講演情報
[R5-12]GEMS模擬物質を用いた水質変成実験:リュウグウ・ベンヌ母天体における水質変成の理解に向けて
*土`山 明1,2、Xian Haiyang2、Sun Mingqi2、Ding Xing2、延寿 里美3、Xu Yuan2、Xiao Yao2、Chen Shengdong2、Lin Jiarui2、Zhang Miaomiao2、Zhao Chenyi2、音野 樹里香4、松本 恵5、松野 淳也6、橘 省吾4 (1. 立命館大・総研、2. 広州地球化学研究所、3. 愛媛大・理、4. 東京大・院理、5. 東北大・院理、6. 京都大・化研)
キーワード:
炭酸塩ーフィロ珪酸塩相互作用、非晶質珪酸塩、有機物、酸化還元条件、CI コンドライト
はやぶさ2およびOSIRIS-RExミッションによって小惑星リュウグウおよびベンヌから回収された試料の分析により、これらの物質はIvuna型(CI)炭素質コンドライトに類似することが示された(e.g. [1,2])。試料の大部分は大規模な水質変成を受けており、主に層状ケイ酸塩(蛇紋石・サポナイト)に富むマトリクスからなり、磁鉄鉱、磁硫鉄鉱、炭酸塩鉱物(方解石、ドロマイト、マグネサイト)を含む。一方、これらの試料には、少量ながら、ほとんど水質変成を受けていない非晶質ケイ酸塩を主体とする多孔質粒子も存在する[1,3]。これらは彗星塵や始原的炭素質コンドライトマトリクスに類似し、リュウグウ・ベンヌ母天体における水質変成前のprotolithである可能性が高い[3]。したがって、GEMS(glass with embedded metal and sulfides)またはGEMS様物質と有機物・氷の混合物が集積して母天体を形成し、その内部で氷の融解により生じた液体の水との反応により水質変成が進行したと考えられる[4]。
このような水質変成過程を理解するため、本研究ではGEMS類似物質を用いた水質変成実験を行った。GEMS類似物質は、CI組成(一部は平均GEMS組成)をもつ物質を誘導熱プラズマ(ITP)炉内で蒸発させ、高温ガスから凝縮させることにより合成した。生成物はFeSおよび(Fe,Ni)ナノ粒子を含む球状の非晶質ケイ酸塩粒子(数百 nm程度)からなり、天然GEMSの構成物質、組織、粒子サイズによく類似する。約20–30 mgのGEMS類似物質を純水(水/岩石質量比=5)とともに金カプセルまたはテフロン容器に封入し、200℃で約2か月反応させた。一部の実験では、有機成分として模擬分子雲有機物[5]またはヘキサメチレンテトラミン(HMT: C₆H₁₂N₄)を、炭素源として重炭酸アンモニウムを添加した。実験生成物はXRD、Raman、SEM/EDS、TEM/EDSで分析した。
実験では、非晶質ケイ酸塩から低結晶性層状ケイ酸塩(M-S-H)が生成した。テフロン容器を用いた実験では赤鉄鉱と硬石膏が形成された。これは、Feと水との反応で生じたH₂ガスが容器外へ逃散し(H₂Oは保持)、その結果、FeおよびSの酸化反応が最終段階まで進行したことを示す。このような酸化的鉱物組み合わせはリュウグウ・ベンヌ試料では観察されず、母天体内での水質変成時には相当量のH₂ガスが保持されていたことが示唆される。一方、H₂が逃散しない密封金カプセル実験では、層状ケイ酸塩に加え、磁鉄鉱、磁硫鉄鉱を含むFe(-Ni)硫化物、炭酸塩鉱物(方解石、ドロマイト、マグネサイト)など、リュウグウ・ベンヌ試料で観察される鉱物が生成し、実際の水質変成作用をよく再現した。CO₂量の増加に伴い、炭酸塩鉱物はCa炭酸塩からドロマイト、マグネサイトへとMgに富むようになり、これに対応して蛇紋石に対するサポナイトの存在量が増加した。非晶質ケイ酸塩中のCaにより最初にCa炭酸塩(おそらく方解石)が析出し、CO2量がCa量を越えると、Mgに富む炭酸塩が析出したと考えられる。サポナイトは蛇紋石よりMg/Si比が低いため、この炭酸塩生成シークエンスが層状ケイ酸塩の種類に影響したと考えられ、ベンヌ試料の分析結果[6]とも整合的である。
実験生成物には、リュウグウ・ベンヌ試料で観察されるものに類似した空隙率の異なる2種類のマトリクスが含まれていた。これらの組織は出発物質の組織を反映しており、リュウグウ試料中のマトリクスが母天体の初期集積組織を保存している可能性を示す。木苺状磁鉄鉱に類似した集合体も生成したが、構成結晶面({111})は天然試料と異なり、また天然試料にみられる多様な磁鉄鉱形態も本実験では再現されなかった。
[1] Nakamura et al. (2023) Sci. 379: eabn8671. [2] Lauretta et al. (2024) MAPS 59:2453. [3] Matsumoto et al. submitted to Nat. Commun. [4] Tsuchiyama et al. (2024) GCA 375:146. [5] Nakano et al. (2003) ApJ 592:1252. [6] Tsuchiyama et al. (2025) Workshop on Bennu and Ryugu:Samples from the Early Solar System, abstract.
