講演情報
[R7-01]放射光X線CTと顕微ラマン分光分析によるマントル捕獲岩中の有機包有物の探索
*三津川 到1、三宅 亮2、伊神 洋平2、小木曽 哲2、秋澤 紀克3、星野 真人4、上杉 健太朗4、佐久間 博5、明田 将治2、西尾 真輝2 (1. 東京大学、2. 京都大学、3. 広島大学、4. 高輝度光科学研究センター、5. NIMS)
キーワード:
マントル捕獲岩、包有物、非生物的な有機物、放射光X線CT、顕微ラマン分光分析
地球のマントル内部で生物活動を介さずに有機物が合成される可能性が指摘されてきた[1]。高温高圧実験や熱力学計算により、マントル条件下で無機物から有機物が生成されることが報告されている[2]。一方で、マントル起源の有機物の実態を理解するうえでは天然試料中の有機物の分析が重要である。例えば、全岩のガスクロマトグラフ質量分析によりカンラン岩中からC14–C33の脂肪族炭化水素が検出され、マントル内部で合成された有機物がマントル物質中に普遍的に分布している可能性が示唆されている[3]。マントル物質中の有機物は包有物内か粒間に分布していると考えられるが、このうち包有物内に分布する有機物は、地表付近での汚染の可能性が低く、マントル内部での状態を保存している可能性が高いため特に重要である。しかし、包有物内からの有機物の検出は、キンバライトパイプ中の捕獲結晶や超高圧かんらん岩など、ごく一部の特異な岩相からの報告のみにとどまっている[4]。近年、我々の研究グループは、Tahiti産マントル捕獲岩中の単斜輝石内に分布する包有物から芳香族を主体とする固相有機物を検出した[5]。この結果は、一部のマントルかんらん岩では有機物を含有する包有物が存在することを示しており、そのような包有物を特定し、分析することで有機物の形成プロセスや起源に迫ることができる可能性がある。
本研究では、非生物的に合成された有機物を含有する包有物を効率的に検出し、有機物の化学的特徴や起源に迫ることを目的として、マントルかんらん岩に対する放射光X線CT撮影と顕微ラマン分光分析を実施した。まず、11産地のマントルかんらん岩を対象に、SPring-8 BL20B2での放射光X線マイクロCT撮影を実施した。1–10 mm大に切断したマントルかんらん岩の岩片に対して、0.78–2.69 μm/pxの空間分解能でCT撮影を実施した。得られたCT像から特徴的な包有物を選定した後、それらが試料表面近傍に位置するよう研磨し、顕微ラマン分光分析を実施した。
マイクロCT撮影の結果、ほとんどの産地のマントルかんらん岩中にはごく少数の包有物のみが観察された一方で、TahitiおよびSamoa産の試料中には多数の包有物が確認された。その大部分は内部が均質で空気と同程度の低いX線の吸収を示した。一方、ごく一部には内壁に膜状物質を伴う包有物や、内部が軽元素物質で満たされた包有物が認められた。これら特異な包有物に対して顕微ラマン分光分析を実施したところ、Tahiti産試料の膜状物質からは、タルクなどの含水鉱物に由来するピークとともに、脂肪族炭化水素のC–H伸縮振動ピークや芳香族主体の固相有機物に由来するG, Dバンドが検出された。一方、Samoa産試料からも、脂肪族を主体とする有機物のピークが観察されたものの、含水鉱物の存在は確認されなかった。
これらの包有物はいずれもホスト鉱物中に孤立して分布することから、マントル内部で流体を捕獲して形成された可能性が高い。Tahiti産試料では、膜状のタルクはマントル捕獲岩の噴出後、低温条件下で包有物中の水に富む流体とホスト鉱物との反応によって形成されたと考えられる。タルク形成反応では水素が生成されることが知られており[6]、その水素により流体中の二酸化炭素が還元され、有機物が二次的に生成した可能性がある。一方、Samoa産試料では含水鉱物が認められないことから、包有物中の有機物はマントル内部で非生物的に合成された可能性が高い。これらの結果は、マントルかんらん岩の包有物中に多様な起源をもつ有機物が存在することを示すとともに、放射光X線CTと顕微ラマン分光分析を組み合わせたその場分析が、その起源や形成プロセスの解明に有効であることを示した。
[1] Mendeleev (1877) Russ. Chem. Soc. Phys. Soc. Is [2] Scott et al. (2004) Proc. Natl. Acad. Sci. [3] Sugisaki & Mimura (1994) Geochim. Cosmochim. Acta [4] Tomilenko et al. (2009) Doklady Earth Sciences [5] Mitsukawa et al. (2026) Sci. Rep. [6] Huang et al. (2024) Sci. China Earth Sci.
本研究では、非生物的に合成された有機物を含有する包有物を効率的に検出し、有機物の化学的特徴や起源に迫ることを目的として、マントルかんらん岩に対する放射光X線CT撮影と顕微ラマン分光分析を実施した。まず、11産地のマントルかんらん岩を対象に、SPring-8 BL20B2での放射光X線マイクロCT撮影を実施した。1–10 mm大に切断したマントルかんらん岩の岩片に対して、0.78–2.69 μm/pxの空間分解能でCT撮影を実施した。得られたCT像から特徴的な包有物を選定した後、それらが試料表面近傍に位置するよう研磨し、顕微ラマン分光分析を実施した。
マイクロCT撮影の結果、ほとんどの産地のマントルかんらん岩中にはごく少数の包有物のみが観察された一方で、TahitiおよびSamoa産の試料中には多数の包有物が確認された。その大部分は内部が均質で空気と同程度の低いX線の吸収を示した。一方、ごく一部には内壁に膜状物質を伴う包有物や、内部が軽元素物質で満たされた包有物が認められた。これら特異な包有物に対して顕微ラマン分光分析を実施したところ、Tahiti産試料の膜状物質からは、タルクなどの含水鉱物に由来するピークとともに、脂肪族炭化水素のC–H伸縮振動ピークや芳香族主体の固相有機物に由来するG, Dバンドが検出された。一方、Samoa産試料からも、脂肪族を主体とする有機物のピークが観察されたものの、含水鉱物の存在は確認されなかった。
これらの包有物はいずれもホスト鉱物中に孤立して分布することから、マントル内部で流体を捕獲して形成された可能性が高い。Tahiti産試料では、膜状のタルクはマントル捕獲岩の噴出後、低温条件下で包有物中の水に富む流体とホスト鉱物との反応によって形成されたと考えられる。タルク形成反応では水素が生成されることが知られており[6]、その水素により流体中の二酸化炭素が還元され、有機物が二次的に生成した可能性がある。一方、Samoa産試料では含水鉱物が認められないことから、包有物中の有機物はマントル内部で非生物的に合成された可能性が高い。これらの結果は、マントルかんらん岩の包有物中に多様な起源をもつ有機物が存在することを示すとともに、放射光X線CTと顕微ラマン分光分析を組み合わせたその場分析が、その起源や形成プロセスの解明に有効であることを示した。
[1] Mendeleev (1877) Russ. Chem. Soc. Phys. Soc. Is [2] Scott et al. (2004) Proc. Natl. Acad. Sci. [3] Sugisaki & Mimura (1994) Geochim. Cosmochim. Acta [4] Tomilenko et al. (2009) Doklady Earth Sciences [5] Mitsukawa et al. (2026) Sci. Rep. [6] Huang et al. (2024) Sci. China Earth Sci.
