講演情報

[S2-02]超丹波帯デボン紀層状鉄鉱石のナノスケール鉱物学:続成作用に伴う特異な鉱物組合せの重要性

*鈴木 那菜1、辻森 樹1、福島 諒2、井上 紗綾子3、川本 竜彦4、菅森 義晃5、竹村 静夫6 (1. 東北大・理、2. JAMSTEC・高知コア研、3. 愛媛大・GRC、4. 静岡大・理、5. 鳥取大・理、6. 兵庫教育大・理)

キーワード:

鉄鉱岩、超低変度変成作用、ナノスケール鉱物学、Fe-Mnかんらん石、ファメニアン(後期デボン紀)

海洋中の鉄の挙動は大気・海洋の酸化還元状態を反映し、鉄鉱岩(ironstone)はその変遷を記録する重要な地球化学的アーカイブである。とくに顕生代の鉄鉱岩は、局所的・一時的に鉄の濃集に適した酸化還元・熱水条件が成立したことを示す。海洋環境が大きく変動したデボン紀では、その鉱物学的記録は、生物源プロキシを補完する独立した古海洋学的制約となりうる。しかし、その記録を読み解くには、堆積後の改変過程を慎重に評価する必要がある。造山運動を経て陸上に露出するまでの間に、さまざまな続成作用や弱い変成作用を被る。そのため、海洋から沈殿した初生鉄鉱物の特徴は改変され、鉱物組合せの進化を復元することも容易ではない。実際、多くの太古代縞状鉄鉱床(BIF)は、緑色片岩相以上の変成作用を被っている。そこで我々は、沸石相程度の極低度変成作用しか受けていない西南日本内帯・超丹波帯上月ユニットのデボン紀層状鉄鉱岩に着目し、そのナノスケールの鉱物学的特徴から鉄鉱岩形成の初期過程を復元するとともに、Hangenbergイベントに代表されるデボン紀の海洋態系、炭素循環および大気酸素濃度の変動を記録する地質学的証拠の解読を目指している。本講演では、ナノスケールのFe–Mnかんらん石および珪灰鉄鉱によって特徴づけられる特異な鉱物共生に加え、層状鉄鉱岩に認められる級化層理の最下部を構成する鉄酸化物のナノスケール組織と構成鉱物を紹介し、それらがもつ鉱物学的・地質学的意義について議論する。 本研究では、白水川の河床露頭から採取した層状鉄鉱岩試料(鉄質チャート)を用いた。本試料は、数ミリメートル間隔で繰り返す級化層理によって特徴づけられ、磁鉄鉱に富む層と珪酸塩鉱物に富む層が互層する。後者には、楕円形の放散虫化石(長径100 µm)が良好に保存されている。なお、同一露頭に産する玄武岩の変質鉱物組合せは、曹長石+緑泥石+方解石+アナターゼであり、ぶどう石およびパンペリー石を欠く。 磁鉄鉱に富む層の級化層理基底部は、ミリメートル〜マイクロメートルスケールでは比較的均質な磁鉄鉱から構成されるように見える。しかし、FE-TEM観察により、最小粒径約200 nmのナノスケール磁鉄鉱を主体とし、ナノスケールの燐灰石などを伴うことが明らかとなった。一方、珪酸塩鉱物に富む層では、サブミクロンサイズのCa–Mn単斜輝石、カリオピライトおよび微細な石英からなるマトリクス中に、クロット状のFe–Mnかんらん石を含む珪酸塩鉱物集合体が認められた。FE-TEM観察の結果、FIB薄膜内だけでも少なくとも6種の鉱物相から構成され、ナノスケールの多相・多結晶集合体をなす珪灰鉄鉱(イルバイト)に伴ってかんらん石が存在することが確認された。これらのナノスケール鉱物が海水中でコロイド状粒子として形成され、そのまま海洋底に堆積したとは考えにくく、深海底への堆積後、続成作用ないし極低度変成作用に伴う局所的な反応によって形成された可能性が高い。とりわけ、ナノ多結晶集合体の形成には、前駆物質の分解によって反応界面が局所的かつ一時的に強い過飽和状態に達し、高密度の核生成が生じた可能性が考えられる。このため、各微小ドメインに保存された鉱物学的情報を解析し、続成作用に伴う局所的な反応過程を追跡する必要がある。このような物質の解析は、過去の海洋環境や続成過程を復元するという地質学的意義にとどまらず、低温・非平衡条件下において非生物的反応からナノ多相・多結晶集合体が形成される機構を理解するという、物質科学的観点からも重要である。