講演情報

[R7-02]北海道渡島大島火山に産するダナイト–ウェールライト捕獲岩の成因:島弧下最上部マントルプロセスへの示唆

*田口 創大1、江島 輝美2、高橋 康2、昆 慶明3、荒井 章司4 (1. 信州大学・院理、2. 信州大学・理、3. 産総研、4. 金沢大)

キーワード:

ダナイト–ウェールライト、捕獲岩、メルト–岩石相互作用、島弧マントル、複成火山

ダナイト–ウェールライトは,オフィオライトに広く分布するほか,捕獲岩としても普遍的に認められ,最上部マントル~モホ遷移帯(MTZ)の主要な構成要素である(e.g., Arai et al., 2000).北海道渡島大島火山は,東北日本弧においてかんらん岩捕獲岩が報告されている数少ない産地の一つであり,ダナイト–ウェールライト系列の捕獲岩を多産する点で特徴的である.これまで,これらの岩石は同火山の主要な噴出物であるアルカリ玄武岩マグマからの分別結晶作用による集積岩であると解釈されてきた(Yamamoto, 1984).しかし,Fo-Di-Qtz系における相平衡関係に基づくと,高圧下で生成されたアルカリ玄武岩マグマは減圧によりかんらん石に過飽和となり(Kushiro, 1969),この状態から理想的な完全分別結晶作用が進行した場合に形成されるのは,かんらん石のみからなるダナイト,ついでかんらん石単斜輝石岩となる.すなわち,渡島大島火山に産するような,単斜輝石を含むダナイト–ウェールライトの形成は説明できない.したがって,渡島大島に産するダナイト–ウェールライトの成因を理解するには,単純な結晶分化だけでなく,岩石–メルト反応を含む開放的なプロセスを考慮する必要がある.本研究では,これらの成因解明を目的として,渡島大島の北風泊海岸において採取したダナイト–ウェールライト捕獲岩について,偏光顕微鏡観察および電子プローブマイクロアナライザーによる鉱物化学組成分析を行った.
 ダナイト–ウェールライト捕獲岩は,単独の捕獲岩として産するほか, 単斜輝石岩やホルンブレンドガブロと接する複合捕獲岩として頻繁に産する.ダナイト–ウェールライトは主にかんらん石,単斜輝石,およびクロムスピネルから構成される.かんらん石のFo値は93–78の範囲を示し,Fo値の低下に伴いNiO含有量が約0.45 wt%–0.1 wt%の間で直線的に減少する.この傾向は単純な分別結晶作用で期待される Fo-NiO図における下に凸のトレンドとは一致せず,メルトと既存かんらん石とのFe–Mg交換反応などの他の効果を反映していると考えられる(e.g., Gordeychik et al., 2020).単斜輝石はかんらん石の粒間を充填し,粒間メルトから後生的に晶出したことを示す.クロムスピネルは,しばしば局所的に濃集する.通常,クロムスピネルがかんらん石とコテクティックに晶出する場合,その存在比はかんらん石の1~数vol%以下にとどまることが知られている(e.g., Irvine, 1977).しかし,本岩類に見られるクロムスピネル濃集部はこの存在比を大きく上回り,単純な分別結晶作用によって形成したとは考えにくい.また,クロムスピネルのCr#とTiO2含有量の関係は,Cr#が一定範囲(約0.4–0.5)に保たれたままTiO2含有量が最大3.7 wt%まで上昇し,系外からのCrの継続的な供給があったことを示唆する.
 これらの観察事実は,上昇するシリカ不飽和なアルカリ玄武岩マグマが既存の直方輝石を含むかんらん岩に浸透し,直方輝石の非調和融解/溶融を引き起こしたことを強く支持する.直方輝石の融解によって生じた二次メルトは,リチャージされた未分化メルトとの混合を通じてその組成をクロムスピネル初晶領域へ移行させ,クロムスピネルの晶出を促進したと考えられる.さらに,残存した粒間メルトから単斜輝石が晶出し,ダナイト–ウェールライトが形成されたと考えられる.
 渡島大島火山は東北日本弧背弧側に位置する第四紀複成火山であり,同火山下の最上部マントル~MTZにおいてはシリカ不飽和なアルカリ玄武岩マグマが長期的に供給されてきたことが想定される.このような高メルトフラックス条件下で,上述の反応が累積的に進行し,渡島大島火山下における最上部マントル~MTZの岩石構成が大規模に改変された可能性がある.この影響を評価する上で,同じく東北日本弧背弧側に位置し,かんらん岩捕獲岩を産する目潟火山一の目潟との比較は注目に値する.一の目潟に産するかんらん岩捕獲岩はレルゾライト–ハルツバーガイトが主であり,ダナイト–ウェールライトはまれである(荒井・高橋,1987).すなわち,両産地は類似したテクトニックセッティングに位置し,ともに背弧玄武岩マグマが関与するにもかかわらず,産するかんらん岩捕獲岩の岩相が大きく異なる.この事実は,単成火山である目潟火山下ではマグマとマントルかんらん岩との反応が小規模であるのに対して,複成火山である渡島大島火山下では反応がより長期間・広域的に累積し,岩石構成が大きく改変された結果と解釈される.本研究の結果は,複成火山下におけるマントル–マグマ反応が,島弧下最上部マントル~MTZの不均質性形成に重要な役割を果たす可能性を示す.