講演情報

[R7-04]かんらん岩の蛍光エックス線分析における鉄のマトリックス効果と地球化学標準物質の役割

*三國 和音1,2、石川 晃2 (1. 国立研究開発法人産業技術総合研究所、2. 東京科学大学)

キーワード:

かんらん岩、超苦鉄質岩、蛍光エックス線分析、マトリックス効果、地球化学標準物質

マントルの部分溶融や変質、変成などマントルのジオダイナミクスは、マントル由来のカンラン岩や蛇紋岩を通じて解読されてきた。超苦鉄質岩から抽出される情報のうち、全岩化学組成はその起源や記録する地質史を特徴づける最も基本的かつ重要なものである。超苦鉄質岩を含む岩石の主要元素および一部の微量元素の定量は、ガラスビードを用いた蛍光X線(XRF)分析が主流である。融剤を用いた岩石のガラス化により難分解性鉱物も効率的に分解可能であることや、試料準備から分析操作が比較的簡便という利点がある。
XRF分析における精度や感度は主に装置性能に依存する一方、複数の標準物質による多点検量線を用いたXRF定量分析の確度(正確さ)は、マトリックス効果と標準物質の標準値の正確さに左右される。特にマトリックス効果を考慮すると、目的試料と類似するマトリックス(主成分組成)の標準物質を検量線に用いるのが理想的であるが、一般的な火成岩の定量には、玄武岩から流紋岩(斑レイ岩から花崗岩)までの多種の火成岩から成る標準物質を用いて定量されることが多く、大きな問題は報告されていない。これは、特に高希釈ガラスビードを用いたXRF分析においては火成岩標準物質の間に大きなマトリックス効果は無視できるということを示している。
一方、かんらん岩は一般的な火成岩と比べ高いMg濃度と低いSi濃度を示すやや極端な化学組成を持つ。しかし、かんらん岩を含む超苦鉄質岩の標準物質は限られており、例えば日本国内で販売済みのものはJP-1(ダナイト)ひとつである。そのため、超苦鉄質岩のみの検量線を作成するのは難しく、その他の火成岩シリーズ標準物質に混ぜた検量線を作成することが多い。
本研究では、複数の超苦鉄質岩標準物質と火成岩標準物質を用いたXRF分析により、かんらん岩がその他の火成岩との間にマトリックス効果を示すかについて検証した結果を報告する[1]。1:10ガラスビードについてXRF分析を行い、複数の超苦鉄質岩標準物質―ダナイトJP-1、斜長石レルゾライトJP-2(未販売、[2])、蛇紋岩UB-N、コマチアイトOKUM―と複数の火成岩標準物質で検量線を作成した。その結果、かんらん岩は全鉄(T-Fe2O3)について、その他の火成岩よりも標準値に対して高い蛍光X線強度を示すことが明らかとなった。また、異なるXRF機器で同じガラスビードを分析しても同様の結果が得られた。このT-Fe2O3についてのマトリックス効果は、CaとMgを共存元素としたマトリックス補正(重回帰法)により改善される。補正後の検量線を用い、かんらん岩GP13 [3]および玄武岩JB-3について定量計算を行うと、T-Fe2O3濃度は推奨値とよく一致した。一方、マトリックス補正を行わない場合、かんらん岩試料のT-Fe2O3濃度は約0.5–0.6 wt%過大評価される。このようなマトリックス効果は、Fe3+/ΣFe比やMg#の見積り, Feを内標準元素とした微量元素測定の定量計算など、重要な地球化学指標への影響を避けるため、補正されるべきものである。
このような議論は、用いる地球化学標準物質の参照値が信頼できることが大前提である。したがって、地球化学標準物質に付随する参照値の中身を理解して引用することが重要である。そしてこのようなマトリックス効果が明らかとなった今、国内における超苦鉄質岩標準物質の整備が急務であると考えられる。

[1] Mikuni et al. (2025c) Geochem. J., 59, 299–314
[2] Mikuni et al. (2025b) Geochem. J., 59, 271–282
[3] Pearson (1989) Ph.D. thesis