講演情報

[R1-13]北海道愛別産カルパチア石の分子結晶性固溶現象

*井上 裕貴1、田中 陵二2,3、長田 裕也4、萩原 昭人、石橋 隆5 (1. 東京大学、2. 相模中央化学研究所、3. 東海大学、4. 物質・材料研究機構、5. 地球科学社会教育機構)

キーワード:

カルパチア石、コロネン、ベンゾペリレン

カルパチア石(Carpathite)はコロネン(C24H12, Cor)を構成成分とする多環芳香族炭化水素(Polycyclic Aromatic Hydrocarbon: PAH)鉱物である。天然におけるPAH鉱物の産出例は限られており、その分子生成や結晶化に関する機構については未解明な点が多い。Blumer (1975)およびEchigo et al. (2007)は、カリフォルニア州産カルパチア石について、その結晶構造とそれが高純度のCorであることを報告している。一方、北海道愛別地域ではカルパチア石および北海道石(Hokkaidoite; ベンゾ[ghi]ペリレン(BPer)よりなる有機鉱物)などのPAH鉱物が共生する。このことから、北海道愛別地域から産出するカルパチア石は Cor 以外の PAH 成分が含まれる可能性が考えられる。本研究では愛別地域産カルパチア石について、ラマン分光法、ガスクロマトグラフィー(GC)および単結晶X線構造解析を用いて分子組成と結晶構造を再検討し、有機分子結晶における置換型固溶の可能性について検討した。
愛別地域のPAH鉱物は熱水性石英脈中の空隙や変質した安山岩の割れ目に産する。カルパチア石は長さ1 cm以下の淡黄色の針状結晶として見られ、北海道石、辰砂、輝安鉱および黄鉄鉱を伴う。これらの有機鉱物はいずれも長波紫外線照射により強い黄緑色~青緑色蛍光を示した。
ラマン分光分析では、カルパチア石はCorに由来する主要ピークを示すとともに、約1255、1305、1390および1610 cm–1付近にBPer と一致する特徴ピークが確認され、これらは結晶の複数の測定点で再現性良く観測された。GC分析では、Cor に加えて BPer に対応する保持時間のピークが確認された。ピーク面積比から求めた量比は、BPer 10.3–11.1wt%、Cor 88.9–89.7wt%であった。また、単結晶X線構造解析では Cor 分子の当てはめにより解析が可能だが、周囲の特定炭素サイトの占有率欠損(対称心を介して5+5%)を加えて最適化したモデルにより最小自乗計算のR因子が有意に低下した。
これらの結果は、カルパチア石中の Cor 分子の位置に重なるような、約10%の BPer 成分の置換型固溶を支持する。この挙動は、カリフォルニア産カルパチア石が純粋な Cor である報告とは対照的であり、愛別産のものは生成環境において BPer が著量存在していたと示唆する。本発表では、天然での分別結晶化の機構および熱水活動との関連についても議論する。
Blumer, M. (1975) Chemical Geology, 16, 245–256.
Echigo, T., Kimata, M. and Maruoka, T. (2007) American Mineralogist, 92, 1262–1269.