講演情報

[R5-18]Naを含む前駆物質の溶融によるCAI形成

*川﨑 教行1、山本 大貴2、坂本 直哉1 (1. 北海道大学、2. 九州大学)

キーワード:

CAI、コンドライト、部分溶融、イオンイメージング、二次イオン質量分析法

隕石に含まれる太陽系最古の岩石CAI(Ca-Al-rich inclusion)は,太陽組成の化学系における高温凝縮物に由来する(e.g., Grossman, 1972)。溶融を経験したType B CAIのメリライトにおけるNa含有量から,CAIの前駆物質(凝縮物の集合体)が溶融したメルトには,Naが含まれていた可能性が提唱されている(MacPherson & Davis, 1993; Simon et al., 2005)。一方で,Type B CAIの溶融時には,MgとSiの蒸発が起きていたとされる(山本ら@本セッション)。そのため,Type B CAIにおけるNaの挙動を明らかにすることは,CAI前駆物質の形成から溶融・蒸発に至る一連のプロセスの理解に重要である。しかし,上述の先行研究における電子線分析では,検出感度および空間分解能が不足しており,隕石母天体上の交代変成に伴うNa流入を除外できず,明確な制約は得られていなかった。本研究では,二次イオン質量分析法(SIMS)を用いたイオンイメージングにより,Type B CAIのメリライトにおけるNaの空間分布を明らかにし,メリライト結晶成長中のNa量変化と二次プロセスの影響を考察した。

イオンイメージングは,北海道大学のSIMS(Cameca ims-1270e7)と二次元イオン検出器(SCAPS)を用いて実施した。高感度分析のため,130 nAの16O−高電流一次イオンビームを用い(e.g., Sakamoto et al., 2026),サブミクロン空間分解能で23Na+などのイオン投影像を取得した。Na2O量が既知の合成メリライトガラス(Kawasaki et al., 2021a)を標準試料として,23Na+/40Ca+比からCAIメリライトのNa2O量を求めた。

サンプルには,Golfballと名付けられたアエンデ隕石のType B CAI(e.g., Simon et al., 2005; Kawasaki et al., 2021b)を用いた。Golfballは典型的なType B CAIと同様のバルク化学組成をもつが,ファッサイトに富むマントルとメリライトに富むコア部から成る特異な組織を示す。コア部の塊状メリライト結晶(~20−50 μm)の中心部には,Alに富む粒子(Åk5−15)が頻繁に見られ,それらは正累帯構造を示すメリライトのオーバーグロース(Åk30−70)に囲まれている。Alに富むメリライト粒子は,Golfball全体またはコア部の化学組成をもつメルトから晶出しない組成であり,周囲のオーバーグロースとの組成(Åk値)変化も不連続であることから,後の部分溶融プロセスを生き残った溶け残りであると考えられる(Simon et al., 2005; Kawasaki et al., 2021b)。

塊状メリライト結晶のNaイオン像を取得した。メリライトのオーバーグロースにおいてNa2O量は,Åk値の増加に伴い,約200 ppmw(~Åk35)から約1400 ppmw(~Åk70)まで連続的に変化していた。溶け残り部分のNa2O量は約50 ppmwであり,Åk値と同様に,Na2O量もオーバーグロースとは不連続に変化していた。一方で,二次鉱物(ネフェリンやグロッシュラーなど)を含むベインではNa2O量は3000 ppmwを上回った。これらのベインはメリライトのオーバーグロースや低Na濃度を示す溶け残り部分を横切って存在するが,ベイン周囲のメリライトへのNaの流入は1 µm以下に限られていた。そのため,アエンデ隕石母天体上の交代変成に伴うNa拡散によってメリライト結晶 (~20−50 mm)中のNa分布が形成されたとは考えにくく,オーバーグロース中のNa2O量の変化は結晶成長時の化学ゾーニングを反映していることを示唆する。

Beckett and Stolper(2000)により実験的に求められたメリライトとメルトのNa分配係数を用いると,メリライトのオーバーグロース中のメルトには,数百ppmwオーダーのNa2Oが含まれていたと見積もられる。このNa量は,Ab成分を数%含むアノーサイト質斜長石が前駆物質中に数 wt%程度含まれることで説明可能である。MacPherson & Petaev(2025)の熱力学計算によると,太陽組成ガスからはフォルステライトよりもアノーサイトがわずかながら高温で凝縮する。斜長石に少量のAb成分が取り込まれ得ること(Yoneda & Grossman, 1995)を踏まえると,Golfball CAIのNa分布は,フォルステライトに富む凝縮相が主要成分として加わる前に,Naを含むアノーサイト質斜長石がType B CAI前駆物質へ取り込まれていた可能性を示唆する。