講演情報

[R5P-09]ALH 78019ユレイライト中グラファイトの研磨ダメージとラマンスペクトルに対する影響:放射光ナノCTによる表面下組織変化の直接観察

*安武 正展1、松本 恵2、松野 淳也3、𡈽山 明4、上杉 健太朗1、竹内 晃久1、山口 亮5 (1. 高輝度光科学研究センター、2. 東北大学、3. 京都大学、4. 立命館大学、5. 国立極地研究所)

キーワード:

放射光CT、ユレイライト隕石、グラファイト、ラマン分光

はじめに:ユレイライト隕石は分化隕石の一種であり、グラファイトやダイヤモンドを比較的多量に含む。ラマン分光法による表面分析は炭素質物質の分析に広く用いられており、ユレイライト中炭素同素体を区別する方法として一般的である。先行研究により得られているユレイライト中グラファイトのラマンスペクトルは、グラファイト特有ピークであるGバンドピークに加え、結晶欠陥や結晶微細化に由来するDバンドピークの両方を示すことが多い[1, 2など]。これらのピークの特徴は地質背景を推測するための指標となることがある。ユレイライトは破滅的な母天体破壊を経験しており、Dバンドピークの発達は衝撃に関連する可能性も指摘されている[3]。 一方で、機械研磨ダメージによりDバンドピークが生じることが報告されており[4]、同様の指摘はユレイライト中グラファイトにおいても見られる[1, 3など]。しかし、その詳細や衝撃変成作用との関係性は不明である。本研究では、ユレイライト隕石中グラファイトのラマンスペクトルと、放射光X線CTにより得られた高分解能3次元像からグラファイト表面ダメージがラマンスペクトルへ与える影響について検討した。試料と分析手法:本研究では、国立極地研究所より貸与されたALH 78019(以下ALH)を用いた。薄片表面はダイヤモンドペーストにより鏡面研磨仕上げされている。試料の岩石学的特徴とグラファイト分布は、国立極地研究所およびSPring-8にて行った光学顕微鏡観察とSEM観察により明らかにした。一部のグラファイトはEDSにより組成分析を行った。その後、顕微レーザーラマン分光計を用いてグラファイト表面からラマンスペクトルを得た。分析用レーザーは波長532 nm、134 mW出力である。分析には1%強度に減弱して用いた。分析には50倍対物レンズを使用し、約10 μmのビームサイズにした。その後、プラズマFIB-SEMを用いて30 μm程度の微小試料に加工した。作製した微小試料は、SPring-8のBL47XUにて放射光ナノCT撮影を行い3次元構造を確認した。結果と考察:分析したALHは主にカンラン石(48.6%)と輝石(39.1%)からなる。これらの鉱物にモザイク化は観察されず、強い衝撃変成作用は受けていないことが推測される。グラファイトは薄片全体に分布しており(5.7%)、ブレード状もしくは板状結晶として産する。ほぼすべてのグラファイトは鉄質物質と共存していた。鉄質物質は主にトロイライトと風化物と思われる酸化/水酸化鉄であり一部はグラファイトを包有している。グラファイトのラマン分光分析の結果、すべてのスペクトルはGバンドピークに加えDバンドピークを示す(図1)。スペクトル形状は産状との関連性がなく、いずれも同様である。 3次元観察の結果、グラファイトには劈開に由来すると思われる面構造が確認され、その構造が屈曲したキンクも確認され、鉄質物質を伴う例も確認される。加工によって鉄質物質がグラファイトと共に屈曲されるとは考えにくく、これらは本来の組織であると推測される。一方で、全体が微細多結晶化した組織は観察されなかった。これらのことから、ALH中グラファイトは微細化を起こすような応力ではなく、キンクのみ生成するような弱い応力を受けたものと思われる。 一方で、薄片表面とガラス接着面付近では構造が大きく乱れていることが確認された。最表層部分ではクラックが多数導入され微細構造を形成しており、中央の構造と大きく異なる。この表面微細化層は最大2 μm程度の厚みを持つ。532 nm波長レーザーに対するグラファイトの減衰距離(1/e)は200 nm程度である[5]。そのため、薄片表面から得られるラマンスペクトルは表面微細化層に由来するものである。すなわち、本研究で得られたALH中グラファイトDバンドピークは、衝撃によるものはなく研磨アーティファクトであると推測される。 Nagashima et al. (2012)では、薄片試料がユレイライト中グラファイトのラマン分析に最も適していると結論づけている[2]。しかし本研究の結果は、Kouketsu et al. (2019)が指摘するように研磨前のバルク状態での分析が最適である可能性が高いことを示している。放射光ナノCT撮影による高精細3次元観察は、これらのダメージによる影響を直接確認することが可能であり、本来のグラファイトの組織をこれらの領域と分別して分析することができる。本手法は、熱変成作用や衝撃変成作用がグラファイトの産状に与える影響を正確に把握するための非常に強力な手法であるといえる。引用論文:[1] Y. Nakamuta et al. (2016) JMPS, 111, 4, 252-269. [2] K. Nagashima et al. (2012) MAPS, 47, 11, 1728–1737. [3] A. Barbaro et al. (2020) Minerals, 10(11), 1005. [4] Y. Kouketsu et al. (2019) PEPS 6, 23. [5] T. Smausz et al. (2017) Appl. Phys. A, 123, 633.