講演情報
[S2-12]ファスト・スロー地震発生帯における鉱物脈の分布とシーリング挙動
*宇野 正起1、甘利 泰斗2、松野 哲3、岡本 敦2 (1. 東京大学・地惑、2. 東北大学・環境、3. 東京大学・大気海洋研)
キーワード:
ファスト・スロー地震発生帯、鉱物脈、シリカシーリング、再来周期、断層バルブモデル
地震発生帯におけるき裂への鉱物析出は,通常の地震(ファスト地震)やスロー地震の再来周期を支配する主要な要因の1つと考えられている.特に,スロー地震の再来周期は,上盤地殻のVp/Vs比と比例し,深部ほど短い傾向があることから,石英によるき裂のシーリングがスロー地震の再来周期を支配しているとの仮説が提唱されている[1].しかしながら,地震発生帯における石英脈をはじめとした鉱物脈の分布を網羅的に明らかにした例は無く,そのシーリング挙動の深さ・温度依存性を明らかにした実験も無いのが現状である.本講演では,沈み込み帯起源の高圧変成岩の広域野外調査・地化学解析から石英脈の分布を明らかにするとともに,室内実験からき裂シーリング時間の温度依存性を示し,地震発生帯におけるき裂シーリングの役割と課題について議論する.
沈み込み帯起源の高圧変成帯である三波川変成帯の広域野外調査からは,泥質片岩中の鉱物脈は緑泥石帯の最下部(最高被熱温度約300℃)付近において体積分率約15–30%程度と極めて多く,幅数cm–数mmの曹長石-石英脈から構成される.一方,より高温であるざくろ石帯 (~450℃),黒雲母帯 (500-550℃)では5–7%と有意に少なく,少数の幅5–30 cmの非常に大きな石英脈から構成される.全岩化学組成の物質移動量AI解析[2, 3]からは,緑泥石帯最下部では露頭全体で+32 wt%の顕著なSiO2の付加が生じている一方,SiO2付加量は緑泥石帯上部,ざくろ石帯,曹長石黒雲母帯,灰曹長石黒雲母帯では,+4.6, +5.6, -1.9, -8.2 wt%であり,高変成度ほどSiO2の溶脱が生じている.以上より,三波川変成帯の泥質片岩の産状からは,地震発生帯/スロー地震発生帯の境界付近である300℃付近で大量のシリカシーリングが発生していることが明らかになった.
地震発生帯の温度条件を再現した高封圧下(100MPa)での反応透水試験では,50 MPaから0.1 MPaへの極端な流体圧降下により,岩石内にアモルファスシリカ脈を生成することに成功した.約4日間の実験において250℃では幅約20 µmのシリカ脈が約13本,360℃では幅3–5 µmのシリカ脈が約35本生成し,高温ほどより頻繁に細い脈が生成することが明らかになった.これらの脈形成は,浸透率の周期的な脈動を伴っており,1回のシーリング時間は250℃では24–36時間であるのに対して,360℃では3–6時間と100℃の温度上昇で1/12–1/4に減少し,シリカ鉱物の沈殿速度の温度依存性で説明可能である.このシーリング時間の温度依存性は,長期的スロースリップの再来周期の深度依存性と調和的であり,シリカ鉱物によるき裂シーリングがスロー地震の再来周期を規定している可能性が実験的に示された.
以上より,地震発生帯からスロー地震発生帯において顕著な鉱物脈シーリングが発達しており,それらの挙動がスロー地震の再来周期を規定しうる物質科学的な根拠が得られた.一方で,天然で観察される鉱物脈の鉱物組み合わせやその組織の多様性を説明するモデルや実験は無く,これらの鉱物脈の沈殿駆動力を実証的に解明する研究が必要である.
[1] Audet and Bürgmann (2014) Nature, 510, 389–392.
[2] Matsuno, Uno, Okamoto et al. (2022) Scientific Reports, 12, 1385.
[3] Matsuno, Uno, Okamoto (2025) JGR Machine-Learning and Computation, 2, e2025JH000700.
沈み込み帯起源の高圧変成帯である三波川変成帯の広域野外調査からは,泥質片岩中の鉱物脈は緑泥石帯の最下部(最高被熱温度約300℃)付近において体積分率約15–30%程度と極めて多く,幅数cm–数mmの曹長石-石英脈から構成される.一方,より高温であるざくろ石帯 (~450℃),黒雲母帯 (500-550℃)では5–7%と有意に少なく,少数の幅5–30 cmの非常に大きな石英脈から構成される.全岩化学組成の物質移動量AI解析[2, 3]からは,緑泥石帯最下部では露頭全体で+32 wt%の顕著なSiO2の付加が生じている一方,SiO2付加量は緑泥石帯上部,ざくろ石帯,曹長石黒雲母帯,灰曹長石黒雲母帯では,+4.6, +5.6, -1.9, -8.2 wt%であり,高変成度ほどSiO2の溶脱が生じている.以上より,三波川変成帯の泥質片岩の産状からは,地震発生帯/スロー地震発生帯の境界付近である300℃付近で大量のシリカシーリングが発生していることが明らかになった.
地震発生帯の温度条件を再現した高封圧下(100MPa)での反応透水試験では,50 MPaから0.1 MPaへの極端な流体圧降下により,岩石内にアモルファスシリカ脈を生成することに成功した.約4日間の実験において250℃では幅約20 µmのシリカ脈が約13本,360℃では幅3–5 µmのシリカ脈が約35本生成し,高温ほどより頻繁に細い脈が生成することが明らかになった.これらの脈形成は,浸透率の周期的な脈動を伴っており,1回のシーリング時間は250℃では24–36時間であるのに対して,360℃では3–6時間と100℃の温度上昇で1/12–1/4に減少し,シリカ鉱物の沈殿速度の温度依存性で説明可能である.このシーリング時間の温度依存性は,長期的スロースリップの再来周期の深度依存性と調和的であり,シリカ鉱物によるき裂シーリングがスロー地震の再来周期を規定している可能性が実験的に示された.
以上より,地震発生帯からスロー地震発生帯において顕著な鉱物脈シーリングが発達しており,それらの挙動がスロー地震の再来周期を規定しうる物質科学的な根拠が得られた.一方で,天然で観察される鉱物脈の鉱物組み合わせやその組織の多様性を説明するモデルや実験は無く,これらの鉱物脈の沈殿駆動力を実証的に解明する研究が必要である.
[1] Audet and Bürgmann (2014) Nature, 510, 389–392.
[2] Matsuno, Uno, Okamoto et al. (2022) Scientific Reports, 12, 1385.
[3] Matsuno, Uno, Okamoto (2025) JGR Machine-Learning and Computation, 2, e2025JH000700.
