講演情報

[R7P-14]針鉄鉱によって置換された黄鉄鉱の仮晶「武石」の形成メカニズム

*唐木 陽登1、大藤 弘明2 (1. 東北大・院理、2. 東大・院理)

キーワード:

武石、仮晶、黄鉄鉱、針鉄鉱

武石(ぶせき)は、結晶形態を保持したまま水酸化鉄鉱物に置換された黄鉄鉱の仮晶で、長野県上田市の旧武石村から多産したため、その俗称で呼ばれている。同様の水酸化鉄に置き換わった黄鉄鉱の仮晶は世界各地で報告され、外観や内部組織についての記載研究もいくつか報告されている。例えば、Taivalkoski et al.(2024)はフィンランドの氷成堆積物中の黄鉄鉱仮晶の断面を詳しく観察し、針鉄鉱が波動累帯構造を形成していることを見出し、それが針鉄鉱形成当時の周辺環境の温度・圧力および流体のpHの周期的変動に由来すると考察している。しかしながら、黄鉄鉱の表面から内部へどのようなプロセスで針鉄鉱化が進行するかの詳細は十分理解されていない。そこで本研究では、我が国で有名な黄鉄鉱仮晶である「武石」の内部組織と化学組成を詳しく調べ、さらに周囲の母岩についても記載を行い、黄鉄鉱の仮晶形成プロセスを考察する。 本研究では、長野県上田市下武石地域の武石公園南斜面の露頭およびそのすぐ北側に位置する武石山の露頭とその付近の土砂から採取した、1辺1~12 mm程度の武石試料と周囲の変質した凝灰岩を試料に用いた。母岩試料については,水ひ処理で抽出した径2 μm以下の粘土鉱物の定方位試料も作製し、全岩粉末試料とともにXRD測定を行った。定方位粘土試料についてはエチレングリコール処理を施し、膨潤性粘土の有無を調べた。また、武石試料についてはエポキシ樹脂に包埋し、機械研磨切片、Arイオン研磨片を作製し、デジタルマイクロスコープおよび偏光顕微鏡による光学観察、顕微ラマン分光分析、SEM-EDSで観察した。 また、一部の試料についてはFIBで薄膜を切り出し、TEMおよびSTEM-EDSで観察・分析を行った。XRD分析の結果、武石には針鉄鉱や赤鉄鉱に加え、少量の白雲母や石英、曹長石が含まれていることが分かり、一部未反応の黄鉄鉱が残存しているものもあった。一方、武石の母岩である変質凝灰岩はカオリナイトを主体とし、石英や曹長石も含んでいた。顕微ラマン分光では、武石を構成する鉄(水)酸化物の大部分は針鉄鉱で、ごく一部赤鉄鉱も含まれることが分かった。断面のSEM-EDS観察の結果、武石の外縁部には緻密な針鉄鉱よりなるクラスト(厚さ~500 µm)が例外なく存在し、内部には針鉄鉱の太い脈が内部を横断するように複数発達している様子が認められた。これらの太い針鉄鉱脈によって分断された領域では、外縁部から領域内部へ向かってさらに針鉄鉱化が進行し、反射電子を用いた電子チャネリングコントラスト像観察により、その部分には幅1~2μmの細かな縞模様が観察された。この縞模様の発達した部分からFIBで薄膜を切り出しTEMで観察を行ったところ、各層ごとに針鉄鉱の結晶性、粒度、配向性の程度がやや異なり、少量のAlやSiを含む層も含まれていた。また、層間の隙間には少量のジャロサイトの濃集層も認められた。武石内部にはこの他、石英や曹長石、セリサイトなどの変質鉱物がオリジナルの黄鉄鉱の結晶面に平行に含まれていたが、針鉄鉱はそれらの変質鉱物の界面とも調和的に成長しており,変質鉱物は黄鉄鉱の成長時に取り込まれたものと考えられる。 以上の結果を踏まえると、本調査地域の武石は、次のような過程で形成されたと考えられる。1)硫化水素を含む比較的還元的かつ高温の熱水(> 250 ℃)が凝灰岩中に浸透し、熱水変質を進行させ黄鉄鉱が形成し、その後2)酸化的に変化した熱水により黄鉄鉱の界面における直接的な針鉄鉱の再析出反応が進み、一様にリムが形成された。3)針鉄鉱化に伴う体積収縮に起因して生じた割れ目沿いに浸透した流体によってさらなる針鉄鉱化が進んだ。この針鉄鉱化の過程において、流体の温度やpH、Ehのほか、 AlやSi濃度などの周期的な変動に伴って針鉄鉱の成長速度も変動し、粒度や化学組成のわずかな違いによる縞模様が形成されたと推測される。

【引用文献】
Taivalkoski et al.(2024)Minerals 2024, 14(7), 668