講演情報

[S2-09]沈み込み帯前弧マントルの炭酸塩化:岩石物理モデルとベイズ逆解析による検討

*大柳 良介1、赤松 祐哉2、永冶 方敬3、桑谷 立2 (1. 東北大学、2. 海洋研究開発機構、3. 早稲田大学)

キーワード:

前弧マントル、炭酸塩化、ベイズ逆解析

沈み込み帯における地質学的炭素循環は、地球の環境や生命の居住可能性を維持・調整する上で極めて重要な役割を果たしている。主にかんらん岩からなる前弧マントルは、スラブ由来の流体と反応して炭酸塩鉱物を形成することで、炭素を長期的に固定・貯留する炭素貯蔵庫となる潜在的な重要性を持っている。これまで、実験的・熱力学的な研究により、前弧マントルの炭酸塩化が起きうることをが示されている(e.g., Oyanagi and Okamoto, 2024)。一方で、前弧マントルの炭酸塩化に関する観測的証拠は得られていない。マントル岩石の蛇紋岩化と炭酸塩化は、地震波速度(P波およびS波速度)に対して同様の低下効果を及ぼすため(Katayama et al. 2023)、地震波観測データのみから前弧マントルにおける炭素固定の度合いを定量的に制約することはこれまで困難であった。
 本研究では、この課題に対処するため、岩石物理モデリングとベイズ逆解析を統合し、観測された地震波速度と整合する鉱物組成、空隙率、および空隙の幾何形状を特定する新しい手法を構築した。この手法を、厚さ 3–5 km の顕著な超低速度層(VP = 5540 m/s, VS = 2700 m/s)が確認されているメキシコ沈み込み帯南部に適用した。
 ベイズ解析の結果、観測された地震波データは、以下の3つの異なる鉱物組合せ(クラスター)によって説明可能であることが示された:(I) 滑石 + かんらん石、(II) 滑石 + アンチゴライト、(III) 滑石 + 炭酸塩(マグネサイト)。
 数値的な地震波インバージョン結果に岩石学的な安定性(熱構造制約)を加味するため、スラブ流体とマントル岩石の熱力学相平衡計算を実施した。その結果、メキシコ沈み込み帯の前弧マントルは、逆解析で得られた3つの組み合わせのうち滑石と炭酸塩(1–28 vol%)に富む岩石層で構成されている可能性が尤もらしいことがわかった。本研究はメキシコ沈み込み帯が地球全体の炭素循環において極めて特異なアノマリー(超高効率な炭素トラップ領域)であることを示し、フラットスラブ沈み込みに制御された前弧マントルの変成・交代作用が、深部地球への炭素隔離を制御するフィルターとして機能していることを示唆する。