講演情報

[S1-01]2016-2026年における霧島火山群の火山ガスのヘリウム同位体比と火山活動との対応

*福島 菜奈絵1、角野 浩史1、大場 武2、谷口 無我3、石橋 純一郎4、安田 裕紀5、小長谷 智哉6、外山 浩太郎7、米田 羅生8、松島 健9 (1. 東京大・先端研、2. 東海大・理学部、3. 気象庁・気象研、4. 神戸大・海洋底探査センター、5. 東大・地震研、6. 東京科学大・理学院、7. 神奈川温地研、8. 東大・理学院、9. 九大・地震火山センター)

キーワード:

火山ガス、ヘリウム同位体、水蒸気噴火、精密水準測量、霧島

火山地域において,噴気孔から放出される火山ガス,温泉水,火山湖水などは,地下のマグマから供給される揮発性成分と,地下水や天水が混合した熱水系に由来する.希ガスは化学的に不活性であり,その同位体比変動は基本的に端成分の混合で解釈できる.火山ガスのヘリウム同位体比(3He/4He)は,大気(1.4×10-6=1 Ra)・地殻(< 0.02 Ra; Ballentine and Burnard, 2002),上部マントルを代表する中央海嶺玄武岩 (8±1 Ra; Graham, 2002)の混合で説明でき,マグマの寄与を定量的に評価する指標として有用である.特に一般的に予知が難しい水蒸気噴火の前兆検知や,噴火に至るまでの揮発性成分の移動プロセスの理解への応用が期待できる.九州の霧島火山群において近年噴火した新燃岳とえびの高原硫黄山(以下,硫黄山)を対象とした.新燃岳では2011年に約300年ぶりのマグマ噴火が発生した後, 2017年10月に小規模噴火が再開し,2018年3月には溶岩流出と断続的な噴火が発生した.さらに2018年4月に硫黄山にて水蒸気噴火が発生した.2025年6月には新燃岳で7年ぶりに噴火し,9月まで小規模噴火を繰り返した.2011年新燃岳噴火時の地球物理学的観測から推定された新燃岳のマグマ溜まりの位置は,新燃岳の北西5 km, 深さ8 kmに位置すると推定されており(Nakao et al., 2013; Ueda et al., 2013),この場所は硫黄山の西南西約3kmと近い.さらに最近の広域の地磁気地電流法により,新燃岳・硫黄山・御鉢の火口はいずれも,共通の広範囲の低比抵抗帯の縁辺部の上に位置することが示されており(Aizawa et al., 2026),新燃岳と硫黄山のマグマ源は共通である可能性が示唆される.このことは,硫黄山の観測が両火山の活動度の評価に役立つ可能性を意味する.2016~2026年現在にかけて数か月おきに,硫黄山山頂と新燃岳の南西山麓の噴気孔(新湯噴気)から火山ガスをガラスボトルに採取し,東京大学の希ガス質量分析計 modified VG5400 (Sumino et al., 2001)にて3He/4He比を分析した.さらに,3He/4He比の経時変化が火山全体の活動を反映しているかを評価するため,精密水準測量から推定された熱水溜まりの体積変化との比較を行った.硫黄山地下では,地磁気地電流法により深さ200–700 mにキャップロックとなる粘土層の存在が推定されており,その下に熱水溜まりが形成されていると考えられる(Tsukamoto et al., 2018).硫黄山山頂噴気の大気補正後の3He/4He比は,おおむね6.8–8.0 Raを示し,上部マントルの値の範囲内であった.2017-2018年の新燃岳・硫黄山の噴火の前後には,3He/4He比は噴火に先立って上昇し,噴火後に低下した.この変動は硫黄山下の熱水溜まりの急膨張と対応していた.2022年末から2023年末にかけても同様に,3He/4He比の上昇と熱水溜まりの膨張が確認され,この時期には硫黄山南火口を中心とした泥・硫黄噴出といった地表現象の活発化もみられた(Tajima et al., 2025).この表面活動後には3He/4He比は急降下し,熱水溜まりの体積も収縮に転じた. このように,2017–2024年初旬にかけては,火山活動の活発化・沈静に対応して3He/4He比と熱水溜まりの体積が増加・減少する挙動が一貫して確認された.本研究はこの対応関係を初めて明らかにし,3He/4He比が水蒸気噴火を含む火山活動の前兆を捉える指標となる可能性を示した.一方,新燃岳山麓の新湯噴気では2.1–5.9 Raと相対的に低い値を示し,噴火前の上昇は見られなかった.ただし2018年の新燃岳のマグマ噴火直後のみ地殻成分の一時的な増加が確認された.GNSSデータが示す2018年新燃岳噴火後のマグマ溜まりの収縮(国土地理院)を踏まえ,我々は地殻変動に伴う岩石破砕によって放出された放射壊変起源4Heによるものであると解釈した.一連の結果は,火口近傍(硫黄山山頂)噴気がマグマ由来の揮発性成分の供給変動に即時に応答する一方,火口から離れた(新湯)噴気はマグマ溜まりの収縮のような,大規模な地下変動の検出に有用である可能性を示す.なお,2025年新燃岳噴火時には,硫黄山及び新湯の3He/4He比に明確な変動は確認されず,2017-2018年との噴火様式との違いを踏まえた考察を進めている.