講演情報
[R2P-09]菱沸石の高圧挙動への圧力媒体の影響
*櫨木 斗我1、飯塚 理子2、中野 智志3 (1. 早稲田大・院、2. 早稲田大、3. 物質・材料研究機構)
キーワード:
菱沸石、圧力媒体、高圧挙動、放射光X線回折
沸石は、SiO4およびAlO4四面体が酸素原子を介して三次元的に連結した結晶性アルミノケイ酸塩であり、ナノスケールの細孔を有する。この細孔内には水分子や陽イオンを保持・交換する性質があり、吸着材やイオン交換体として広く利用されている。また、火星表層の粉塵やクレーター中での存在も示唆されていることから、惑星科学の観点からも注目されている鉱物である。
菱沸石は、4員環を介して二つの6員環が連結した骨格がABC配列で積層する構造を持つ。高圧下での挙動について、水や非貫入性のシリコンオイルを圧力媒体とした研究が報告されている(Kong et al. 2018; Leardini et al. 2013)。しかし、圧力媒体の違いが構造変化やアモルファス化に及ぼす影響については、十分に明らかになっていない。そこで本研究では、複数の圧力媒体を用いて室温高圧下における菱沸石の結晶構造および局所構造の変化を、放射光X線回折(XRD)およびラマン分光により解析し、圧力媒体が高圧挙動に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
試料にはモロッコ産の天然菱沸石を用いた。高圧発生にはダイヤモンドアンビルセルを使用し、室温で加圧・減圧を行った。圧力媒体にはH2O, N2, Ar, メタノールおよびメタノール・エタノール混合溶液(4:1-ME)を用い、圧力はルビー蛍光法により決定した。N2およびArは、物質・材料研究機構(NIMS)にて高圧ガス充填を行った。高エネルギー加速器研究機構PF, BL-18Cにおいて放射光XRDその場観察を行い、高圧下での結晶構造の変化を調べた。また、ラマン分光測定により各振動モードのピーク位置、半値幅および強度の変化から、局所構造の圧力変化を評価した。
H2OおよびN2圧媒体を用いたラマン測定では、T-O-T伸縮振動に対応するピークが6−8 GPaで顕著にブロード化した。フォージャス沸石においても、同様の圧力域で4員環に対応する振動モードのブロード化が報告されている(Isambert et al. 2008)。菱沸石にも4員環が含まれることから、本研究で観測されたブロード化は、4員環を含む局所構造の歪みを反映している可能性がある。
粉末XRD測定では、H2Oを圧力媒体とした場合、加圧に伴い単調に高角側へシフトした。約5−7 GPaから回折ピークの顕著なブロード化が進行し、約9 GPaでほぼ消失した。減圧後も回折ピークは回復せず、不可逆的なアモルファス化が生じたと考えられる。一方、N2では約2.5 GPaまで低角側へシフトし、その後は10 GPa超まで明瞭な回折ピークを保持しながら高角側にシフトした。減圧後には回折ピークが回復し、構造変化は可逆的であることが示された。しかし、単位胞体積の明瞭な膨張は認められなかったことから、N2分子は細孔内へ侵入するものの、格子全体を膨張させることなく異方的な構造変化を引き起こした可能性がある。一方、メタノールおよび4:1-MEでは低角側へのシフトに加え、単位胞体積の膨張も確認されたことから、分子侵入に伴う格子膨張が生じたと考えられる。この違いは、圧力媒体の分子サイズや極性の違いが関係している可能性がある。
以上より、菱沸石では6−8 GPa付近で4員環を含む局所構造の歪みが進行し始めることが示唆された。一方で、その後のアモルファス化圧力や構造変化の可逆性は圧力媒体に強く依存した。H2Oでは比較的低圧で不可逆的な構造の変化が生じたのに対し、N2では高圧まで結晶性が保持され、減圧後にも回折ピークが回復した。またメタノールおよび4:1-MEでは、細孔内への分子侵入に伴う格子の膨張が確認された。これらの結果から、圧力媒体の細孔内への侵入および骨格との相互作用が菱沸石の高圧挙動を支配する重要な要因であることが示された。
参考文献
Kong et al. (2018) American Mineralogist, 103, 207-215