このような水質変成過程を理解するため、本研究ではGEMS類似物質を用いた水質変成実験を行った。GEMS類似物質は、CI組成(一部は平均GEMS組成)をもつ物質を誘導熱プラズマ(ITP)炉内で蒸発させ、高温ガスから凝縮させることにより合成した。生成物はFeSおよび(Fe,Ni)ナノ粒子を含む球状の非晶質ケイ酸塩粒子(数百 nm程度)からなり、天然GEMSの構成物質、組織、粒子サイズによく類似する。約20–30 mgのGEMS類似物質を純水(水/岩石質量比=5)とともに金カプセルまたはテフロン容器に封入し、200℃で約2か月反応させた。一部の実験では、有機成分として模擬分子雲有機物[5]またはヘキサメチレンテトラミン(HMT: C₆H₁₂N₄)を、炭素源として重炭酸アンモニウムを添加した。実験生成物はXRD、Raman、SEM/EDS、TEM/EDSで分析した。
実験では、非晶質ケイ酸塩から低結晶性層状ケイ酸塩(M-S-H)が生成した。テフロン容器を用いた実験では赤鉄鉱と硬石膏が形成された。これは、Feと水との反応で生じたH₂ガスが容器外へ逃散し(H₂Oは保持)、その結果、FeおよびSの酸化反応が最終段階まで進行したことを示す。このような酸化的鉱物組み合わせはリュウグウ・ベンヌ試料では観察されず、母天体内での水質変成時には相当量のH₂ガスが保持されていたことが示唆される。一方、H₂が逃散しない密封金カプセル実験では、層状ケイ酸塩に加え、磁鉄鉱、磁硫鉄鉱を含むFe(-Ni)硫化物、炭酸塩鉱物(方解石、ドロマイト、マグネサイト)など、リュウグウ・ベンヌ試料で観察される鉱物が生成し、実際の水質変成作用をよく再現した。CO₂量の増加に伴い、炭酸塩鉱物はCa炭酸塩からドロマイト、マグネサイトへとMgに富むようになり、これに対応して蛇紋石に対するサポナイトの存在量が増加した。非晶質ケイ酸塩中のCaにより最初にCa炭酸塩(おそらく方解石)が析出し、CO2量がCa量を越えると、Mgに富む炭酸塩が析出したと考えられる。サポナイトは蛇紋石よりMg/Si比が低いため、この炭酸塩生成シークエンスが層状ケイ酸塩の種類に影響したと考えられ、ベンヌ試料の分析結果[6]とも整合的である。
実験生成物には、リュウグウ・ベンヌ試料で観察されるものに類似した空隙率の異なる2種類のマトリクスが含まれていた。これらの組織は出発物質の組織を反映しており、リュウグウ試料中のマトリクスが母天体の初期集積組織を保存している可能性を示す。木苺状磁鉄鉱に類似した集合体も生成したが、構成結晶面({111})は天然試料と異なり、また天然試料にみられる多様な磁鉄鉱形態も本実験では再現されなかった。
[1] Nakamura et al. (2023) Sci. 379: eabn8671. [2] Lauretta et al. (2024) MAPS 59:2453. [3] Matsumoto et al. submitted to Nat. Commun. [4] Tsuchiyama et al. (2024) GCA 375:146. [5] Nakano et al. (2003) ApJ 592:1252. [6] Tsuchiyama et al. (2025) Workshop on Bennu and Ryugu:Samples from the Early Solar System, abstract.
