講演情報

[R6P-04]西南日本愛媛県忽那諸島中島に分布する白亜紀花崗岩類の成因研究

*下岡 和也1、児玉 省吾2、壷井 基裕1 (1. 関西学院大学、2. 株式会社 太平洋コンサルタント)

キーワード:

白亜紀花崗岩類、成因研究

白亜紀の西南日本では,広域的な火成活動の活発化,いわゆるフレアアップに伴い,多量の花崗岩質マグマが生成・貫入した(例えば,Takatsuka et al., 2018, Lithosなど)。同位体岩石学などから,これらの花崗岩類は苦鉄質下部地殻の部分溶融によるものであると考えられており(例えば, Nakajima 2004, Trans. R. Soc. Edinb. Earth Sci.),活動的大陸縁におけるマグマ生成,分化,固結過程を理解するうえで重要である。特に,単一のマグマ溜まり内部で進行した結晶分化やマグマ混合,酸化還元状態の変化を読み解くことは,白亜紀火成活動の時間的・化学的変化を詳細に復元するうえで有効な手がかりとなる。
 愛媛県高縄半島およびその島嶼部には,この白亜紀フレアアップ期の火成活動に関連して形成された花崗岩体が広く露出する。この地域では,これまで記載岩石学的研究(例えば,越智, 1982, 地質雑)年代学的研究(例えば,Shimooka et al., 2019; 2023, JMPS)や同位体岩石学的研究(Kagami et al., 1985; 1988, Geochem. J.)が行われてきたものの,地球化学的研究に基づいたマグマプロセスに関する研究は限られている。
 調査地域の中島は,忽那諸島に位置する7×9 km程度の島である。中島岩体をはじめ,複数の花崗岩体が露出し,比較的限られた地域内で岩相や鉱物組成の変化を観察できる。本研究では,中島の花崗岩類を対象として岩石記載,全岩化学組成分析,鉱物化学組成分析を実施し,中でも最も広い露出面積を示す中島岩体に注目し,その結晶分化過程および酸化還元状態の変化について検討した。
 中島の大部分には花崗岩が露出し,北東部および北部に泥質からチャート質な変成岩が分布する。花崗岩は鉱物組み合わせの違いに基づき,歌崎岩体(両雲母花崗閃緑岩),畑里岩体(角閃石黒雲母トーナル岩),赤崎岩体(角閃石黒雲母花崗岩〜角閃石黒雲母花崗閃緑岩),大泊岩体(黒雲母トーナル岩),中島岩体(黒雲母花崗岩〜黒雲母トーナル岩)の5つの岩体に区分される。全岩化学組成分析の結果から,それぞれの岩体がハーカー図上で異なる組成トレンドを示す。1,10-フェナントロリンを用いた吸光光度法により定量したFeO量から求めたFeO/Fe2O3比は,中島岩体ではSiO2の増加に伴って増加する傾向を示した。一方で,その他の岩体では減少する傾向を示した。コンドライト組成(McDonough and Sun, 1995, Chem. Geol.)で規格化した希土類元素の組成パターンでは,歌崎岩体に強い負のEu異常(Eu/Eu* = 0.37〜0.40)が見られた。また,中島岩体にもEu/Eu* = 0.44〜0.76の程度の異なる負のEu異常が認められた。
 中島岩体はSiO2含有量の増加に伴い,アルカリ長石のモード組成が増加し,黒雲母と斜長石は減少する。また,ハーカー図上では低いSiO2含有量から高いSiO2含有量にかけて直線性の高い組成トレンドを形成する。本研究では,最もSiO2含有量の低い試料を親マグマの組成とし,得られた鉱物化学組成をもとにマスバランス計算とレイリー分別モデルを用いた結晶分化モデリングを行った。その結果,黒雲母と斜長石の分別により最もSiO2含有量の高い試料の化学組成をおおむね再現できた。この結果は,モード組成の変化およびEu/Eu*の変化とも調和的であり,中島岩体の化学組成変化が主に黒雲母・斜長石の結晶分化によって説明できることを示唆する。一方,中島岩体北部ではFeO/Fe2O3比が相対的に高い値を示す。このことは,結晶分化に伴う化学組成変化に加えて,マグマ溜まりのルーフ付近において,貫入母岩から炭質物などの還元剤が供給され,局所的に還元的な環境へ変化した可能性を示す。以上の結果から,中島岩体では,黒雲母・斜長石の分別を主体とする結晶分化が進行するとともに,マグマ溜まり上部では母岩との相互作用に起因する酸化還元状態の局所的変化が生じたと考えられる。