講演情報
[R3P-05]加圧過程におけるAl2O3–SiO2ガラスの構造、音速、およびポアソン比の変化
*大平 格1、河野 義生2、Gréaux Steeve3、井上 紗綾子3、近藤 望4、柿澤 翔5、肥後 祐司5、辻野 典秀5、Hrubiak Rostislav6、Shen Guoyin6、増野 敦信7 (1. 学習院大・理・化学、2. 関西学院大学・理・物理・宇宙、3. 愛媛大学・GRC、4. 岡山大学・IPM、5. JASRI、6. アルゴンヌ国立研究所・XSD・HPCAT、7. 京都大学・院工)
キーワード:
Al2O3–SiO2ガラス、高圧、二体分布関数、音速、ポアソン比
Al2O3–SiO2二成分系ガラスは、大気圧下で構成原子が密に充填された酸化物ガラス(Densely packed oxide glass; 以後、DPOガラス)の一つである。この系では、Si4+とAl3+の電荷の差を補償する一価もしくは二価の陽イオンが存在しないため、ネットワーク修飾イオンとして働く高配位(5, 6配位)のAlイオンが存在し、またAlOx多面体は頂点共有だけではなく、稜共有や面共有によっても連結する(e.g., [1] )。このような多様な構造要素を内包するDPOガラスの構造は、地球科学分野で精力的に研究されてきたSiに富むケイ酸塩ガラスなどが持つ、SiO4四面体の頂点共有が支配する三次元的ネットワーク構造とは大きく異なる。そのため、DPOガラスとネットワークガラスでは、圧力が誘起する構造変化プロセスも大きく異なる可能性がある。しかし、DPOガラスの高圧構造変化を観察した例はCaAl2O4ガラスに限られ[2]、アルミノケイ酸塩ガラスを対象とした実験的研究はない。
本研究では、5つのxAl2O3–(100–x)SiO2ガラス試料(x = 29, 36, 43, 50, 60 mol%; 以下、xASと表記)について室温高圧下でXRD測定と音速測定を行い、構造因子S(Q)と二体分布関数g(r)、音速、および音速から計算されるポアソン比の圧力変化を観察した[3]。ガラス試料はレーザ加熱浮遊炉を用いて合成された。なお、この系において中間の3組成(36AS, 43AS, 50AS)は非混和領域に属する[4]。実際に、音速測定から回収した試料についてSTEM-EDS分析を行ったところ、29ASガラスと60ASガラスはナノスケールで均質であった一方、36AS、43AS、および50ASガラスは、Si-rich相およびAl-rich相の二つの相から成るナノスケールの相分離組織を持つことが確認された。本研究では29ASと60ASをそれぞれ化学的に均質なSi-rich端成分相およびAl-rich端成分相とみなし、この二相に対してX線回折測定を行った。
29ASおよび60ASガラスに対する高圧その場XRD測定で得られたS(Q)データから、29ASガラスは、約9 GPaまで緩やかな中距離秩序の変化を経験することがわかった。この漸次的な中距離秩序の変化は、ネットワークガラスの一つであるSiO2ガラスでも観察されている[5]。一方、60ASガラスは7.4–8.4 GPaの間で急激な中距離秩序の変化を示す。またg(r)のデータから、(Al,Si)–O平均配位数の増加がこの圧力条件で開始することが示唆された。約8 GPaで急激な構造変化を経験するという点において、60ASガラスはCaAl2O4ガラスに類似していると言える[2]。
高圧その場音速測定から得られた音速–圧力曲線をみると、60ASガラスではCaAl2O4ガラスと同様に8–10 GPaで速度の急激な増加が見られた。一方、29ASガラスの音速–圧力曲線はSiO2ガラスに類似しており、約5 GPaで速度の極小を迎えた後、少なくとも22 GPaまで音速はほぼ線形に増加した。60ASガラスで観察された速度の急増は、中間組成の36AS、43AS、50ASガラスの音速–圧力曲線でも観察され、ガラス中のAl2O3量、すなわちAl-rich端成分相の存在比の増加に伴って明瞭になっていった。以上より、DPOガラスの構造的特徴を持つAl-rich端成分相が、約8 GPaで進行する急激な構造物性変化を支配していることが明らかとなった。
ポアソン比の圧力変化をみると、Al-rich相の急激な構造変化が完了する11 GPaより高圧では、組成によらず各ガラス試料のポアソン比の差は小さくなっていき、最終的に20 GPaで約0.32という値に収束する。この値は、大気圧下における一部の金属ガラスの値と同等であった(e.g., [6])。この結果は、Al2O3–SiO2系の二つの端成分ガラスは加圧過程において異なる構造変化プロセスを経験するものの、20 GPa以上では共に金属ガラスに似た構造的フレームワークを持つようになることを示している。
References
[1] R. Weber et al. J. Phys. Chem. B 112, 16726–16733, 2008.
