講演情報

[R7P-12]兵庫県中央部の多金属鉱床における鉱物化学組成と鉱化環境の変遷

*阪中 颯1、永嶌 真理子1 (1. 山口大学大学院)

キーワード:

ゼノサーマル型多金属鉱床、鉱物化学、硫化鉱物

【はじめに】舞鶴帯・丹波帯・超丹波帯が分布する兵庫県中央部には多くの熱水鉱床が存在し[1], 特に生野鉱山と明延鉱山(以下,本鉱床)はいずれもゼノサーマル型多金属鉱床として知られる[2]. 両鉱山では, 浅熱-深熱水性の鉱石鉱物が同一鉱床内に産し,鉱脈胚胎裂罅を中心に顕著な空間的ゾーニングを示す[3].本鉱床周辺は舞鶴帯に属し,鉱床はペルム系の舞鶴層群(火山岩・砕屑岩類)とペルム~三畳系の夜久野オフィオライト(低度変成作用を受けた斑れい岩および玄武岩)の裂罅中に胚胎する[1].本鉱床は複数回の鉱液流入により形成され,早期から晩期にかけてPb-Zn期, Cu-Zn期, Cu-Sn期, Sn-W期に大別されるが,一般的な熱水鉱床とは異なり,早期から晩期に向けて段階的な温度上昇が示唆されている[4].特に後期のCu-Sn期やSn-W期では, SnやWに加えInやBiを含む鉱物も晶出しており,特異な物理化学的環境であったと考えられる. このようなSn・W鉱化作用をもたらす熱水活動には チタン鉄鉱系列の花崗岩質マグマの関与が指摘されており,本鉱床東側に位置する和田山花崗岩などの岩体と後期鉱化ステージの関連が検討されてきた[5]. これまで本鉱床について,地質,構造,鉱床学的観点から多くの研究が報告されてきたが,鉱石鉱物の組み合わせや個々の鉱石鉱物の化学組成に着目した報告は限られており,熱水系の詳細な変遷に関しては検討の余地が残されている.したがって本研究では,各ステージで晶出した鉱物相の安定条件に基づき,鉱床形成時における物理化学的特徴(温度・圧力・化学的性質)の時空間的変遷を詳細に解明し,兵庫県中央部における多金属鉱床形成プロセスの包括的な理解を目指す.
【実験手法】ズリより採取した鉱石試料の研磨薄片を作製し,鏡下観察後,電子プローブマイクロアナライザ(JEOL JXA-8230)を用いて鉱石鉱物の詳細な組織観察および化学分析を行った.
【結果・考察】鉱石鉱物の組み合わせと切断関係に基づき,晶出早期から順に,(i) 閃亜鉛鉱・方鉛鉱主体のZn-Pb帯, (ii) 閃亜鉛鉱・黄銅鉱主体のZn-Cu帯, (iii) 硫砒鉄鉱に富むCu-Zn-As帯, (iv) 斑銅鉱やインジウム銅鉱を含むCu-In帯, (v) 灰重石・錫石が産するW-Sn帯の5帯に分類した. さらに,ⅰ-ⅱ帯を前期,ⅲ-ⅳ帯を中期, ⅴ帯を後期ステージと区分した. 各ステージの物理化学的条件について,前期は緑簾石やアンドラダイトの産出から比較的酸化的,中期は斑銅鉱や褐錫鉱などの含Cu硫化鉱物の卓越から還元的環境へと変化したと考えられる. 後期は,錫石や灰重石などの酸化鉱物を包有して硫化鉱物が晶出する組織が認められ,同ステージ内でも,酸化的から還元的環境への変化したことを示している. また後期は, 蛍石が産する特徴的な相であり,W・Sn鉱化作用をもたらした流体がフッ素に富んでいたことを示唆する.これは,Fに富む流体中でSnやWが錯体として溶存するという先行研究の実験結果と調和的である[6] .加えて, いずれのステージで産した閃亜鉛鉱中にも黄銅鉱病変が認められ, 特にⅱ, ⅲ帯で顕著である(図1a).これはCuに富む流体(300-400℃)の再流入により生じる二次的組織であり[7],後期段階まで複数回の鉱液流入があったことを支持する. 先行研究では,段階的な温度上昇が提唱されてきたが,本研究では, この温度上昇が直線的(連続的)ではなく, 上昇と下降を断続的に繰り返すステップ状の温度上昇であったことを裏付ける微細組織を発見した. 具体的には,(1) ii帯における黄銅鉱リム部への黄鉄鉱の晶出(図1a),(2) iii帯における輝コバルト鉱による砒鉄鉱[(Fe0.77Co0.25)Σ1.02(As2.00S0.09)Σ2.09]の包有(図1b),(3) v帯における灰重石による鉄重石の置換(図1c) が挙げられ,これらは各ステージ内での一時的な温度低下が生じていたことを支持する. 本研究は, 各ステージ内における一時的な温度低下を伴う熱水活動の変遷を見出し, 従来の地質・構造学的議論を鉱物科学的な観点から実証した. この詳細な環境変遷の解明は,本地域におけるゼノサーマル型多金属鉱床の包括的な形成プロセスおよび鉱化作用モデルの構築に貢献すると期待される.
[1] 小林, 人と自然, 8, 19-39 (1997), [2] 中村 ほか, 人と自然, 6, 197-243 (1995), [3] 例えば 阿部, 鉱山地質, 13, 41-53, (1963), [4] 例えば 佐藤 ほか, 鉱山地質, 27, 245-262 (1977), [5] Ishihara et al., Bull. Geol. Surv. Jpn., 63, 181-202 (2012), [6] Wang et al., Geoch. Cosmoch. Acta., 292, 170-187 (2021), [7] 小島 ほか, 資源地質, 44, 249-256 (1994)