講演情報
[R2-12]L-アラニン結晶とDL-アラニン結晶の圧縮挙動の違いがもたらす高圧下での溶解度差のメカニズム
*吉岡 美香1、鍵 裕之1、川野 潤2 (1. 東大・院理、2. 北大・院理)
キーワード:
アミノ酸、高圧、溶解度
生命のホモキラリティーの起源は生命科学や地球惑星科学における重要な課題の一つであり、その形成機構について多くの研究が行われている。我々はアミノ酸水溶液系において、常圧ではほぼ同じ溶解度を示すラセミ結晶とエナンチオマー結晶が、高圧下では大きな溶解度差を示すことを見いだし、これがエナンチオマー濃縮の起源となった可能性を提案した。本研究では、この高圧下での溶解度差のメカニズムを明らかにするため、L-アラニン結晶およびDL-アラニン結晶の高圧下における圧縮挙動を比較し、その差異が高圧下での溶解度に及ぼす影響について検討した。
高圧下での粉末X線回折実験により両結晶の状態方程式を決定した結果、L-アラニン結晶はDL-アラニン結晶よりも26%大きな圧縮率を示し、両者の圧縮挙動に明瞭な差が存在することが分かった。高圧下における固液平衡は結晶相と溶液相の化学ポテンシャルの圧力依存性によって決まり、その圧力依存性はモル体積を圧力について積分することで評価できる。こで、実験から得られた状態方程式を用いて熱力学解析を行ったところ、結晶相のモル体積変化のみを考慮することで、実験で観測された高圧下での溶解度差をほぼ定量的に説明できることが分かった。この結果は、L-アラニンとDL-アラニンの高圧下における溶解度差が、両者の結晶相の圧縮挙動の差異と密接に関係していることを示している。このことから、高圧下における溶解度差は主として結晶相の圧縮挙動に支配され、溶液相の寄与は比較的小さいことが示唆された。
そこで、この仮説を検証するとともに、結晶相および溶液相における圧縮挙動の違いを分子レベルで理解するため、L-アラニン結晶、DL-アラニン結晶、およびそれぞれの飽和水溶液について分子動力学(MD)シミュレーションを行った。 シミュレーションにはLAMMPSを用い、アラニンにはGAFF2力場およびAM1-BCC電荷、水にはSPC/E水モデルを適用した。300 Kにおいて、結晶系は0–2.0 GPa、水溶液系は0–1.0 GPaの範囲で圧力を0.2 GPa刻みで変化させ、各圧力で構造最適化を行うことにより、圧力–体積関係を評価した。
結晶のシミュレーションでは、実験で観測されたL-アラニン結晶がDL-アラニン結晶よりも大きな圧縮率を示す傾向を概ね再現することができた。得られた結晶構造の解析から、L-アラニン結晶およびDL-アラニン結晶ともに、分子内構造は加圧によって大きく変化せず、分子形状はほぼ維持されることが分かった。一方、分子間距離の圧力応答には両者で明瞭な違いが認められた。L-アラニン結晶ではすべての分子間距離が加圧に伴い減少したのに対し、DL-アラニン結晶ではL-LおよびD-D分子間距離は減少するものの、L-D分子間距離の変化は小さかった。このことから、DL-アラニン結晶ではL-アラニン分子–D-アラニン分子が形成する相互配列が体積収縮を制限し、両結晶の圧縮挙動の違いを生み出していることが明らかになった。
さらに、水溶液のシミュレーションの結果、L-アラニン水溶液とDL-アラニン水溶液はほぼ同一の圧縮挙動を示した。これは、水分子がアキラルであるため、水溶液中ではL-アラニン分子とD-アラニン分子の局所的な化学環境に大きな違いが生じず、圧力応答にも顕著な差が現れなかったためと考えられる。この結果は、高圧下における溶解度差の主要因が溶液相ではなく結晶相に存在することを支持する。
本研究は、エナンチオマー結晶とラセミ結晶の高圧物性の違いを理解する上で重要な知見を与えるとともに、高圧下におけるエナンチオマー濃縮機構、ひいては生命のホモキラリティーの起源の理解に貢献することが期待される。
高圧下での粉末X線回折実験により両結晶の状態方程式を決定した結果、L-アラニン結晶はDL-アラニン結晶よりも26%大きな圧縮率を示し、両者の圧縮挙動に明瞭な差が存在することが分かった。高圧下における固液平衡は結晶相と溶液相の化学ポテンシャルの圧力依存性によって決まり、その圧力依存性はモル体積を圧力について積分することで評価できる。こで、実験から得られた状態方程式を用いて熱力学解析を行ったところ、結晶相のモル体積変化のみを考慮することで、実験で観測された高圧下での溶解度差をほぼ定量的に説明できることが分かった。この結果は、L-アラニンとDL-アラニンの高圧下における溶解度差が、両者の結晶相の圧縮挙動の差異と密接に関係していることを示している。このことから、高圧下における溶解度差は主として結晶相の圧縮挙動に支配され、溶液相の寄与は比較的小さいことが示唆された。
そこで、この仮説を検証するとともに、結晶相および溶液相における圧縮挙動の違いを分子レベルで理解するため、L-アラニン結晶、DL-アラニン結晶、およびそれぞれの飽和水溶液について分子動力学(MD)シミュレーションを行った。 シミュレーションにはLAMMPSを用い、アラニンにはGAFF2力場およびAM1-BCC電荷、水にはSPC/E水モデルを適用した。300 Kにおいて、結晶系は0–2.0 GPa、水溶液系は0–1.0 GPaの範囲で圧力を0.2 GPa刻みで変化させ、各圧力で構造最適化を行うことにより、圧力–体積関係を評価した。
結晶のシミュレーションでは、実験で観測されたL-アラニン結晶がDL-アラニン結晶よりも大きな圧縮率を示す傾向を概ね再現することができた。得られた結晶構造の解析から、L-アラニン結晶およびDL-アラニン結晶ともに、分子内構造は加圧によって大きく変化せず、分子形状はほぼ維持されることが分かった。一方、分子間距離の圧力応答には両者で明瞭な違いが認められた。L-アラニン結晶ではすべての分子間距離が加圧に伴い減少したのに対し、DL-アラニン結晶ではL-LおよびD-D分子間距離は減少するものの、L-D分子間距離の変化は小さかった。このことから、DL-アラニン結晶ではL-アラニン分子–D-アラニン分子が形成する相互配列が体積収縮を制限し、両結晶の圧縮挙動の違いを生み出していることが明らかになった。
さらに、水溶液のシミュレーションの結果、L-アラニン水溶液とDL-アラニン水溶液はほぼ同一の圧縮挙動を示した。これは、水分子がアキラルであるため、水溶液中ではL-アラニン分子とD-アラニン分子の局所的な化学環境に大きな違いが生じず、圧力応答にも顕著な差が現れなかったためと考えられる。この結果は、高圧下における溶解度差の主要因が溶液相ではなく結晶相に存在することを支持する。
本研究は、エナンチオマー結晶とラセミ結晶の高圧物性の違いを理解する上で重要な知見を与えるとともに、高圧下におけるエナンチオマー濃縮機構、ひいては生命のホモキラリティーの起源の理解に貢献することが期待される。

