講演情報

[S2-08]海底熱水系における硫化鉱物ネットワーク構造を介した熱電変換機構の検討

*戸田 賢太朗1、岡本 敦1、ダンダル オトゴンバヤル1、佐藤 義倫1、大柳 良介1、井原 智則2、野崎 達生3,4 (1. 東北大・院環境、2. 東京海洋大、3. 早稲田大、4. 東京大)

キーワード:

海底熱水噴出孔、硫化物チムニー、熱電変換効果、デジタルツイン、岩石ー生命相互作用

海底熱水噴出孔は,中央海嶺,島弧や背弧域,リフト帯の海洋底に分布する.熱水噴出孔の周囲には熱水と海水の混合により硫化物チムニーが形成され,その近傍には光合成から独立した特異な化学合成生物群集が存在する.その栄養源の1つとして,還元的な熱水から酸化的な海水へ硫化物チムニーを介して供給される電子が考えられている (Yamamoto et al., 2023).そのため熱水噴出孔での発電機構の解明は,深海生態系の成り立ちの理解に重要である.硫化物チムニーは多様な電気伝導率を持つ鉱物で構成される.黄鉄鉱 (FeS2) や黄銅鉱 (CuFeS2),方鉛鉱 (PbS) は高い電気伝導率を示す一方で,閃亜鉛鉱 (ZnS) は絶縁体並みの導電性を示す (Okamoto et al., 2026).そのため,チムニー全体の発電性能を評価するためには低・高導電性鉱物の三次元分布と連結性を明らかにし,それらをバルクの電気・熱輸送特性と関連付けることが重要である.しかし,チムニー内部の鉱物の三次元組織は十分に解析されておらず,さらに直径数mに達するチムニー全体の電気伝導率や熱伝導率などのバルク特性を直接測定することは困難である.本研究では,沖縄トラフから採取された硫化物チムニー試料を対象にX線CT解析を行い,鉱物の三次元分布と連結性を評価した.さらに,チムニーのデジタルツインを基に数値シミュレーションを行うことで,バルクの電気・熱輸送特性を算出し,鉱物組織と発電現象との関係を検討した.

 本研究で解析した沖縄トラフのチムニーは,(i) 多孔質な重晶石 (BaSO4) と閃亜鉛鉱 (ZnS) からなる試料,(ii) 閃亜鉛鉱と球状黄鉄鉱 (FeS2) からなる試料,(iii) 閃亜鉛鉱・黄鉄鉱からなり空隙周辺が方鉛鉱 (PbS) や黄銅鉱 (CuFeS2) で置換された試料の3種に大別された.主に閃亜鉛鉱で構成されるグループ (ii) の試料のX線CT解析から,チムニー壁内の空隙の約97%が外部と連結していることが見出された.また,成長後期の試料では空隙表面に厚さ100 μm程の黄銅鉱膜が析出し,空隙の形状をなぞるようにしてチムニー壁内にネットワーク構造を形成していることが分かった.この組織を反映した電気・熱輸送シミュレーションの結果,閃亜鉛鉱単体に比べて黄銅鉱のネットワークが発達した組織のバルク電気伝導率は最大10桁の増加が起こった.一方でバルクの熱伝導率の変化は小さく,閃亜鉛鉱単体の16.0 Wm-1K-1に対して黄銅鉱膜の析出したモデルでは12.1 Wm-1K-1となった.これによって熱電変換性能は最大8オーダー増加した.

 以上を基に熱水噴出孔での熱電変換機構について考察する.チムニー断面の組織観察と先行研究との比較から,グループ (i),(ii),(iii) それぞれが,熱水温度の上昇に伴うチムニー累帯構造の成長初期・中期・後期段階に対応していると考えられる (Meng et al., 2024).特に,黄銅鉱を含む試料はチムニー成長期の後期に対応すると考えられ,観察されたネットワーク状の黄銅鉱は,連結した空隙の壁に卓越して形成したと考えられる.連結した空隙に沿って高い電気伝導率をもつ黄銅鉱が析出した結果,少量 (約12 wt%) の黄銅鉱であっても,バルクの電気伝導率が大幅に向上したと考えられる.一方,黄銅鉱は半導体であり,熱伝導には電子だけでなく格子熱伝導も寄与する (Mizutani, 2001).そのため,黄銅鉱ネットワークの形成による熱伝導率への影響は比較的小さく,熱起電力の発生に必要な温度勾配は維持されたと考えられる.すなわち,黄銅鉱のような高導電性半導体鉱物の膜からなるネットワーク構造は,温度勾配を保持したまま電子輸送のみを促進することで,チムニー全体の熱電変換性能を著しく向上させたと解釈される.これらのことは,チムニー壁を介した電子輸送が高導電性鉱物のネットワーク構造によって制御されることを示唆する.また,高導電性鉱物ネットワークにより発生した熱起電力が局所的な過電圧として作用し,チムニー表面での酸化還元反応を促進する可能性を示唆する.特に,従来の海底熱水環境では自発的には進行しにくいCO2からCOへの還元反応のような高い過電圧を要する反応に対しても,熱起電力が駆動力の一部を担う可能性がある.

参考文献Yamamoto, M. et al. In situ electrosynthetic bacterial growth using electricity generated by a deep-sea hydrothermal vent. The ISME Journal 17, 12–20 (2023).Shuey, R. Semiconducting Ore Minerals. (Elsevier, 2012).Okamoto, A. et al. Self-organized thermoelectric conversion systems on the deep seafloor. Geology 54, 275–279 (2026).Meng, X. et al. Sulfur isotopes as a new indicator for the maturation of sulfide chimneys in submarine hydrothermal systems. Marine Geology 467, 107191 (2024).Mizutani, U. Introduction to the Electron Theory of Metals. (Cambridge University Press, Cambridge New York, 2001).