講演情報

[R2-15]チタン磁鉄鉱の高温での陽イオン分配、室温での構造の歪みとB席位置からのチタンのずれ

*奥寺 浩樹1 (1. 金沢大・理工)

キーワード:

チタン磁鉄鉱、陽イオン分配、構造歪み、電子-フォノン相互作用

チタン磁鉄鉱(Fe3-x-yTixvoidyO4)はフェリ磁性体のため、スピンが反平行になる四配位席(A席)と六配位席(B席)の間での二価鉄と三価鉄の分配がその磁性に強く影響する。その飽和磁化率は全岩の磁性に強く影響するため、二価鉄と三価鉄の分配およびその組成依存性は長く研究されてきた[1-3]。熱力学的な検討から二価鉄と三価鉄の分配は温度に依存することと、急冷後にもその分配が保持されることが示唆されているが[4]、以下の問題も残った。
1: チタンを含まない磁鉄鉱でも二価鉄と三価鉄の分配は温度に依存することが示されているが[5]、上記の検討ではこれを考慮していない。
2: 二価鉄と三価鉄の交換は電子一つ分の移動であり、高温での状態が室温まで保持されるのは直感に反する。実際に磁鉄鉱では高温での二価鉄と三価鉄の分配が急冷で保持されている様子はない[6]。
構造については、熱振動量(原子変位量)が異常に大きいこととB席でのチタンの位置が八面体の中心からずれているであろうことが指摘されている[7]。
そこで、チタン磁鉄鉱単結晶(x = 0.0, 0.026, 0.055, 0.118, 0.292)を浮遊帯域溶融法で育成し、装置内で急冷した後にその構造を単結晶X線回折法で仔細に検討した。試料は溶融帯域直下から採取し、中心部のみを用いた。
試料育成は二酸化炭素雰囲気下で行なった。チタン量の増加に伴う融点の低下によって、陽イオン欠損量とチタン量は協調的に増加した。格子定数は全体として単調増加傾向にあるが、x = 0.0026 で一旦顕著に増加し、x = 0.055 で僅かに減少している。
x の増加に伴う陽イオン-酸素距離(d(A-O) と d(B-O))の変化を見ると、d(A-O) は x = 0.0026 で一旦増加し、x = 0.055 で減少している。d(B-O) は x = 0.055 まで急激に増加している。それ以降の変化はどちらの距離も結合原子価則から導いた距離とAkimotoのモデルとの組み合わせで導いた値に収斂することを示した。融点降下量を考慮すると、x = 0, 0.026 の二試料は Akimoto モデルがほぼ完全に実現している状態から急冷されたこと、0.055 ≤ x の試料ではそこから若干秩序化した状態(Akimoto モデルと Néel-Chevallier モデルの中間)から急冷されたこと、そしてどちらも高温での分配が保持されていることを示している。
チタンの導入による原子変位量の増加はどの方向についても著しい。特に B 席での三回回反軸に沿った変位量も増加しており、これが減少する Fe3-x-yMnxvoidyO4、Fe3-x-yNixvoidyO4 とは対照的であった。これらはTiO6八面体がFeO6八面体より小さいことによる結晶全体に亘る歪みの発生、並びに六配位席を占めるチタンの三回回反軸(あるいはそれに近い向き)に沿った変位の発生を示す。
x ≤ 0.055 までの d(B-O) の急激な増加はどのような陽イオン分配モデルでも説明できないが、一方でこれは磁鉄鉱の特異な性質(高い電気伝導度、低温での絶縁体への転移など)が急速に失われることと整合的である[8]。
[1] Akimoto, S., Katsura, T., Yoshida, M. (1957) J. Geomag. Geoelect., 9, 165-178. [2] Stephenson, A. (1961) Geophys. J. Roy. Astorn.. Soc., 18, 199-210. [3] Kakol, Z. et al. (2012) J. Solid State Chem., 192, 120-126. [4] Bleil, U. (1976) Pageoph., 114, 165-175. [5] Wu, C.C., Mason, T.O. (1981) J. Am. Ceram. Soc., 64, 520-522. [6] Okudera, H. (1997) Z. Kristallogr., 212, 458-461. [7] Diego Gatta, G. et al. (2014) Am. Mineral., 99, 255-260. [8] Brabers, V.A.M., Walz, F., Kronmüller, H. (1998) Phys. Rev. B, 58, 14163-14166.