講演情報

[R3P-12]410 km不連続面直上付近でのかんらん石の最大含水量の実験的検討

*渡辺 豊生1、川添 貴章1、清水 健二2、牛久保 孝行2、富岡 尚敬2、井上 徹1 (1. 広島大・院先進理工、2. JAMSTEC)

キーワード:

かんらん石、上部マントル、含水量、マルチアンビル

【はじめに】
かんらん石は地球内部の深さ約410 kmまでの上部マントルの主要構成鉱物である。一方、地球内部の深さ約410〜660 kmの領域はマントル遷移層と呼ばれ、多量の水を保持し得る。これらの上部マントルとマントル遷移層の境界は、410 km不連続面である。その直上付近には地震波速度の低速領域が見つかっており、部分溶融層であると解釈されている(Yang & Faccenda, 2022)。この部分溶融層は、水を含んだマントル遷移層の岩石が上部マントルへ上昇し、岩石中の水がかんらん石に溶け込めきれないために形成されたとする含水溶融モデルが提唱されている。そのため、上部マントル深部に相当する高温高圧下においてかんらん石の最大含水量を正確に決定することは、地球内部のマグマ生成と水の運搬におけるかんらん石の役割を明らかにするうえで非常に重要である。高温高圧下におけるかんらん石の含水量は、これまでに複数の先行研究で報告されているが(例えば、Kohlstedt et al. 1996, Smyth et al. 2006)、その値は同じ温度圧力条件でも大きく異なり、最大含水量は約0.89 wt%と報告されている。本研究では、そのばらつきの原因を明らかにし、かんらん石の最大含水量を精密に決定することを目的として、実験的研究を行った。
【手法】
含水かんらん石の高温高圧合成実験は、川井型マルチアンビル高圧発生装置MAPLE600を用いて行った。実験条件は、12 GPa、1100〜1400 ℃、保持時間30分〜6時間とした。出発物質には、Mg₂SiO₄にH₂Oを5 wt%含むようにMg(OH)₂、MgO、SiO₂の粉末を混合して調製した粉末混合体を用いた。出発試料はAuPdカプセルに封入し、1つのセルアセンブリー内に2つのカプセルを封入した。回収した2つのカプセルのうち、1つは鏡面研磨を行った後、走査型電子顕微鏡(SEM)による組織観察およびEPMAによる化学組成分析を行った。このEPMA分析済みの試料は、今後、二次イオン質量分析法(SIMS)分析に用いる予定である。もう1つの試料は、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)分析に用いた。含水量は、EPMA測定におけるトータル欠損値およびFTIR分析により推定した。EPMAでは、本研究が揮発性成分としてH₂Oのみを含む閉鎖系実験であることから、かんらん石のトータル欠損値はH₂O成分に由来すると仮定した。そのため、得られたトータル欠損値に対して、H₂Oによる特性X線の吸収を考慮したEPMA吸収補正(ZAF補正)を施した。FTIR分析では、3100〜3700 cm⁻¹付近の赤外吸収バンドを用いてH₂O量を評価した。スペクトルはOH吸収バンドの外側を基準にスプラインベースライン補正を行い、得られた吸収面積を試料厚さで規格化した。含水量の計算にはPaterson(1982)の較正式を用い、非偏光測定であるため配向係数ξ = 1/3を仮定した。ただし、かんらん石のFTIR含水量は用いる較正式によって大きく変化する。Bell et al.(2003)の較正式を用いた場合、Paterson(1982)の較正式に比べて含水量が約3.5倍高く見積もられることが報告されている。さらに、Koga et al.(2003)では、SIMSによる含水量がBell et al.(2003)の較正式で求めたFTIR値に近いことが示されている。そのため本研究では、まずPaterson(1982)式により含水量を算出し、先行研究との比較ではその値を3.5倍したBell et al.(2003)相当値を用いた。なお、図中のKohlstedt et al.(1996)の含水量はPaterson(1982)の較正式に基づくため、3.5倍した値を示した。一方、Smyth et al.(2006)の含水量はBell et al.(2003)の較正式に基づく値である。
【結果と考察】
本研究の最大含水量は、12 GPa、1250 ℃、30分保持の試料で検出された0.67 wt%であった。本研究では、先行研究と同様に、1250 ℃から1400 ℃への温度上昇に伴ってかんらん石中の含水量が低下した(図)。図では、本研究のFTIR値をBell et al.(2003)相当値として示し、Kohlstedt et al.(1996)およびSmyth et al.(2006)の値と比較した。一方で、本研究の含水量は、先行研究より全体的に低い値を示した。先行研究では主に偏光赤外分光法に基づく較正式を用いて含水量が決定されているのに対し、本研究ではEPMAのトータル欠損値に基づく推定に加え、FTIR分析による含水量評価も行った。EPMAのトータル欠損法はH₂Oを直接測定しないため、補正条件や微小な不均質性の影響を受ける可能性がある。また、FTIRによる含水量も、使用する較正式や測定条件、バックグラウンドの引き方によって値が変化するため、先行研究との絶対値の比較には注意が必要である。本研究と先行研究の差については、先行研究で測定された試料中に含水鉱物や流体の微小包有物が存在していた可能性なども考えられる。今後は、SIMS分析により水素量をより直接的かつ定量的に測定し、EPMAおよびFTIRによって得られた含水量と比較することで、本研究における含水量評価の妥当性を検討する予定である。