講演情報

[R5-20]低圧環境下でのCAIメルト蒸発結晶化実験から制約されるType B CAI前駆物質と形成環境

*山本 大貴1、上林 海ちる2、川﨑 教行3、鶴岡 靖朗2、橘 省吾2、圦本 尚義3 (1. 九州大学、2. 東京大学、3. 北海道大学)

キーワード:

難揮発性包有物 (CAI)、火成CAI、メルト蒸発、結晶化、原始太陽系円盤

太陽系形成最初期に形成された揮発性包有物 (Ca-Al-rich inclusions; CAIs) のうち、火成CAIは、溶融時に原始太陽系円盤中の水素に富む低圧ガス環境下において、メルトからのMgおよびSiの蒸発を経験したと考えられる (e.g., Clayton et al., 1988; Richter et al., 2002; Mendybaev et al., 2006, 2013; Kamibayashi et al., 2021)。火成組織を持つType B CAIは、外縁に連続したメリライトマントルをもつType B1と、メリライトマントルを持たないType B2に分類される。Kamibayashi et al. (2021) では、Type B CAIの前駆物質組成の一つとして考えられるχ組成 (Grossman et al., 2002) を模した出発物質組成 (CAIχ) を用いて低圧水素ガス圧力 (PH2) 環境下での蒸発結晶化実験をおこなった。その結果、PH2 ~1 Paを境界として高PH2側でType B1様組織、低PH2側でType B2様組織が形成されることから、PH2の違いが両者の組織的差異をもたらした可能性を指摘している。一方で、この組織的差異は各サブタイプ間の前駆物質組成の違いを反映している可能性も指摘されている (e.g., Simon & Grossman, 2006)。本研究では再溶融時のPH2条件および前駆物質組成の違いが、Type B CAI各サブタイプ間の組織的・組成的違いにどのように反映されるかを検証し、太陽系形成最初期の物質進化過程を制約することを目的として、CAIχ組成とは異なる前駆物質候補組成を用いた低PH2環境下での蒸発結晶化実験を実施した。
出発物質には、CAIχ組成に対してよりMg・Siに富む前駆物質候補組成 (δ組成; Grossman et al., 2002) を模した出発物質組成 (CAIδ) を用いた。蒸発結晶化実験には、H2ガス供給系を備えた真空高温加熱炉 (e.g., Kamibayashi et al., 2021) を用い、PH2 = 0.1, 1, 10 Paの環境下で、典型的なType B CAIの最高経験温度である1420°Cで1時間加熱した後、一定の冷却速度 (Rc = 5, 50°C h–1) で冷却した。加熱後物質は、電子顕微鏡 (SEM-EDS, EPMA-WDS) での組織観察および元素分析をおこなった。
PH2 = 0.1 Paでは、冷却速度によらず粗粒なメリライトが試料全体にランダムに晶出し、Type B2様組織を示した。PH2 = 10 Paでは冷却速度によらず連続したメリライトマントルが形成された。PH2 = 1 Paでは、Rc = 5°C h−1で完全なメリライトマントルが、Rc = 50°C h−1では不完全なメリライトマントルが観察された。これらの結果は、CAIχ組成を用いた実験結果と整合的であり、各サブタイプの組織的差異をもたらす遷移PH2条件は前駆組成に大きく依存しないことが明らかとなった。またこのことは、各サブタイプ間の組織的差異には溶融時のPH2条件の違いが重要な役割を果たすことを示している。得られたバルク組成およびメリライトの組成分布を天然Type B CAIと比較した結果、Type B1 CAIはCAIχあるいはCAIδ組成に近い前駆物質から比較的高いPH2条件下で、Type B2 CAIはCAIδ組成またはさらにSiO2に富む前駆物質から比較的低いPH2条件で形成されたことが示唆される。
平衡凝縮理論 (e.g., Grossman et al., 2000, 2008) では、Type B CAIの前駆物質組成は、全圧および温度の低下に伴ってSiO2に富むことが示されている。したがって、原始太陽系円盤の温度圧力分布を考慮すると、円盤外側に向かうにつれて前駆体となった凝縮物はType B1 CAIを形成するような組成からType B2を形成するような組成へと変化したと考えられる。このような場合、Type B1 CAIは太陽に近い比較的高全圧領域において、比較的高温で凝縮した前駆物質を起源として形成され、一方、Type B2 CAIは太陽からより遠い比較的低全圧領域において、比較的低温で凝縮した前駆物質を起源として形成された可能性がある。このように、Type B1・B2 CAIの組織的・組成的違いが、原始太陽系円盤における全圧の動径方向の違いと、それに対応した前駆物質組成の違いを反映している可能性が示唆される。