講演情報

[R7-11]チタノクリノヒューマイトから推定する藤原岩体の変成履歴

*松岡 颯希1、石丸 聡子1、荒井 章司2 (1. 熊本大学、2. 金沢大学)

キーワード:

藤原岩体、チタノクリノヒューマイト、蛇紋岩、三波川変成帯

チタノクリノヒューマイト(TiCh; (Mg,Ti)9(SiO4)4(OH,F)2)は、沈み込みに伴う蛇紋岩の高圧脱水によって形成される鉱物で、含水鉱物としては比較的高圧・高温の条件下において安定である(Engi & Lindsley, 1980)。スペインのアルミレス岩体(Garrido et al., 2005)や中国の天山山脈に産する蛇紋岩体(Shen et al., 2015)などに産出例が見られる。
四国中央部の別子地域には、五良津岩体をはじめとする苦鉄質片麻岩体や、東赤石岩体をはじめとする超苦鉄質岩体が周囲の三波川変成岩類に取り込まれる形で存在し、愛媛県四国中央市に露出する藤原岩体もその一つである(青矢・遠藤, 2017)。藤原岩体周辺の大生院層泥質片岩は緑簾石角閃岩相に達する三波川変成作用を受けている(榎並, 1980; 椚座, 1984)。藤原岩体は主に蛇紋岩類と斑れい岩類からなる複合岩体で、蛇紋岩類の原岩はダナイトとウェールライトである(大貫ほか, 1978)。藤原岩体の構成岩石は、鉱物組合せと化学組成から、同一マグマからの結晶集積岩として形成されたと理解されている(大貫ほか, 1978)。岩体内のダナイト中には脈状やパッチ状、鉱染状にTiChが存在し、これらは沈み込みに伴うスラブ蛇紋岩の高圧脱水と同時期に形成されたものと考えられている(Arai et al., 2012)。本研究では、藤原岩体試料および試料中のTiChの観察と化学組成分析結果から読み取れる、藤原岩体の温度圧力履歴について再検討を行った。
本研究では、藤原岩体のダナイト7試料(F-1、F-2、F-3、F-4、F-5、F-6、F-8)および苦鉄質岩1試料(F-7)、計8試料から薄片を作成し、偏光顕微鏡による観察を行った。ダナイト試料は片理が見られず、主に蛇紋石(serp)、カンラン石(ol)、TiCh、クロムスピネル(spl)、磁鉄鉱(mgt)、硫化鉱物(ニッケル硫化物など)、少量のブルーサイトと緑泥石から構成されている。TiChはol中にパッチ状および鉱染状に観察され、様々な存在度を示す。F-5中には幅1 cmを超える濃茶褐色の領域(F-5V)としてTiCh濃集部が存在し、それ以外の領域(F-5M)と分けて観察を行った。ただし、F-6についてはolとTiChが観察されない。splは結晶周縁あるいは全体がフェリットクロマイト(fch)化し、過成長したmgtのリムを持つ累帯構造が見られる。
また、8試料について、SEM-EDSを用いた観察と鉱物化学組成分析を行った。F-3、F-4、F-5VでcpxとアパタイトがolやTiCh中に10 μm程度の結晶として存在する。また、F-4では炭酸塩鉱物、F-5Vではイルメナイトとペロブスカイト、F-1、F-3、F-4ではアワルアイトが観察された。olのMg#(=Mg/(Mg+Fe))は概ね0.91~0.96の範囲で、MnO含有量(0.1~0.6 wt.%)とは負の相関を示す。TiChのTiO2含有量はF-1で3.17~3.33 wt.%、F-2で3.02~3.92 wt.%、F-3で3.35~4.29 wt.%、F-4で2.68~5.78 wt.%、F-5で2.74~9.41 wt.%、F-8で3.17~3.56 wt.%であった。いずれの試料でもTiChからFは検出されなかった。F-5のTiChはTiO2含有量が2.74~4.90 wt.%のグループと6.89~9.41 wt.%のグループに分かれ、前者はF-5VとF-5M両方に、後者はF-5Vにのみ存在する。後者のグループで見られるTiO2含有量の高さは、通常のTi4+↔2M2+置換では説明できない。splのTiO2含有量は、F-3(2.28~2.62 wt.%)を除くと0.68~1.20 wt.%の範囲であり、F-5以外ではTiO2含有量はコア部(spl)、マントル部(fch)、リム部(mgt)と外側へ向かうにつれて減少する。
F-5VにおけるTiChのTiO2含有量の高さについて、F-5Vにイルメナイトやペロブスカイトが観察されること、TiChのCaO含有量は高くない(<0.13 wt.%)ことから、TiChの分解で生じたイルメナイトとの混合によるものと推定される。また、TiChの安定条件と、藤原岩体の沈み込み時におけるスラブの温度-圧力条件を比較した。その結果、藤原岩体の温度圧力条件のピークは、最低でも700 ℃、2.4 GPa以上であったと考えられた。これは大貫ほか(1980)において考えられていた約450 ℃、0.6~0.7 GPaよりも高温・高圧条件であり、藤原岩体は現在岩体周囲に位置している緑簾石角閃岩相を示す大生院層の泥質片岩とは異なるピーク変成条件を経たと考えられる。