講演情報
[R3P-07]沈み込み帯の高温高圧下における炭化水素の化学反応に対する無機鉱物の影響
*篠崎 彩子1、永井 隆哉1、三村 耕一2 (1. 北海道大学、2. 名古屋大学)
キーワード:
カンラン石、蛇紋岩、炭化水素、高温高圧、沈み込み帯
地球表層から地球深部へと炭素が供給される唯一の領域である沈み込み帯は、全地球規模での炭素循環を理解する上で特に重要な領域である。海洋底堆積物に含まれる有機物は、炭酸塩鉱物と並ぶ重要な炭素のリザーバーと考えられるが、沈み込み帯の高温高圧条件における有機物の挙動には未解明の点が多い。本研究では、堆積物有機物の重要な構成要素であり、沈み込み帯での存在が指摘されている複数の炭化水素を対象に、深さ25 km程度に相当する温度圧力条件での高温高圧実験を行い、特に炭化水素の化学反応に対する共存鉱物の影響に着目して、無機鉱物と有機物双方を対象とした化学分析を行った。高温高圧実験には外熱式ピストンシリンダーを用いた。0.5 GPa・300-400℃において、反応時間を48時間として高温高圧実験を行った。出発物質は炭化水素として、直鎖アルカンのn-ペンタデカン(C15H32以下n-C15)、n-ペンタコサン(C25H52, 以下n-C25)と環状炭化水素のシクロヘキサン(C6H12)、ベンゼン(C6H6)を用いた。岩石・鉱物試料としてかんらん石(San Carlos olivine、forsterite)と蛇紋岩を用いた。炭化水素と岩石・鉱物試料をそれぞれ重量比が約1:4の割合で混合して出発物質として用いた。テフロンもしくは金のカプセルに封入した出発物質を高温高圧下で反応させた後、常温常圧へと回収した。ジクロロメタン溶媒中でカプセルを開封して溶媒に可溶な成分を抽出したのち、メンブレンフィルターを用いて不溶性物質と分離した。可溶性物質はガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)、無機鉱物を含む不溶性物質はラマン分光分析、粉末X線回折(XRD)測定により評価した。 n-C25を出発物質とする実験では、0.5 GPa, 300℃, 320℃において、San Carlos olivine, forsterite, 蛇紋岩と共存する条件では顕著なn-C25の減少とglassy carbonの生成が観察された一方で、短鎖アルカンの生成は観察されなかった。C-C結合のクラッキングが進行するより先にn-C25の脱水素反応が進行することを示している。熱クラッキングに先行するglassy carbonの生成は、石英やコランダム共存下では観察されなかった(Shinozaki 2023, Shinozaki et al., 2025)こと、反応後のXRD測定やラマン分光分析からは出発物質以外の鉱物は観察されなかったことから、かんらん石や蛇紋岩構成鉱物の触媒的な作用によって脱水素反応が促進されたと考えられる。San Carlos olivine共存下におけるglassy carbonの生成は、出発物質がn-C15、n-C25の直鎖炭化水素の場合では進行しやすい。一方で、環状炭化水素のシクロヘキサン、ベンゼンでは明確なglassy carbonのラマンスペクトルが得られなかったことから、炭化水素の分子構造がglassy carbonの生成に影響を与えると考えられる。以上の結果から、沈み込み帯において、石英やコランダムに富む堆積物起源のスラブでは堆積物有機物の脂肪族成分においてC-C結合の熱クラッキングが進行し、低分子の炭化水素が生成しやすいが、かんらん石や蛇紋岩に富む環境では脂肪族成分での脱水素反応が進行しやすいと考えられる。
