講演情報

[R4P-06]深部超苦鉄質岩中の金雲母のFe酸化還元状態:岩石内微生物との相関

*城戸 太朗1,2、幸塚 麻里子1,2、菅 大暉3,2、伊奈 稔哲3、河合 敬宏3、脇田 高徳3、金子 拓真3、宇留賀 朋哉2,3、大浦 正樹2、鈴木 庸平1,2 (1. 東京大学、2. 理化学研究所放射光科学研究センター、3. 公益財団法人 高輝度光科学研究センター)

キーワード:

XANES、輝岩、カンラン岩、微生物、ICDP

地下深部の環境は大気中の酸素から隔離されており、還元的な環境である (Beaver et al, 2024)。このような環境では、水-岩石反応によって生成される水素やメタンなどの還元的化学種が、地下微生物生態系を支える電子供与体となり得る (Onstott et al., 2019)。このような地下深部環境には地球上の微生物バイオマスの8割が分布していると考えられている (Bar-on et al., 2018)。この微生物の代謝には、電子供与体に加え電子受容体も必要であるが、深部超苦鉄質岩中においてどのような酸化剤がどの鉱物相に存在し、岩石内微生物の分布とどのように関係するのかは十分に明らかになっていない。そこで本研究では、国際陸上科学掘削計画 (ICDP)で採取された地下深部超苦鉄質岩を対象に、鉄を含む鉱物中のFeの酸化還元状態を分析し、岩石内部の微生物細胞との空間的相関を明らかにすることを目的とした。
本研究では、約20億年前に形成した南アフリカ・ブッシュフェルト複合岩体の地下814 mから採取された掘削コアを用いた (Allwright et al., 2025)。Feの酸化還元状態は、SPring-8 BL36XUの硬X線顕微鏡によるFe K-edge XANESで調べた。また、岩石内の微生物シグナルは、NanoTerasu BL13Uの軟X線顕微鏡によるN K-edge XANESで調べ、Fe酸化還元状態との空間的対応を明らかにした。掘削コアは、大気中の酸素による酸化を避けるため、掘削後すぐに脱酸素剤とともに真空下で冷凍保存し、大気曝露の影響を最小限に抑えた。分析試料はAr雰囲気のグローブボックス内でダイヤモンドワイヤーソーを用いて岩片化し、He雰囲気の試料ホルダー内に固定した状態でFe K-edge XANESスペクトルの取得を試みた。また、分析対象鉱物の同定は、粉末X線回折法(XRD)、環境制御型電子顕微鏡(ESEM-EDS)、およびSPring-8 BL17SUの軟X線顕微鏡によるAl K-edge XANESスペクトルの比較により行った。
その結果、地下814 mの輝岩試料のXRDパターンには10 Å付近のピークが認められた。また、岩片のEDS分析ではMg、Al、Si、K、Feに富む鉱物相が確認され、金雲母の存在が示された。大気非曝露条件で作製した岩片中の金雲母粒子についてFe K-edge XANESスペクトルを取得し、Fe(II)の標準物質であるFeCl2およびFe(III)の標準物質であるノントロナイト(NAu-2)と比較した。その結果、金雲母の縁辺部ではFe(III)に富むスペクトルが認められた一方、周囲の輝石はよりFe(II)に富むスペクトルを示した。また、Fe(III)に富む金雲母縁辺部からは、培養大腸菌細胞と類似したN K-edge XANESスペクトルが検出されたが、Fe(II)に富む輝石からは同様のスペクトルは検出されなかった。
金雲母中で観察されたFe(III)は、1)大気曝露による酸化、2)熱水変質、3)脱水素反応、のいずれかによって形成した可能性がある。本研究では、大気曝露の影響を最小限に抑えた試料処理を行っていること、またFe(III)を含む領域が金雲母粒子に局在し、特に中心部でFe(III)に富むことから、大気酸化や熱水変質で説明することは難しい。したがって、金雲母中のFe(III)は、マグマ冷却期における脱水素反応によって形成した可能性がある。三八面体型雲母では、加熱に伴い以下の反応によりFe(II)がFe(III)へ酸化され、水素が生成することが報告されている(Zema et al., 2010)。[Fe²⁺ + OH⁻]phlogopite → [Fe³⁺ + O²⁻]phlogopite + 1/2H₂ ブッシュフェルト複合岩体におけるマグマ冷却期は、岩体形成後の数1000万年継続したと考えられている (Scotes et al., 2021)。そのため、本研究で観察された金雲母中のFe(III)は、約20億年前の火成活動に関連して形成し、酸化的鉱物相として保存されていた可能性がある。Fe(III)に富む金雲母縁辺部と微生物シグナルが空間的に対応することは、深部超苦鉄質岩中において、金雲母が電子受容体候補となるFe(III)を保持し、岩石内微生物の局所的な生息場を形成した可能性を示唆する。