講演情報
[R3-03]高圧高温下における直方輝石の弾性波速度に対する鉄の影響:月および火星上部マントルの鉄含有量への示唆
*井上 義洋1、河野 義生1、Greaux Steeve2、Jing Jiejun3、柿澤 翔4、大平 格5、辻野 典秀4、肥後 祐司4 (1. 関西学院大学、2. 愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター、3. 浙江大学、4. 高輝度光科学研究センター、5. 学習院大学 理学部 化学科)
キーワード:
直方輝石、上部マントル、弾性波速度、密度、高圧
惑星マントル中の鉄含有量を制約することは、惑星の形成・分化過程および熱的・力学的進化を理解する上で重要である。岩石学的研究に基づくマグマオーシャンの結晶化・分化モデルによれば、月および火星の上部マントルは主にかんらん石と直方輝石から構成されると考えられている。一方、月ではアポロ計画、火星ではInSight計画により地震観測データが取得され、それぞれの地震波速度構造モデルが提案されている。そのため、主要構成鉱物であるかんらん石および直方輝石の弾性特性を理解することは、これらマントルの組成を解明する上で重要な制約となる。これまでの弾性波速度測定研究において、かんらん石については、組成・圧力・温度が弾性波速度に与える影響についての研究が多く行われてきた。一方、直方輝石については高圧高温条件下での弾性波速度データが極めて限られており、特に鉄含有量が弾性特性に及ぼす影響や温度依存性は十分に解明されていない。本研究では、鉄含有量の異なる直方輝石((Mg,Fe)SiO₃)多結晶体試料の、高圧高温下における弾性波速度および密度を測定した。実験は大型放射光施設SPring-8のBL04B1ビームラインに設置されたマルチアンビル高圧装置を用いて実施し、圧力最大11.3 GPa、温度最大1300 Kの条件下で、超音波法とその場X線回折法を組み合わせて行った。得られた速度及び密度データはオイラー式有限ひずみの状態方程式により解析され、圧力・温度および鉄含有量に対する弾性特性の依存性を明らかにした。本研究で得られた直方輝石の弾性データと既存のかんらん石の弾性データを組み合わせることにより月および火星の上部マントルにおける地震波速度をモデル化し、アポロ計画およびInSight計画から得られた最新の地震波速度構造モデルとの比較を行った。その結果、月上部マントル(深さ約40–740 km)については、かんらん石および直方輝石の双方に約20 mol.%の鉄を含む組成モデルが、観測される地震波速度および密度構造を最もよく再現することが示された。さらに、同様の手法を火星上部マントルへ適用した結果、かんらん石に24 mol.%, 直方輝石に22 mol.%の鉄を含む組成モデルが、地震学的観測を最もよく再現することが示された。

