講演情報
[S2-05]開口亀裂マッピングによる幌満カンラン岩体の浸透率テンソルの推定と深度依存性
*成瀬 雄一朗1、赤松 祐哉2、伊藤 禎宏3、中川 嵩斗1、片山 郁夫3 (1. 広島大・院地球惑星、2. JAMSTEC、3. 京都大・院岩石鉱物)
キーワード:
浸透率テンソル、幌満カンラン岩体、亀裂マッピング、異方性、深度依存性
浸透率は岩石中の流体の流れやすさを示す指標であり,岩石中に存在する空隙の構造を反映する.特に亀裂はその地層における流体移動を支配し,フラクチャーの方向,長さ,連結性や開口幅の不均質性は浸透率の異方性や流体の移動経路に大きな影響を与えるため,地震イベント(断層再活性化,誘発地震)や流体資源(地下水,地熱流体),二酸化炭素や放射性廃棄物の地層貯蔵や処分など,地球科学に関する多くの分野で重要な要素となる.これまでに行われた室内実験では,様々な岩石試料に対して岩石中の空隙や亀裂が浸透率に与える影響が検証されている.実験室で測定される浸透率は一般的に,花崗岩などの結晶質岩石や断層岩では10-21―10-14 m2であるのに対し,マクロな亀裂を含んだ岩石試料の浸透率は10-12―10-9 m2と報告されている.実際の露頭や掘削孔などで得られる浸透率は10-14―10-7 m2の範囲を示しており,岩石マトリックス部分の流体移動を反映する実験値よりも数桁高く,亀裂を含んだ岩石試料の浸透率と同程度の値を示す.これは,実験室と現場での測定スケールの違いによって浸透率は大きく異なり,現場スケールでの流体移動は大規模な亀裂によって支配されることを示唆する.原位置の浸透率は,ボーリング孔を用いた原位置測定に加え,流体移動経路の幾何学的特性をモデル化することで,理論的に推定することができる.本研究では,北海道の幌満カンラン岩体において,開口した亀裂のマッピングを実施し,露頭スケールでの浸透率テンソルとその深度依存性を評価した.調査では南北方向に約13 m、東西方向に約6 mの範囲でスキャンライン法を用いた亀裂マッピングを実施した。対象露頭に約2 mのスキャンラインを東西および南北方向に設定し,そのラインと交差する亀裂の本数,走向・傾斜,開口幅を測定した.開口幅はクラックスケールを用いて測定した.本研究は幌満かんらん岩体の現在の浸透率を推定することが目的であるため,鉱物が沈殿して閉塞した亀裂(鉱物脈)は除外し,開口している亀裂のみを測定対象とした.得られた亀裂の走向・傾斜と開口幅のデータをもとに,小田の浸透率テンソル理論を用いて浸透率テンソルを計算した.さらに、亀裂開口幅の応力依存性を考慮することで、深度の増加に伴う開口幅の減少が、浸透率テンソルの変化や主浸透率方向の回転に与える影響を計算し、深度依存性を評価した。測定された亀裂の走向と傾斜は,概ね2つの方向に分かれている.これら2つの亀裂群の極の集中部は約60度の角度をなしている.したがって,これらの亀裂は共役関係にあり,特定の応力場の中で同時に発達した可能性が高い.露頭に見られる斜長石の濃集帯から推定されるマグマティックな層理面は,概ね調和のとれた方位を示していた.計算の結果,フィールドスケールでの浸透率は10-13―10-12 m2の範囲となり、最大主浸透率と中間主浸透率は同程度であった.最大主浸透率の方向は層理面とほぼ平行であり,層理面に垂直な方向では浸透率が最小であった.深度依存性の評価では、浸透率は深度とともに指数関数的に減少し、深度100 mにおいては10-15―10-14 m2に低下する結果となった。加えて,対象地域が強い東西方向の圧縮応力を受けていると仮定した場合、深度の増加に伴って浸透率の異方性が大きくなり、主浸透率方向の回転が生じることも示された。これらの結果は、浸透率が深度に強く依存すること、そして亀裂の幾何学的構造と応力状態の相互作用が浸透率テンソルの異方性に大きく影響することを示している。したがって、開口幅に基づく本研究の浸透率推定手法は、鉱物充填を伴わない亀裂ネットワークにおける流体移動を評価するための有効な指標となる。一方で,本研究で得られた浸透率テンソル理論による推定は,亀裂の開口幅に強く依存するため,その推定値には大きな不確かさを含む.また,圧密の影響や応力効果によって地表で見られる浸透率と地中での浸透率には違いが生じる可能性もある。したがって,今後は原位置で浸透率を実測し,本研究で得られた値との比較を検証することが極めて重要である.なお,本研究の原位置スケールの浸透率は,超苦鉄質岩を対象とした二酸化炭素の鉱物トラップ(炭酸塩鉱物化)の現場実証における流体移動の基礎的なデータとして期待できるほか,浸透率の異方性から古応力場の復元,流体の流れが引き起こす蛇紋岩化プロセスの定量的評価のための基礎的なデータとなることが期待される.
