講演情報
[R2-13]減衰全反射赤外(ATR-IR)分光法による非晶質炭酸カルシウム(ACC)の含水量の定量分析
*澁谷 心1、鍵 裕之1 (1. 東大・院理)
キーワード:
非晶質炭酸カルシウム、減衰全反射赤外分光法
炭酸カルシウム(CaCO₃)は代表的な生体鉱物であり、様々な結晶多形が存在する。その結晶化過程、特に生体鉱物化の前駆体として非晶質炭酸カルシウム(Amorphous Calcium Carbonate: ACC)の存在が知られている。化学式 CaCO₃・nH₂O(n ≲ 1.5)で表されるACCは、ウニの棘の前駆体やザリガニの胃石などに見いだされている。ACCの結晶化では、ACCの脱水によって放出された水に無水ACCが溶解し、その後に結晶相が析出する溶解–再析出機構が提唱されている(Bots et al., 2012)。また、ACCには構造内に強く結合した水に加えて、結合状態の異なる水分子が存在し、一定の以上の含水量になると結晶化が誘起されることが報告されている(Konrad et al., 2016)。また、含水ACCは約1 GPaの加圧によって結晶化し、その圧力は含水量が多いほど低下することが報告されている(Yoshino et al., 2012)。このように、水はACCの結晶化において極めて重要な役割を担っており、その物性を定量的に議論するためには、含水量を正確かつ迅速に測定する手法の確立が必要である。従来、ACCの含水量は示差熱-熱重量同時分析(TG-DTA)で測定されてきたが、7〜10 mg程度の試料を必要とする破壊測定であり、1回の測定に約1時間を要する。そこで本研究では、3 mg以下の微量な試料に対して非破壊で迅速測定可能な減衰全反射赤外分光法(ATR-IR)に着目し、赤外スペクトルから含水量を定量するための検量線の構築を目的とした。ACC試料は、0.1 MのNa₂CO₃水溶液とCaCl₂水溶液を氷冷下で混合し、迅速に吸引ろ過とアセトン洗浄を行った後、真空デシケーター内で24時間乾燥させて得た。得られた含水ACC試料を200℃の電気炉で10秒から10分間熱処理し、含水量(n)を0.05 ~1.6の範囲で変化させた一連の試料を調製した。熱処理後の各試料について、示差熱-熱重量同時分析(Rigaku社製 TG DTA8122) を行った。赤外吸収スペクトルは、MCT検出器、KBrビームスプリッター、ATR(Specac社製Quest)を搭載したFTIR (Bruker社製 INVENIO R) を用い、分解能 4 cm-1、積算回数100回で測定した。参照スペクトルには空気を用いた。炭酸基の逆対称伸縮振動(ν₃: 1200〜1600 cm⁻¹)に対する水の伸縮振動(ν1, ν3:2600~3600 cm⁻¹)の吸収強度比および面積比を算出し、TG測定で得られた含水量との相関を評価した。さらに、KBr錠剤法による測定結果とも比較した。200℃の加熱処理では、ACCの含水量は加熱開始から約300秒間で連続的に減少し、それに伴って、2600〜3600 cm⁻¹付近の水分子由来の吸収の強度が明確に減少した。炭酸基ピークに対する水の吸収の強度比及び面積比はいずれもTG-DTA測定による含水量と高い相関 (R2 > 0.94)を示したが、面積比(Fig. 1)が強度比よりも良好な直線相関を示した。これは、ACC中の水分子を取り巻く環境の不均一性に起因する不規則なピーク形状の広がりを、面積値がより適切に捉えたためと考えられる。一方、KBr錠剤法では、含水量が高い試料ほど測定値のばらつきが大きくなった。これは錠剤成型時に付加される圧力によるACCの脱水・結晶化、KBr粉末の高い吸湿性が測定誤差の要因となったためと考えられる。 本研究では、ATR法を用いた赤外吸収スペクトルの測定で、3 mg以下の微量試料からACCの水分量を迅速かつ非破壊で定量できる手法を確立した。特に水と炭酸基の吸収バンドの面積比を用いることで、高精度な検量線を構築できることを実証した。将来的には、顕微ATRを組み合わせることにより、空間分解能を付与することも期待できる。

