講演情報

[R4-15]pH/イオン濃度可視化手法で観る非化学量論的な鉱物界面反応

*川野 潤1、長谷川 晋一2、南里 隆尭2、三木 康誠2、豊福 高志4、杉浦 悠紀3、永井 隆哉 (1. 北海道大学大学院理学研究院、2. 北海道大学大学院理学院、3. 産業技術総合研究所、4. 海洋研究開発機構)

キーワード:

可視化、pH、溶解、溶媒媒介相転移

はじめに
 地球表層における鉱物の形成や風化のメカニズムと、それらによる環境への影響を解明するためには、鉱物と溶液の反応界面におけるイオンの局所的な挙動を理解することが不可欠である。私たちのグループでは、pHやイオン濃度に応じて蛍光強度が変化する蛍光プローブを用いることで、水溶液中で溶解または成長する結晶周辺のpHおよびイオン濃度分布の変化を可視化することに成功している。この方法で鉱物-溶液界面における複数のイオンの挙動を直接観察することにより、非化学量論的な振る舞いも含めたバルクとは異なる反応の実態を明らかにすることができる。ここでは、炭酸塩鉱物、とくにマグネサイト(MgCO3)の溶解反応と、リン酸カルシウム-水(CaPO4-H2O)系における準安定相から安定相への溶媒媒介相転移について、本手法を用いてその場観察し、イオンの挙動を解析した結果を報告する。
実験手法
 本研究においては、pH指示薬としてHPTS(8-hydroxypyrene-1,3,6-trisulfonic acid)を、Mg2+およびCa2+濃度指示薬としてそれぞれMag-Fluo-4ならびにRhod-5Nを用いた。HPTSおよびRhod-5Nは、それぞれの測定に用いる励起/蛍光波長が異なるため、同時に用いることでpHとCa2+濃度を同時可視化できる。このときHPTSによる蛍光強度はCa2+濃度の違いで変化しないが、Rhod-5Nの強度はpHによって変化するため、それを考慮して検量線を作成する必要がある。これらの試薬を含有する溶液中で反応実験を行い、等時間間隔で蛍光像を撮影して、あらかじめ作成した検量線に従って定量化することにより、pHおよびMg2+もしくはCa2+濃度の時間変化を示す連続画像を得た。
結果と考察
[マグネサイトの溶解] 
 通常、炭酸塩鉱物が溶解すると、放出されるCO32-がH+と反応してHCO3-が生成することにより、pHが上昇するとされている。しかし、{104}面でへき開したマグネサイトの溶解時のpHを本手法により可視化すると、界面付近のpHは、初期pHが6程度の溶液中では上昇するものの、初期pHが7.5以上になると低下することが観察された。これは、マグネサイト表面の錯体構造がpHに依存して変化することによるものと考えられる。すなわち溶解による界面でのpH変化は、バルクの反応式のみからでは十分に理解できないことを示している。
[リン酸カルシウムの溶媒媒介相転移]
 本可視化手法を用いて、CaPO4-H2O系の準安定相であるリン酸八カルシウム(OCP:Ca8(HPO4)2(PO4)4·5H2O)から、常温常圧における安定相である水酸アパタイト(HAP::Ca10(PO4)6(OH)2)への溶媒媒介相転移が起こる様子を観察した。これらの多結晶体を一定距離離して溶液中に置き、両者の間のpHおよびCa2+濃度分布を同時可視化したところ、pHはOCP側が高いが、Ca2+濃度はHAP側の方が高くなり、カルシウムとリン酸イオンが逆方向に移動していることを示す条件が存在することが明らかになった。通常、水溶液中における反応は、イオン濃度の積である平衡定数を基準として理解されるが、本研究の結果は、反応の詳細な理解には、それぞれのイオンの挙動を明らかにすることが必要であると考えられる。
 以上の結果は、本可視化手法が水溶液中における鉱物/溶液界面でのイオンの振る舞いを解析するのに有効であることを示しており、さまざまな系に適用することにより、非化学量論的な反応を含む固液界面現象の新たな描像を得ることが可能となると期待できる。