領域を持つ数種類の含水ケイ酸塩鉱物が形成される。その中でも,緑簾石およびパンペリー石族鉱物は,産出頻度が高い重要な鉱物である。さらに,サーサス石と同構造のマクファライトも,パンペリー石と構造的に関連する鉱物として分類される。
近年の分析技術の進歩に伴い,これらの鉱物グループでは新鉱物の発見が続いている。例えば緑簾石超族は現在38種に拡大し(2026年6月現在),そのうち希土類元素に富む褐簾石族の19種が2000年以降に承認された。この過程で日本人研究者に由来する新たなルートネーム「上田石」や「赤坂石」も誕生した。またパンペリー石族(計12種)も主要な3価陽イオンに基づき5種のルートネームが定義され,うち3種はこの20年間で承認された。このように,2000年代以降の記載鉱物学はこれら鉱物の化学的・構造的多様性を次々と明らかにしている。本講演ではこれらの鉱物グループの多様性の本質に迫るため,遷移元素の挙動とそれに連動する水素結合システムに焦点を当て,近年の新知見を中心に総括する。
結晶構造の観点からみるとパンペリー石の単位格子が(a+c)/2ずれたものがサーサス石・マクファライトの構造であり,それがさらに変化すると緑簾石構造へと至る(図1)。このように,これらの鉱物は密接な構造的トポロジーの類似性を有する。いずれも稜を共有する複数の八面体サイト,およびSiO4とSi2O7が複雑に結合した骨格構造を有し,さらに8-10配位席の大きな配位多面体を持つ。この多様な多面体を含む結晶構造は化学的な多様性に貢献する。
多様化の要因は多岐にわたるが,これらの鉱物群の評価においては,とりわけ次の2つの相互作用が重要なファクターとなる。第1に八面体サイトにおける遷移元素の席選択性と酸化数変化である。遷移元素のイオン半径や電子配置に起因する局所的な構造的歪みや電荷の変動は,結晶構造の安定性に深く関わる。第2にそれと連動する水素結合システムの動的応答である。6配位席に分布する陽イオンの価数変化に際し,構造内では局所的に水素結合システムが変化・再配置されることで全体の電気的中性が保たれる。しかし天然試料の多くはごく細粒,あるいは複雑な化学組成変化を示すため,これら関係の定量的把握は困難であった。そこで単純な組成を持つ合成鉱物と天然鉱物を検討することで,これらの関係の解明がすすめられてきた。
3価の遷移元素(Cr, V, Sc, Mn, Feなど)を含んだ合成クリノゾイサイトのX線構造解析から,これら元素がM3>M1>>M2の順で優先的に分布することを示し,分配係数(KD値)から,席選択性が主にイオン半径効果に支配されていることを明らかにした。イオン半径がほぼ等しいFe3+とMn3+のKD値はほぼ同じだが,Mn3+由来のJahn-Teller効果の影響により元素増加に伴う構造変化様式は異なる。このような陽イオン置換によるM3サイトの膨張はSi1-O9-Si2角を縮小させ,さらにO10…O4距離の伸長をもたらす。緑簾石構造においてO10はOH基を形成し,O4はアクセプター酸素として水素結合に関与する。例えば,Al-Fe3+系緑簾石の赤外およびラマン分光分析では,Fe含有量の増加に伴ってO-H伸縮振動バンドが高波数側へシフトすることが知られている。このことからも,6配位席における陽イオン置換が水素結合システムに直接影響を与えることがわかる。
このような結晶構造変化が水素結合系を制御するという原理は,類縁構造を持つパンペリー石族やサーサス石,マクファライトでより顕著な形で発現する。これらの鉱物において幾何学的に類似した特徴を持つ6配位席(パンペリー石構造のXサイト,サーサス石構造のM1サイト)には2価と3価の陽イオンが共存する。このサイトにおける酸化数変化による電荷変化は,Me3+ + O2- ↔ Me2+ + OH- という複合置換によって相補されている。この結果,これらの鉱物は構造式当たり3-4個のOH基を含み,単一の構造内で複数の独立した水素結合システムをとる。その変化は陽イオンの酸化数や分布,さらにはイオン半径やJahn-Teller効果による配位多面体の幾何学的変形とも密接に関連する。
本発表では,これら一連の結晶化学的特徴に基づき,2000年代以降に進められてきた合成実験および天然試料の研究について解説し,陽イオン置換と水素結合システムが密接な関係性が含水ケイ酸塩鉱物の分類や同定を支配する,極めて普遍的な結晶化学的現象であることを総括する。
