講演情報

[R7-05]八方尾根変成かんらん岩中のNiに富むかんらん石とトレボライト:その産状と意義

*山田 成乃助1、江島 輝美1、荒井 章司2 (1. 信州大・理、2. 金沢大)

キーワード:

Niに富むかんらん石、トレボライト、八方尾根、蛇紋岩化作用、マントルウェッジ流体

Niは各種合金や電池材料として広く利用されており,経済的に重要な金属元素の1つである。Ni鉱床は,かんらん岩(蛇紋岩)の風化により形成するラテライト中の二次鉱物や,熱水活動に伴う硫化物/砒化物が集積することで形成する。これらの鉱床形成は一般に加水作用と密接に関係しており,マントルウェッジにおけるNiの挙動は極めて興味深い。しかし,系統的な試料の調達が困難であり,十分に解明されたとは言い難い。これまでに,蛇紋岩化した超苦鉄質岩からはNiを主成分とする硫化物/砒化物が報告されているが,それ以外の鉱物相へのNiの分配挙動についての知見は著しく乏しい。我々は,八方尾根岩体の蛇紋岩化の卓越したかんらん岩中にNi濃集鉱物(Niに富むかんらん石,Ni-Fe3+スピネルのトレボライト)を発見した。本発表ではこれらの産状を報告し,マントルウェッジ底部における蛇紋岩化作用に伴うNiの濃集過程について論じる。鉱物の組織観察と組成分析,元素濃度分布分析には電界放出型電子プローブマイクロアナライザー(JEOL JXA-iHP200F,信州大学設置)を用いた。
 八方尾根岩体は,飛騨外縁帯のかんらん岩(蛇紋岩)体の中で最大のものであり,前弧マントルウェッジ起源とされる(中水ほか, 1989; Khedr et al., 2010)。このかんらん岩は,低温高圧型の広域変成作用(蓮華変成作用,~300 Ma)と有明花崗岩による接触変成作用(~65 Ma)を受けている(中水ほか, 1989; Nozaka, 2005)。
 Niに富む鉱物は,八方尾根岩体中に局所的(幅約40 m)に分布するダナイト帯に産する。主要な構成鉱物は蛇紋石(アンチゴライト),トレモラ閃石,緑泥石,脱蛇紋岩化によるかんらん石,滑石,磁鉄鉱であり,クロムスピネルを欠く。磁鉄鉱は単結晶(自形,平均15 µm)とレンズ状の集合体(>100 µm)の2種類に大別される。磁鉄鉱集合体の一部はNiに富んでおり,Ni硫化鉱物であるヒーズルウッダイトと共生している。ヒーズルウッダイトは磁鉄鉱集合体の周囲,あるいは磁鉄鉱を切るように存在し,その周囲の磁鉄鉱はNiに乏しくなっている。
 トレボライトは蛇紋石の基質中に長径約10 µmの半自形結晶として産し,その組成は,(Ni0.624Fe2+0.315Mg0.054Mn0.003Co0.003)Σ0.999(Fe3+1.821Cr0.161Al0.010Si0.004Ti0.002)Σ1.998O4である。Niに富むかんらん石は,Niに乏しい磁鉄鉱集合体またはトレボライトに完全に包有された10 µm以下の粒子として産する。磁鉄鉱に包有されたNiに富むかんらん石の組成は,(Mg1.498Ni0.403Fe2+0.115)Σ2.016Si0.992O4である。
 本研究試料はクロムスピネルを欠くものの,磁鉄鉱集合体はマントルウェッジ底部のダナイト帯で,高い流体/岩石比の下で蛇紋岩化が進行する際に,初生的に含まれたクロムスピネルを核として晶出したと推定される(山田ほか, 2025, 日本鉱物科学会年会)。Niに富むかんらん石は,磁鉄鉱またはトレボライトに完全に包有された産状を呈する。一般に,磁鉄鉱はかんらん石が蛇紋石化する際に晶出するため,かんらん石と磁鉄鉱が同時に形成したとは考えにくく,Niに富むかんらん石は,もともとクロムスピネル中に存在するかんらん石包有物(e.g., Miura et al., 2012)であった可能性が高い。NiとFeは蛇紋岩化の際にかんらん石が分解することで供給された。これらの元素はH2Oに富む流体により移動し,クロムスピネルを核として成長した。初期段階で晶出した磁鉄鉱はトレボライト成分に富む(高Ni/Fe)組成であった。核となった初生的なクロムスピネルとその包有物のかんらん石の構成元素がNiとFeに置換されることで,これらはNiに富む組成に変化したと考えられる。その後,Sに富む流体の侵入によってトレボライト成分に富む磁鉄鉱の大部分はNiに乏しい磁鉄鉱と硫化鉱物(ヒーズルウッダイト)に変化したと考察される。
 以上より,八方尾根岩体のトレボライトとNiに富むかんらん石は,それぞれ初生的なクロムスピネルとそのかんらん石包有物に由来する可能性が高い。八方尾根岩体におけるダナイト帯はH2Oに富む流体のチャネルとして機能し,遷移金属元素の移動・濃集を促進したと考えられる。流体自体の性質については依然として不明瞭であり,これを明らかにすることが我々の次の課題である。

※本研究は,長野県科学振興会の助成を受け実施した。