講演情報
[R1P-04]電子・核密度分布の解析におけるスパースモデリングおよび種々のエントロピー指標を用いたMEMの比較
*門馬 綱一1 (1. 国立科学博物館)
キーワード:
最大エントロピー法、スパースモデリング、電子密度、干渉性散乱長密度
最大エントロピー法(MEM)による電子・核密度ρの解析においては、計算構造因子FMEMと観測構造因子Fobsが誤差σの範囲内で一致するという制約条件Cのもとに、相対エントロピーSを最大化するρを求める。具体的には、C = ΔF2/N – 1であり(N: 反射数, ΔF = (Fobs – FMEM)/σ)、ラグランジュの未定定数λとμを用いてL = S – λC – μ(Σρ–1)を最大化する。Sは事前情報τを用いて–Σρ ln(ρ/τ)と定義され、通常、τにはフラットな密度を用いることが多い。この場合はシャノンエントロピーを最大化することと同義である。これらのエントロピーを指標に用いる前提として、ρが独立事象であることが仮定されているが、結晶においては近接位置におけるρと強い相関があり、この前提は満たされていない。情報理論においては問題の性質に応じて、他にも様々なエントロピーや情報量の指標が提案され、実用されているが、結晶学においては異なる指標を用いた場合の比較はなされていない。一方、核密度分布のように空間内のほとんどの位置でρがゼロであり、原子位置だけにデルタ関数的に密度がある場合にはスパースモデリング(SM)の有用性も報告されている(Tanaka et al., 2019)。SMによる核密度の解析ではC = 0の制約下でρのL1/2ノルムを最小化する。Tanakaらはρが微分不可能な点を含むような真にスパースな問題用のアルゴリズムを用いているが、ρが十分に小さな領域はFにほとんど影響しないので、そのような領域でもρ > 0に制約すれば全域で微分可能になり、通常の勾配法で解くことができる。これはすなわち、S = –Σρ1/2と定義したMEMに等しく、また、SにTsallisエントロピーやRényiエントロピー(係数α = 1/2)を採用した場合と同一の解を与える。
MEM解析プログラムERISに種々のエントロピー指標を実装し、評価したところ、SMは、電子密度データに対して「スパースすぎる」ρを与えるのはもちろんのこと、低温中性子回折データに対してでさえ、非現実的にシャープでデルタ関数的なρを与えた。また、C = 0を満たした後も目的関数Lの勾配を十分に小さくすることができず反復計算が続いたり、計算サイクルを重ねるにごとにρのピーク密度がいつまでも増え続けたりと、解の条件を厳密に満たせないことも少なくなかった。その一方で、ほぼノイズ情報しか含まないρが小さな領域では、相対エントロピーを用いた場合に比べて、ρが狭い桁数の範囲内に収まっており、よりフラットな密度が実現していた。こうした特徴の由来をLの微分値に着目して考察すると、興味深い知見が得られた。Lが最大値をとるとき、∂L/∂ρ = 0であるから、∂S/∂ρ = λ∂C/∂ρ – μであり、右辺はΔF(をσや反射多重度mからなる係数で割ったもの)のフーリエ逆変換に等しい。左辺は従来のMEM(相対エントロピー)ではln(ρ/τ)、SMでは1/ρ1/2に比例する。逆空間で表現すると、∂S/∂ρのフーリエ変換がΔF(に係数のかかったもの)になるよう、フィットされる。SMではρが大きな領域で∂S/∂ρが上限値の0にほぼ張り付くので、ρの変化に無関係になる。これがスパースな解を与える源泉である一方で、ΔFのフーリエ変換が、原子位置において頂上がフラットな台形型の盛り上がりを再現することを要求する。しかし、光学的分解能の制約から、ΔFのフーリエ逆変換でそのような形状を厳密に再現することはできない。これが、SMではしばしば、L最大化の条件を厳密に満足できなかった理由である。一方、相対エントロピーでは、ρの増加とともに∂S/∂ρも対数スケールで単調増加するので、原子位置における∂S/∂ρの高まりは、なだらかな曲線になり、ΔFをフィットできる。この領域では、MEMは対数スケールでのデータ補完として、また、ρの過剰見積を避ける安全装置として働いている。一方、ほぼ誤差情報しか含まないρが小さな領域における∂S/∂ρの振る舞いを見ると、相対エントロピーでは依然としてρの対数に比例するのに対して、SMでは1/ρ1/2に比例するため、この領域ではρのわずかな変化に対して、SMの方がはるかに敏感である。
