講演情報

[R7P-09]マントル捕獲岩のかんらん石中の流体包有物周囲に発達した転位構造の解析

*鎌田 実1、大藤 弘明2、山本 順司3 (1. 東北大・院理、2. 東京大・院理、3. 九州大・院理)

キーワード:

かんらん石、応力緩和、流体包有物、塑性変形、転位クリープ

マントル捕獲岩を構成する鉱物中の流体包有物は,由来したマントルに関する様々な情報を持ち,特に捕獲時の圧力(深度)の推定にも利用されてきた(e.g., Yamamoto et al., 2002, 2007)。流体包有物を地質圧力計として用いるには,流体密度が捕獲時から保存されていることが不可欠である。マントル捕獲岩を構成するかんらん石中に包有されるCO2の密度は,輝石やクロムスピネル中のものと比較して系統的に低いことが指摘されてきた(e.g., Yamamoto et al., 2002; Yamamoto and Kagi, 2008)。この流体密度の鉱物間の差は,捕獲岩が上昇する際の急激な外圧低下および地表での冷却によるホスト鉱物の弾性および塑性変形の結果と考えられている(Yamamoto and Kagi, 2008)。特に,かんらん石は輝石やクロムスピネルに比べて変形強度が低く,流体密度の低下は塑性変形による包有物の膨張に起因すると考えられる(Yamamoto et al., 2002)。力学的再平衡化(応力緩和)を経たかんらん石の流体包有物周囲には,各結晶軸方向に沿って配列した特徴的な転位構造が発達しており(e.g., Kirby and Green, 1980)、それらは高い剪断応力がかかる包有物壁面近傍における転位ループの形成と外側への運動によって形成されたとされている(Wanamaker and Evans, 1989)。Wanamaker and Evansは再平衡化実験を通して,べき乗則クリープの基づく転位運動の時間発展をモデル化したが,測定誤差が大きく,モデルの妥当性の厳密な評価は不可能であった。そこで,本研究では,かんらん石中の流体包有物周囲に発達した転位構造のSEM,TEMによる詳細かつ定量的な評価を行い,従来モデルの妥当性の検証を目指した。
試料はロシア極東Ennokentiev産のアルカリ玄武岩中に捕獲されているスピネルレルゾライトを構成するかんらん石を用いた。かんらん石内部に包有されるCO2の密度は,スピネルで1.177 g/cm3,かんらん石で1.076 g/cm3(Yamamoto et al., 2011)で,平衡温度は931±77℃(Yamamoto and Kagi, 2008)と見積もられている。かんらん石中の転位を可視化するため,酸化デコレーション法(Kohlstedt et al, 1976)を用いた。試料を900℃で1時間加熱した後,表面を1 μmのダイヤモンドペーストを用いて適度に研磨し,光学顕微鏡およびFE-SEMで転位構造を観察した。SEM観察の前には試料表面にOs蒸着(5 nm)を施し,結晶方位はEBSDによって決定した。
観察の結果,包有物周囲の転位はかんらん石のそれぞれの結晶軸方向に沿う円柱状の転位ループ群を形成しており,その広がりは [100]方向に最も大きいことが分かった。転位ループの数を計測し,包有物の体積で規格化した体積増加量(歪み)を見積もったところ,包有物の大きさによらずほぼ一定であった。また,包有物周囲の転位密度を測定したところ,転位密度もほぼ一定であった。
この手法により見積もられた体積歪みは,かんらん石中のCO2の密度の低下から予想される体積歪みよりも小さな値を示した。これは,2次元断面観察のため包有物周囲の転位ループの総数を過小評価している可能性もあるが,塑性緩和の過程で生じた転位ループが,包有物の膨張とは異なる起源で形成していた他の転位との相互作用により合体または消滅したことによるかもしれない。もしくは,体積増加を見積もる際に仮定した転位のすべり系(Wanamaker and Evans, 1989)が正しくない可能性もあり,現在TEMによる検証を進めている。転位構造の時間発展を予測するためには,転位密度やすべり系に依存した塑性変形挙動を組み込んだモデルの更新が必要である。
再平衡化の温度と初期密度を与えれば,モデルに基づき密度の時間変化を計算することができる。かんらん石の流体包有物の初期密度が,クロムスピネル中のものに等しいと仮定して,流体密度の時間変化を計算したところ,密度が現在の値まで低下するためには,マグマ温度が1020℃~1080℃の条件では1日~8日ほどかかることが示された。これは一般的な島弧の玄武岩マグマの上昇と地表付近での冷却の時間スケールの範囲内ではあるが(e.g., Yamamoto et al., 2011),予測幅は大きい。モデルの妥当性が検証できれば,流体密度の低下から上昇の時間スケールをマグマ温度の関数として制約できる可能性がある。