講演情報
[R3P-18]高温高圧下におけるhcp-Feおよびfcc-Niへの炭素の取り込み
*北川 朋玖1、鍵 裕之1、高野 将大1、飯塚 理子2、内海 伶那3、齋藤 寛之3、辻野 典秀4、柿澤 翔4、肥後 祐司4 (1. 東大・院理、2. 早稲田大・教育、3. 量子科学技術研究開発機構、4. 高輝度光科学研究センター)
キーワード:
高温高圧実験、X線回折、地球核、軽元素、炭素
地球核は鉄を主成分とするが、その密度は核の温度圧力条件下における純鉄の密度より有意に低く、この密度欠損は軽元素の取り込みによるものと考えられている。太陽系での存在度が最も高い水素は、高圧下で鉄の結晶構造中に侵入し単位胞体積を大きく膨張させ密度を低下させる(e.g., Machida et al, 2019)ことから、軽元素の有力な候補の一つとされている。さらに、Fe―X―H(X=Ni, Si)三元系では、X原子が水素による鉄の単位胞体積の膨張の効果を増大させることが報告されている(Shito et al., 2023; Mori et al., 2024)。先行研究では、高温高圧下で炭素を固溶させた鉄試料を出発物質として高温高圧実験を行い、水素と同様に炭素もhcp鉄の結晶格子中に侵入し、単位胞体積を膨張させることが報告された(Yang et al., 2019; Huang et al., 2022; Lai et al., 2025)。しかし、体積膨張の程度にばらつきがある点や常温の測定に限られている点など、炭素がhcp鉄の単位胞体積に与える効果は不確定な点が多い。本研究では、高圧下で水素による鉄の単位胞体積の膨張に炭素が与える効果を探ることを目標とし、高温高圧下でのFe-C二元系における炭素の挙動を調べた。 本研究では、3種類の異なる出発試料(① Fe+1.5 wt.% graphite混合粉末、② Ni+1.1 wt.% graphite混合粉末、③ Fe+1.5 wt.% graphite混合粉末をアーク溶融した後に急冷して得たペレット)を用いた。アーク溶融はfcc鉄の固溶限界以下の炭素量で行った。高温高圧下X線その場観察は、SPring-8のBL04B1およびKEKのPF-AR, NE7Aで行った。圧力発生には、DIA型ガイドブロックシステムを備えた川井型マルチアンビル装置を用い、X線回折は2θ=6 ºでのエネルギー分散法で測定した。炭素を含む試料と含まない試料を、同一セル内の別々の試料カプセル内に封入し(図1)、同一温度圧力条件下における単位胞体積の比較を行った。6-15 GPa, 300-1000 Kで、炭素の取り込みが単位胞体積へ与える影響の温度・圧力依存性を調べた。実験の結果、①と②を出発物質として用いた実験では、純粋な鉄およびニッケルと比較して有意な単位胞体積の膨張は見られず、結晶格子中の炭素取り込みは認められなかった。③のアーク溶融試料は、SEM-EDS(走査型電子顕微鏡―エネルギー分散型X線分光法)による観察により炭素が均質に分布している様子が観察されたが、X線回折の結果からはFe+Fe3Cの2相が共存していた。これは、常圧下における鉄中の炭素の拡散係数が大きく、メルトからの急冷過程で炭化物が生成したためと考えられる。なお、③を出発物質として用いた実験においても、炭素の導入による鉄の単位胞体積の変化は確認されず、高圧下でFe + Fe3C → Fe-Cの反応による炭素の取り込みは認められなかった。本研究では150 mm程度の比較的大きな粒径の鉄およびニッケル試料を用いたため、粒子中への炭素拡散に時間を要し、実験時間内に炭素の取り込みが十分に進行しなかった可能性がある。一方、高圧下では鉄中の炭素の拡散係数が低下することが知られており、クエンチ時の原子拡散が抑制され、炭化物の生成を伴わずに、炭素が準安定的に固溶した状態で試料を回収できることが期待される。今後は、粒径5 mm程度の鉄微粒子を用いることで炭素拡散に要する時間を短縮し、高温高圧下で炭素を固溶させて鉄試料を作製することを予定している。