これらのことから予想される、電子・核密度分布解析に望ましいSの指標は、∂S/∂ρの分布として、原子位置におけるの高まりはなるべく低く(∂S/∂ρの傾きが小さく)、しかし上限値は持たず、ρが低い領域においてはできる限り大きなコントラストを与える(∂S/∂ρの傾きが大きい)ような関数である。そのような特徴を十分に備えたエントロピーは既存の定義の中にはないが、Weighted Jensen-Shannon divergenceの係数パラメーターの自由度を増やすことで実現できる。実際のデータ解析に用いたところ、従来のMEMよりも鋭いピークとフラットでノイズの少ない低密度領域というSM的な特徴を兼ね備えつつ、電子密度のような広がりのある分布にも使えることがわかった。
MEM解析プログラムERISに種々のエントロピー指標を実装し、評価したところ、SMは、電子密度データに対して「スパースすぎる」ρを与えるのはもちろんのこと、低温中性子回折データに対してでさえ、非現実的にシャープでデルタ関数的なρを与えた。また、C = 0を満たした後も目的関数Lの勾配を十分に小さくすることができず反復計算が続いたり、計算サイクルを重ねるにごとにρのピーク密度がいつまでも増え続けたりと、解の条件を厳密に満たせないことも少なくなかった。その一方で、ほぼノイズ情報しか含まないρが小さな領域では、相対エントロピーを用いた場合に比べて、ρが狭い桁数の範囲内に収まっており、よりフラットな密度が実現していた。こうした特徴の由来をLの微分値に着目して考察すると、興味深い知見が得られた。Lが最大値をとるとき、∂L/∂ρ = 0であるから、∂S/∂ρ = λ∂C/∂ρ – μであり、右辺はΔF(をσや反射多重度mからなる係数で割ったもの)のフーリエ逆変換に等しい。左辺は従来のMEM(相対エントロピー)ではln(ρ/τ)、SMでは1/ρ1/2に比例する。逆空間で表現すると、∂S/∂ρのフーリエ変換がΔF(に係数のかかったもの)になるよう、フィットされる。SMではρが大きな領域で∂S/∂ρが上限値の0にほぼ張り付くので、ρの変化に無関係になる。これがスパースな解を与える源泉である一方で、ΔFのフーリエ変換が、原子位置において頂上がフラットな台形型の盛り上がりを再現することを要求する。しかし、光学的分解能の制約から、ΔFのフーリエ逆変換でそのような形状を厳密に再現することはできない。これが、SMではしばしば、L最大化の条件を厳密に満足できなかった理由である。一方、相対エントロピーでは、ρの増加とともに∂S/∂ρも対数スケールで単調増加するので、原子位置における∂S/∂ρの高まりは、なだらかな曲線になり、ΔFをフィットできる。この領域では、MEMは対数スケールでのデータ補完として、また、ρの過剰見積を避ける安全装置として働いている。一方、ほぼ誤差情報しか含まないρが小さな領域における∂S/∂ρの振る舞いを見ると、相対エントロピーでは依然としてρの対数に比例するのに対して、SMでは1/ρ1/2に比例するため、この領域ではρのわずかな変化に対して、SMの方がはるかに敏感である。
これらのことから予想される、電子・核密度分布解析に望ましいSの指標は、∂S/∂ρの分布として、原子位置におけるの高まりはなるべく低く(∂S/∂ρの傾きが小さく)、しかし上限値は持たず、ρが低い領域においてはできる限り大きなコントラストを与える(∂S/∂ρの傾きが大きい)ような関数である。そのような特徴を十分に備えたエントロピーは既存の定義の中にはないが、Weighted Jensen-Shannon divergenceの係数パラメーターの自由度を増やすことで実現できる。実際のデータ解析に用いたところ、従来のMEMよりも鋭いピークとフラットでノイズの少ない低密度領域というSM的な特徴を兼ね備えつつ、電子密度のような広がりのある分布にも使えることがわかった。
