講演情報

[S1P-04]2023年10月に海底噴火を起こした孀婦海山のマグマ供給系

*吉田 健太1、佐藤 智紀1、浜田 盛久1、多田 訓子1、羽生 毅1、赤松 祐哉1、市原 寛2、萩原 雄貴1、マッキントッシュ アイオナ1、中野 優1、常 青1、Gautreau Louis-Maxime, Pank Katharina Margarete3、石橋 秀巳4、田村 芳彦1、小野 重明1 (1. 海洋研究開発機構、2. 名古屋大学、3. GEOMAR - Helmholtz Centre for Ocean Research Kiel、4. 静岡大学)

キーワード:

伊豆・小笠原弧、海底火山、マグマ混合、捕獲岩

2023年10月に、伊豆・小笠原弧の伊豆鳥島周辺海域で群発地震が発生し、10月9日には八丈島および日本列島の太平洋沿岸地域で地震規模から推定されるよりはるかに大きい津波が観測された(Sandanbata et al., 2023)。この時生じたT波(地震により励起された水中音波)の解析では、地震の震央は孀婦岩の西側約20kmの位置に東西に伸びて発達する地形的高まりである、孀婦海山に求められた(Fujiwara et al., 2024など)。JAMSTECと海上保安庁がそれぞれ独自に実施した海底地形調査により、周囲にカルデラ様地形を伴う山体西側山頂部の地形が大きく陥没していた事が明らかになり、この地震イベントと関連した地形変化だと考えられている(Fujiwara et al., 2024; Minami & Tani, 2024)。この地形変化は、水深800mという深さであっても大きな地形変動を伴う火山活動があった可能性を示唆する。JAMSTECでは2023年から2025年にかけて、孀婦海山における地震・火山活動の詳細を調べるために海底地震計を用いた即時観測や、ドレッジ・無人探査機(ROV)による地質調査を実施した。地質調査の結果、孀婦海山のカルデラ様地形周辺において大きく分けて3種類の火山岩が採取された。カルデラ様地形の内部では地形調査から隆起または堆積による水深の減少が確認されていたが、最表層堆積物として大小さまざまなサイズの沈降軽石が採取された。また、陥没を示した山頂付近および山体斜面では、玄武岩質安山岩を主とする新鮮な苦鉄質岩が見られた。さらに、第三の岩型として、山体北部でドレッジにより採取された苦鉄質岩の一部に粗粒なかんらん石を含む最大2cm程度の苦鉄質捕獲岩が確認された。これらの試料の岩石学的観察、および全岩・局所での地球化学分析を行った。軽石は流紋岩組成で、単斜輝石-直方輝石-斜長石(An33)斑晶を含み、コンドライト規格化REE組成で概ねフラットな組成を示した。これはTamura et al. (2009)による伊豆弧の流紋岩組成の分類における、R2(流紋岩を主体とする火山で噴出するもの)と対比される。苦鉄質岩の多くは単斜輝石-直方輝石-斜長石斑晶を含む玄武岩質安山岩であり、Fo70程度のかんらん石を含むものもある。全岩化学組成はフラットからややLREEに富むREE組成を示す。異なる累帯構造を示す斜長石(An45のCaに乏しいコアおよびAn85のCaに富むコアが、リムでは共にAn60となる)が一つの試料中に混在している場合もあり、マグマ混合を示唆する。苦鉄質岩に稀に含まれる苦鉄質捕獲岩は、コアからリムへFo82からFo85へのMg増加を示す粗粒かんらん石を含む。粒間相およびかんらん石中のメルト包有物として、新鮮な火山ガラスを含むため、これらの局所微量元素組成分析を実施したところ、メルト包有物の火山ガラスは玄武岩質安山岩組成でフラットからややLREEに富むREE組成を示した。一方で、粗粒かんらん石の粒間ガラスはSiO2に乏しい玄武岩組成でLREEに枯渇した組成を示した。以上の観察から、孀婦海山に産する火山岩として4種類のマグマ、すなわち流紋岩マグマ、分化した玄武岩質安山岩マグマ、比較的未分化な玄武岩質安山岩マグマ、および玄武岩マグマが認定された。玄武岩マグマが示したLREEに枯渇する組成は、近隣の玄武岩質安山岩主体火山である孀婦岩の全岩化学組成(Ishizuka et al., 2007)と対比される。Obana et al. (2025)では2023年10月9日のイベント直前の地震活動が北方向に直線的に分布することから、孀婦海山から北方向にマグマ活動による地震の伝播が生じた可能性を指摘している。地震の直線分布上に存在する第一孀婦海丘では玄武岩枕状溶岩が産する。これらの枕状溶岩が2023年10月の活動に際して噴出したものかは不明であるが、枕状溶岩表面に保存されていた急冷ガラスの局所分析では、フラットからややLREEに富むREE組成を得た。孀婦海山の地震・火山活動に関して、三宅島2000年噴火で見られたような噴火直前のマグマ移動と似たことが起こっていたとすると、孀婦海山を主として構成する玄武岩質安山岩マグマが、深部から上昇してきた孀婦岩のマグマと同源の玄武岩マグマによって再活性化し、水平方向の移動および海底噴火を起こした可能性がある。