講演情報

[R3-01]下部マントル条件におけるオリビンの相転移誘起断層形成:深部スラブの地震性の実験的制約

*本田 陸人1、久保 友明2、宮原 正明3、肥後 祐司4、坪川 祐美子5、後藤 佑太2、柴﨑 裕樹6、鈴木 昭夫7 (1. 京都大・地熱研、2. 九州大・理、3. 広島大・先進理工、4. JASRI、5. 帝京科学大・教育、6. KEK、7. 東北大・理)

キーワード:

深発地震、高圧変形実験、アコースティックエミッション、放射光その場観察、下部マントル

深発地震はマントル遷移層(深さ300-700km, 10-24GPa)まで沈み込んだ冷たいスラブ中で多く起こる。その頻度は遷移層下部に向かって増加する一方、下部マントルでは急減して消失する。深部スラブの地震性は、その主要構成鉱物であるオリビン(ol)の非平衡相転移と関連すると考えられている。特にウォズレアイト(wds)やリングウッダイト(rwd)への発熱反応は地震性の不安定すべりを引き起こすのに対し、吸熱反応であるポストスピネル(post-sp)相転移は下部マントルの非地震性の要因になると考えられてきた(e.g., Ito and Sato, 1991)。我々はこれまで20GPaでの変形‐相転移実験から、rwdへの相転移によるナノ多結晶ラメラ(NPL)の形成、潜熱と摩擦熱、NPLの粒径依存クリープの正のフィードバックにより、塑性変形領域での断層形成が誘起されることを示した(相転移誘起の熱的不安定化メカニズム; Honda et al., 2026)。遷移層浅部条件では異なるメカニズムも提唱されているが、変形・相転移による熱的効果は共通して重要とされている(Ohuchi et al., 2022; Matsuda et al., 2026)。しかし、依然として、遷移層から下部マントルに至るまでの深発地震の頻度分布の変化、下部マントルの非地震性の要因は、系統的に解釈することができていない。本研究では、下部マントル圧力領域までのマントルオリビンの変形‐相転移実験を行ない、深部スラブの地震性の変化のメカニズムに迫った。
 実験にはPF-AR NE7AビームラインのD111型高圧変形装置を用いた。遷移層から下部マントル上部の条件(17-26 GPa、570-1040℃)において、アンビル変位速度300µm/h一定で一軸圧縮変形実験を行なった。変形中は60keV単色X線を用いて2次元X線回折パターンとラジオグラフィを1-5分ごとの時分割で取得し、応力-歪曲線および相転移カイネティクスを推定した。また、不安定化の検出のためにアコースティックエミッション(AE)の測定も併せて行なった。回収試料はSEMでの微細組織観察を行なった。
 AEを伴うせん断不安定化はpost-sp安定領域を含む17-25GPa, 760-860℃の間で起こった。17 GPaでは小規模なAEのみで明瞭な応力降下を伴わなかったのに対し、22, 25 GPaでは2–3 GPaの応力降下と大規模なAEが発生した。これらの回収試料には、いずれも局所変形をもつ、ないしはマクロな割れに沿って発達したrwdのNPLがみられた。25GPaではrwdのNPLに加えて、少量の粒状post-sp相も点在していたが、局所変形とは無関係にみえた。したがって、20GPaでみられた相転移誘起の不安定化プロセスは、rwd安定領域内の他の過剰圧条件に加え、post-sp安定領域内でも、準安定なrwdの生成(e.g., Wang et al., 1997)により同様に作用し、不安定化を誘起すると考えられる。
 これに対して、post-sp安定領域の高温条件(26 GPa, 1040°C)では、変形開始前にrwdへの相転移が約40%進行し、変形中はol-rwd2相での均質変形が卓越した。変形の最終盤ではpost-sp相の回折パターンもみられた。回収試料ではrwdは主に単結晶ラメラ(STL)として存在しており、コロニー状のpost-sp相もみられた。一部ではpost-spコロニーからなるNPLもみられたが、これらはいずれも局所変形を伴わなかった。
 大過剰圧下で顕著な地震性は、相転移誘起の熱的不安定化モデルによって解釈可能で、深発地震の頻度分布も説明する可能性がある。局所化が起こる温度域では、潜熱による局所的温度上昇でNPLの粒径依存クリープが促進され、NPLの応力はオリビンより1桁以上低下する。局所化が開始すると、摩擦熱との熱的な正のフィードバックにより、変形と相転移が加速する。これらの熱的効果を考慮して算出したNPLのせん断ひずみ速度は、生じるrwdの粒径が小さく潜熱の大きい、大過剰圧下の方が大きくなり、実験結果と整合的である。同様の解析を、マリアナスラブでの温度分布、ひずみ速度、断層スケールなどを考慮して行なった。オリビン強度の圧力依存性を考慮すると、準安定オリビンへの応力集中は深さとともに増加する。それにより、過剰圧の増加に伴ってオリビンとNPLとの間の応力コントラストは増大し、より深部で達成されるせん断ひずみ速度が増加する。これは、深発地震が遷移層下部に向かって増加する傾向と整合的である。一方で、下部マントル深さではrwdへの相転移の進行によって準安定オリビンが消失すると推定された。そのため、少なくともマリアナスラブでは、準安定olの準安定rwdへの相転移に伴う不安定化は起こりえず、むしろ高温実験でみられたような均質変形が卓越し、結果として下部マントルスラブの非地震性につながっていると考えられる。