Isambert et al. (2008) Journal of Materials Chemistry, 2008, 5746-5752
Leardini et al. (2013) Microporous and Mesoporous Materials, 2013, 52-61
菱沸石は、4員環を介して二つの6員環が連結した骨格がABC配列で積層する構造を持つ。高圧下での挙動について、水や非貫入性のシリコンオイルを圧力媒体とした研究が報告されている(Kong et al. 2018; Leardini et al. 2013)。しかし、圧力媒体の違いが構造変化やアモルファス化に及ぼす影響については、十分に明らかになっていない。そこで本研究では、複数の圧力媒体を用いて室温高圧下における菱沸石の結晶構造および局所構造の変化を、放射光X線回折(XRD)およびラマン分光により解析し、圧力媒体が高圧挙動に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
試料にはモロッコ産の天然菱沸石を用いた。高圧発生にはダイヤモンドアンビルセルを使用し、室温で加圧・減圧を行った。圧力媒体にはH2O, N2, Ar, メタノールおよびメタノール・エタノール混合溶液(4:1-ME)を用い、圧力はルビー蛍光法により決定した。N2およびArは、物質・材料研究機構(NIMS)にて高圧ガス充填を行った。高エネルギー加速器研究機構PF, BL-18Cにおいて放射光XRDその場観察を行い、高圧下での結晶構造の変化を調べた。また、ラマン分光測定により各振動モードのピーク位置、半値幅および強度の変化から、局所構造の圧力変化を評価した。
H2OおよびN2圧媒体を用いたラマン測定では、T-O-T伸縮振動に対応するピークが6−8 GPaで顕著にブロード化した。フォージャス沸石においても、同様の圧力域で4員環に対応する振動モードのブロード化が報告されている(Isambert et al. 2008)。菱沸石にも4員環が含まれることから、本研究で観測されたブロード化は、4員環を含む局所構造の歪みを反映している可能性がある。
粉末XRD測定では、H2Oを圧力媒体とした場合、加圧に伴い単調に高角側へシフトした。約5−7 GPaから回折ピークの顕著なブロード化が進行し、約9 GPaでほぼ消失した。減圧後も回折ピークは回復せず、不可逆的なアモルファス化が生じたと考えられる。一方、N2では約2.5 GPaまで低角側へシフトし、その後は10 GPa超まで明瞭な回折ピークを保持しながら高角側にシフトした。減圧後には回折ピークが回復し、構造変化は可逆的であることが示された。しかし、単位胞体積の明瞭な膨張は認められなかったことから、N2分子は細孔内へ侵入するものの、格子全体を膨張させることなく異方的な構造変化を引き起こした可能性がある。一方、メタノールおよび4:1-MEでは低角側へのシフトに加え、単位胞体積の膨張も確認されたことから、分子侵入に伴う格子膨張が生じたと考えられる。この違いは、圧力媒体の分子サイズや極性の違いが関係している可能性がある。
以上より、菱沸石では6−8 GPa付近で4員環を含む局所構造の歪みが進行し始めることが示唆された。一方で、その後のアモルファス化圧力や構造変化の可逆性は圧力媒体に強く依存した。H2Oでは比較的低圧で不可逆的な構造の変化が生じたのに対し、N2では高圧まで結晶性が保持され、減圧後にも回折ピークが回復した。またメタノールおよび4:1-MEでは、細孔内への分子侵入に伴う格子の膨張が確認された。これらの結果から、圧力媒体の細孔内への侵入および骨格との相互作用が菱沸石の高圧挙動を支配する重要な要因であることが示された。
参考文献
Kong et al. (2018) American Mineralogist, 103, 207-215
Isambert et al. (2008) Journal of Materials Chemistry, 2008, 5746-5752
Leardini et al. (2013) Microporous and Mesoporous Materials, 2013, 52-61
