講演情報
[R1P-13]フォトクロミズムを示す含ネオジム釉薬の微細構造と外観特性の関係
*千賀 大雅1、井上 紗綾子2、白勢 洋平1 (1. 愛媛大・院理工、2. 愛媛大・GRC)
キーワード:
陶磁器、ネオジム、釉薬
【緒言】陶磁器は粘土鉱物,石英,長石などを主原料とする素地と,その表面を覆う主にガラス相からなる釉薬で構成される。ネオジムを含有する釉薬を施した陶磁器は,蛍光灯下では青色(Fig.1a),白熱灯や太陽光下では薄藤色(Fig.1b) を呈する。このような光源の種類によって見かけの色が変化する現象は,広義にフォトクロミズムと呼ばれる(Bellows & Clare, 2021)。この現象は,三価ランタノイドイオンが可視光領域に電子遷移に由来する特有の吸収帯を有することに起因し,Nd3+イオンでは約521 nm(緑色領域)および約575 nm(黄色領域)付近に吸収帯が存在する(Binnemans & Görller-Walrand, 1995)。本研究では,含ネオジム釉薬中の微細組織観察により,形成条件の違いが外観特性に及ぼす影響を明らかにする。
【試料・実験手法】本研究では,釉薬調合時に酸化ネオジム(38 mg/g)を添加した既存の陶磁器試料を主対象とし,微細組織観察および組成分析を行った。さらに,構造および組成の違いを比較するため,市販の3号透明釉を基礎釉とし,酸化ネオジムを基準濃度(38 mg/g)および高濃度(83 mg/g)で添加した試料を新たに作製した。試料は800 ℃で素焼きした素地に施釉し,酸化雰囲気下で1240 ℃まで加熱後,26時間かけて冷却した。組織観察および組成分析には,愛媛大学設置のJEOL製走査型電子顕微鏡(SEM; JSM-6510LV)を使用した。また,集束イオンビーム加工により薄膜試料を作製し,走査透過型電子顕微鏡 (STEM; JEM-2100)を用いて微細組織観察を行った。X線回折実験には粉末 X 線回折装置(RIGAKU, Ultima IV)を用いた。
【結果・考察】Ndを添加したすべての試料においてフォトクロミズムが確認された。釉薬中でNdは,主にガラス相中に固溶して存在し,酸化ネオジム結晶としても存在する。酸化ネオジム結晶は直径1 μm以下の中空六角柱状結晶が放射状に集合している。また,少量ではあるが珪灰石などの結晶中に含まれる場合もある。ガラス相は主に透明部からなるが,一部には肉眼では白濁し,偏光顕微鏡下で褐色を呈する乳濁部が局所的に認められた。SEM-EDS分析の結果,平均化学組成(O = 8として計算)は,透明部がNa0.29K0.24Ca0.54Zn0.02Mg0.02Ba0.01Al0.68Nd0.07Ti0.01Si3.00O8,乳濁部はNa0.25K0.20Ca0.68Zn0.07Mg0.05Ba0.03Co0.01Al0.49Nd0.06Si3.06O8で,乳濁部は透明部に比べてCaに富みAlに乏しい組成を示した。
ガラス相についてSTEMによる微細組織観察を行ったところ,NdおよびCaに富む分散相と,Siに富む連続相からなるスピノーダル構造が確認され,いずれも非晶質であった。STEM–EDS分析の結果,透明部における分散相の平均化学組成はK0.07Ca0.93Al0.63Nd0.14Ti0.02Si2.92O8,連続相はK0.24Na0.17Ca0.13Al0.65Nd0.02Si3.33O8であり,乳濁部において分散相はK0.04Ca1.44Al0.37Nd0.17Ti0.04Si2.83O8,連続相はK0.25Ca0.12Al0.73Nd0.02Si3.31O8であり,相間での偏在がより顕著であった。また,透明部では分散相の面積比が約51%で,直径60~120 nm程度の楕円体で分布するのに対し,乳濁部では分散相の面積比は約34 %と低く,100~300 nm程度の楕円体が連結したネットワーク状構造を形成していた。また,2相に由来する周期性は,透明部では150 nm程度であるのに対し,乳濁部では300 nm程度となり粗大化が進行しており,粒径および周期性の増大に伴い散乱が強くなり,肉眼的に白濁して見えると考えられる。