[2] I. Ohira et al. Phys. Rev. B 110, 054115, 2024.
[3] I. Ohira et al. Mater. Adv. 7, 5561–5568, 2026.
[4] S. H. Risbud & J. A. Pask. J. Am. Ceram. Soc. 60, 418–424, 1977.
[5] Y. Kono et al. Nat. Commun. 13, 2292, 2022.
[6] T. Rouxel. J. Am. Ceram. Soc. 90, 3019–3039, 2007.
本研究では、5つのxAl2O3–(100–x)SiO2ガラス試料(x = 29, 36, 43, 50, 60 mol%; 以下、xASと表記)について室温高圧下でXRD測定と音速測定を行い、構造因子S(Q)と二体分布関数g(r)、音速、および音速から計算されるポアソン比の圧力変化を観察した[3]。ガラス試料はレーザ加熱浮遊炉を用いて合成された。なお、この系において中間の3組成(36AS, 43AS, 50AS)は非混和領域に属する[4]。実際に、音速測定から回収した試料についてSTEM-EDS分析を行ったところ、29ASガラスと60ASガラスはナノスケールで均質であった一方、36AS、43AS、および50ASガラスは、Si-rich相およびAl-rich相の二つの相から成るナノスケールの相分離組織を持つことが確認された。本研究では29ASと60ASをそれぞれ化学的に均質なSi-rich端成分相およびAl-rich端成分相とみなし、この二相に対してX線回折測定を行った。
29ASおよび60ASガラスに対する高圧その場XRD測定で得られたS(Q)データから、29ASガラスは、約9 GPaまで緩やかな中距離秩序の変化を経験することがわかった。この漸次的な中距離秩序の変化は、ネットワークガラスの一つであるSiO2ガラスでも観察されている[5]。一方、60ASガラスは7.4–8.4 GPaの間で急激な中距離秩序の変化を示す。またg(r)のデータから、(Al,Si)–O平均配位数の増加がこの圧力条件で開始することが示唆された。約8 GPaで急激な構造変化を経験するという点において、60ASガラスはCaAl2O4ガラスに類似していると言える[2]。
高圧その場音速測定から得られた音速–圧力曲線をみると、60ASガラスではCaAl2O4ガラスと同様に8–10 GPaで速度の急激な増加が見られた。一方、29ASガラスの音速–圧力曲線はSiO2ガラスに類似しており、約5 GPaで速度の極小を迎えた後、少なくとも22 GPaまで音速はほぼ線形に増加した。60ASガラスで観察された速度の急増は、中間組成の36AS、43AS、50ASガラスの音速–圧力曲線でも観察され、ガラス中のAl2O3量、すなわちAl-rich端成分相の存在比の増加に伴って明瞭になっていった。以上より、DPOガラスの構造的特徴を持つAl-rich端成分相が、約8 GPaで進行する急激な構造物性変化を支配していることが明らかとなった。
ポアソン比の圧力変化をみると、Al-rich相の急激な構造変化が完了する11 GPaより高圧では、組成によらず各ガラス試料のポアソン比の差は小さくなっていき、最終的に20 GPaで約0.32という値に収束する。この値は、大気圧下における一部の金属ガラスの値と同等であった(e.g., [6])。この結果は、Al2O3–SiO2系の二つの端成分ガラスは加圧過程において異なる構造変化プロセスを経験するものの、20 GPa以上では共に金属ガラスに似た構造的フレームワークを持つようになることを示している。
References
[1] R. Weber et al. J. Phys. Chem. B 112, 16726–16733, 2008.
[2] I. Ohira et al. Phys. Rev. B 110, 054115, 2024.
[3] I. Ohira et al. Mater. Adv. 7, 5561–5568, 2026.
[4] S. H. Risbud & J. A. Pask. J. Am. Ceram. Soc. 60, 418–424, 1977.
[5] Y. Kono et al. Nat. Commun. 13, 2292, 2022.
[6] T. Rouxel. J. Am. Ceram. Soc. 90, 3019–3039, 2007.
