講演情報

[R1P-03]大角度ロッキングビーム電子回折(LARBED)法を用いた鉱物の構造対称性の評価

*続木 丈1、伊神 洋平1、下林 典正1,2、三宅 亮1 (1. 京都大学・院理、2. 益富地学会館)

キーワード:

電子顕微鏡法、大角度ロッキングビーム電子回折、対称性、石英、糸魚川石

【はじめに】鉱物の結晶構造解析において、その対称性を記述する空間群の特定は極めて重要である。通常のX線回折や電子回折では、消滅則の判定により映進面やらせん軸の有無を同定できるものの、多重散乱の効果が判定を難しくする場合がある。また、消滅則に関与しない中心対称性の有無を判別することは一般に困難である。映進面やらせん軸および中心対称性といった結晶構造が持つ様々な対称要素を判定する有効な手法の一つとして、収束電子回折(Convergent-Beam Electron Diffraction: CBED)で得た回折ディスク内のパターンから判定する方法が挙げられる。しかしCBED法は、格子定数の大きな結晶では各回折ディスクが互いに重複するほか、電子線を微小領域に収束させるため、電子線損傷を受けやすい試料への適用が制限されるという課題があった。
 これに対し、大角度ロッキングビーム電子回折(Large-Angle Rocking-Beam Electron Diffraction: LARBED)法は、これらの課題を克服し得る極めて有用な手法である(Koch, 2011)。細く絞った平行に近い電子ビームを傾斜させながら試料上で高速で走査し回折データを取得できれば、電子線ダメージを低減しつつ、各回折ディスクの重複を回避した広角度範囲の回折情報を得ることが可能となる。
【目的・手法】本研究の目的は、LARBED法による鉱物の対象要素性判別法の有効性を検証し、空間群が未決定の鉱物へと応用することである。
 そのため、まず手法の妥当性を評価する実験として、中心対称を持たないことが知られている石英(大分県尾平鉱山産、空間群 P3221またはP3121)の、[001]方位試料を用いてLARBED測定を行った。つぎに、先行研究(続木ほか, 2025)により空間群が C1121/m (P21/m)または中心対称性を欠くC1121 (P21)のいずれかに絞り込まれている糸魚川石(新潟県糸魚川産、高田雅介氏提供)を対象とし、同手法を用いた詳細な解析から対称要素の有無の同定を試みた。
 装置は透過型電子顕微鏡(JEOL製 FE-TEM JEM-2100F)を使用し、照射系はJEM-2100FのRockingモードとスキャンジェネレーターREVOLON(point electronic社)で高速で電子ビームをチルトスキャンさせ、結像系は回折モードにしてハイブリッド型電子直接検出器Quadro(Dectris社)で回折図形を取り込んだ(三宅・伊神2026)。いずれの試料も解像度128×128、最大傾斜角1.5°の条件で撮影を行った。
【結果・考察】石英を測定した結果、厚めの試料を作成したためCBEDは取得できたが非弾性散乱のバックグラウンドが強く、やや不鮮明な図形が得られた。一方、LARBEDは1分ほどで鮮明な図形の取得に成功した。得られたパターンは中心対称性を持たないことを示し、これは石英の空間群(P3221またはP3121)が中心対称性を持たないことと整合的である。
 つぎに、糸魚川石の[100], [310]方位への適用においては、CBEDでは1sに満たない時間で構造破壊が起こり、全くCBED図形が得られなかった。一方、LARBEDデータは得ることができた。また、糸魚川石のc軸は13Åあり、CBED図形を取るとしてもディスク半径は僅か0.9mradしか取れないが、今回は26mrad程度のディスク半径でLARBEDが取得できた。しかし、得られたLARBED図形が不鮮明であり、明確な対称性の同定には至らなかった。この要因として、糸魚川石に対する[100], [310]電子線入射時は重元素Srのカラムへのチャネリングにより異常吸収が起き、回折強度の強い減衰とバックグラウンドとなる非弾性散乱が強く生じた可能性が考えられる。今後は、この吸収効果の影響を抑制するため、集束イオンビーム加工を用いた別方位のTEM用薄膜試料の作製を行い、別の方位からのアプローチによるLARBED観察を進める予定である。
【引用文献】
Koch (2011) Ultramicroscopy, 111(7), 828-840.
続木ほか (2025) 日本鉱物科学会2025年度年会 R1-P-14 要旨
三宅・伊神 (2026) 日本鉱物科学会2026年度年会 要旨