比較試料であるNd高濃度試料では,フォトクロミズムはより顕著であったが,ガラス相中のNd濃度に大きな差は認められなかった。一方,酸化ネオジム結晶の析出量が増加していた。結晶形態としては伸長がやや小さい傾向にあった。これらの結果から,いずれの試料も冷却時にガラス中のNdの固溶の限界に達し,高濃度試料ではより過剰なNdが酸化ネオジムとして晶出し,核形成がより卓越していたと考えられる。
以上より,含ネオジム釉薬では冷却過程における液相分離に伴い,NdはCaに富む分散相へ選択的に濃集するとともに,一部は結晶相として析出することが明らかとなった。これらのNdの分配挙動およびガラス相の微細組織は,フォトクロミズムを含む陶磁器の外観特性を支配する重要な要因であると考えられる。
【試料・実験手法】本研究では,釉薬調合時に酸化ネオジム(38 mg/g)を添加した既存の陶磁器試料を主対象とし,微細組織観察および組成分析を行った。さらに,構造および組成の違いを比較するため,市販の3号透明釉を基礎釉とし,酸化ネオジムを基準濃度(38 mg/g)および高濃度(83 mg/g)で添加した試料を新たに作製した。試料は800 ℃で素焼きした素地に施釉し,酸化雰囲気下で1240 ℃まで加熱後,26時間かけて冷却した。組織観察および組成分析には,愛媛大学設置のJEOL製走査型電子顕微鏡(SEM; JSM-6510LV)を使用した。また,集束イオンビーム加工により薄膜試料を作製し,走査透過型電子顕微鏡 (STEM; JEM-2100)を用いて微細組織観察を行った。X線回折実験には粉末 X 線回折装置(RIGAKU, Ultima IV)を用いた。
【結果・考察】Ndを添加したすべての試料においてフォトクロミズムが確認された。釉薬中でNdは,主にガラス相中に固溶して存在し,酸化ネオジム結晶としても存在する。酸化ネオジム結晶は直径1 μm以下の中空六角柱状結晶が放射状に集合している。また,少量ではあるが珪灰石などの結晶中に含まれる場合もある。ガラス相は主に透明部からなるが,一部には肉眼では白濁し,偏光顕微鏡下で褐色を呈する乳濁部が局所的に認められた。SEM-EDS分析の結果,平均化学組成(O = 8として計算)は,透明部がNa0.29K0.24Ca0.54Zn0.02Mg0.02Ba0.01Al0.68Nd0.07Ti0.01Si3.00O8,乳濁部はNa0.25K0.20Ca0.68Zn0.07Mg0.05Ba0.03Co0.01Al0.49Nd0.06Si3.06O8で,乳濁部は透明部に比べてCaに富みAlに乏しい組成を示した。
ガラス相についてSTEMによる微細組織観察を行ったところ,NdおよびCaに富む分散相と,Siに富む連続相からなるスピノーダル構造が確認され,いずれも非晶質であった。STEM–EDS分析の結果,透明部における分散相の平均化学組成はK0.07Ca0.93Al0.63Nd0.14Ti0.02Si2.92O8,連続相はK0.24Na0.17Ca0.13Al0.65Nd0.02Si3.33O8であり,乳濁部において分散相はK0.04Ca1.44Al0.37Nd0.17Ti0.04Si2.83O8,連続相はK0.25Ca0.12Al0.73Nd0.02Si3.31O8であり,相間での偏在がより顕著であった。また,透明部では分散相の面積比が約51%で,直径60~120 nm程度の楕円体で分布するのに対し,乳濁部では分散相の面積比は約34 %と低く,100~300 nm程度の楕円体が連結したネットワーク状構造を形成していた。また,2相に由来する周期性は,透明部では150 nm程度であるのに対し,乳濁部では300 nm程度となり粗大化が進行しており,粒径および周期性の増大に伴い散乱が強くなり,肉眼的に白濁して見えると考えられる。
比較試料であるNd高濃度試料では,フォトクロミズムはより顕著であったが,ガラス相中のNd濃度に大きな差は認められなかった。一方,酸化ネオジム結晶の析出量が増加していた。結晶形態としては伸長がやや小さい傾向にあった。これらの結果から,いずれの試料も冷却時にガラス中のNdの固溶の限界に達し,高濃度試料ではより過剰なNdが酸化ネオジムとして晶出し,核形成がより卓越していたと考えられる。
以上より,含ネオジム釉薬では冷却過程における液相分離に伴い,NdはCaに富む分散相へ選択的に濃集するとともに,一部は結晶相として析出することが明らかとなった。これらのNdの分配挙動およびガラス相の微細組織は,フォトクロミズムを含む陶磁器の外観特性を支配する重要な要因であると考えられる。