近年の分析技術の進歩に伴い,これらの鉱物グループでは新鉱物の発見が続いている。例えば緑簾石超族は現在38種に拡大し(2026年6月現在),そのうち希土類元素に富む褐簾石族の19種が2000年以降に承認された。この過程で日本人研究者に由来する新たなルートネーム「上田石」や「赤坂石」も誕生した。またパンペリー石族(計12種)も主要な3価陽イオンに基づき5種のルートネームが定義され,うち3種はこの20年間で承認された。このように,2000年代以降の記載鉱物学はこれら鉱物の化学的・構造的多様性を次々と明らかにしている。本講演ではこれらの鉱物グループの多様性の本質に迫るため,遷移元素の挙動とそれに連動する水素結合システムに焦点を当て,近年の新知見を中心に総括する。
結晶構造の観点からみるとパンペリー石の単位格子が(a+c)/2ずれたものがサーサス石・マクファライトの構造であり,それがさらに変化すると緑簾石構造へと至る(図1)。このように,これらの鉱物は密接な構造的トポロジーの類似性を有する。いずれも稜を共有する複数の八面体サイト,およびSiO4とSi2O7が複雑に結合した骨格構造を有し,さらに8-10配位席の大きな配位多面体を持つ。この多様な多面体を含む結晶構造は化学的な多様性に貢献する。
多様化の要因は多岐にわたるが,これらの鉱物群の評価においては,とりわけ次の2つの相互作用が重要なファクターとなる。第1に八面体サイトにおける遷移元素の席選択性と酸化数変化である。遷移元素のイオン半径や電子配置に起因する局所的な構造的歪みや電荷の変動は,結晶構造の安定性に深く関わる。第2にそれと連動する水素結合システムの動的応答である。6配位席に分布する陽イオンの価数変化に際し,構造内では局所的に水素結合システムが変化・再配置されることで全体の電気的中性が保たれる。しかし天然試料の多くはごく細粒,あるいは複雑な化学組成変化を示すため,これら関係の定量的把握は困難であった。そこで単純な組成を持つ合成鉱物と天然鉱物を検討することで,これらの関係の解明がすすめられてきた。
3価の遷移元素(Cr, V, Sc, Mn, Feなど)を含んだ合成クリノゾイサイトのX線構造解析から,これら元素がM3>M1>>M2の順で優先的に分布することを示し,分配係数(KD値)から,席選択性が主にイオン半径効果に支配されていることを明らかにした。イオン半径がほぼ等しいFe3+とMn3+のKD値はほぼ同じだが,Mn3+由来のJahn-Teller効果の影響により元素増加に伴う構造変化様式は異なる。このような陽イオン置換によるM3サイトの膨張はSi1-O9-Si2角を縮小させ,さらにO10…O4距離の伸長をもたらす。緑簾石構造においてO10はOH基を形成し,O4はアクセプター酸素として水素結合に関与する。例えば,Al-Fe3+系緑簾石の赤外およびラマン分光分析では,Fe含有量の増加に伴ってO-H伸縮振動バンドが高波数側へシフトすることが知られている。このことからも,6配位席における陽イオン置換が水素結合システムに直接影響を与えることがわかる。
このような結晶構造変化が水素結合系を制御するという原理は,類縁構造を持つパンペリー石族やサーサス石,マクファライトでより顕著な形で発現する。これらの鉱物において幾何学的に類似した特徴を持つ6配位席(パンペリー石構造のXサイト,サーサス石構造のM1サイト)には2価と3価の陽イオンが共存する。このサイトにおける酸化数変化による電荷変化は,Me3+ + O2- ↔ Me2+ + OH- という複合置換によって相補されている。この結果,これらの鉱物は構造式当たり3-4個のOH基を含み,単一の構造内で複数の独立した水素結合システムをとる。その変化は陽イオンの酸化数や分布,さらにはイオン半径やJahn-Teller効果による配位多面体の幾何学的変形とも密接に関連する。
本発表では,これら一連の結晶化学的特徴に基づき,2000年代以降に進められてきた合成実験および天然試料の研究について解説し,陽イオン置換と水素結合システムが密接な関係性が含水ケイ酸塩鉱物の分類や同定を支配する,極めて普遍的な結晶化学的現象であることを総括する。

