講演情報
[S2P-01]長野県大鹿村のダナイト中の蛇紋石脈に産する自然鉄の形成
*武田 侑也1、桑原 義博2、上原 誠一郎3 (1. 九州大・地球社会、2. 九州大・比文、3. 九州大・博物館)
キーワード:
自然鉄、蛇紋岩化作用
はじめに
蛇紋岩化作用においてカンラン石と熱水の反応に伴うFeの価数変化により,H2が発生することで,自然鉄,アワルワ鉱などが形成される場合がある(Frost, 1985).蛇紋岩化作用で形成した自然鉄は世界各地で報告があるものの産出量が少なく,微細構造や共生鉱物との関係性などを記載した例は非常に少ない.長野県大鹿村のカンラン岩中の蛇紋石脈からは日本で初めて蛇紋岩化作用で生じる楕円形の自然鉄が報告された(岡本ら, 1981; Sakai & Kuroda, 1983).昨年の鉱物科学会では自然鉄を含む蛇紋石脈の観察結果から自然鉄の生成にはシリカ活動度及び水分活性の低下によって形成された可能性を報告した.今回はこれらについて相図を作成し,自然鉄の生成について考察した.
方法
構成鉱物はX線回折分析(Rigaku Ultima Ⅳ, Rigaku RINT RAPID Ⅱ)で決定した.化学組成分析,組織観察には九州大学地球惑星科学科のSEM-EDS (JEOL JSM-7001F) 及びEPMA (JEOL JXA-8530F)を用いた.また,九州大学超顕微解析研究センターのFIB-SEM (Thermo Fisher Scientific Helios 5 UX)を用いて薄膜試料を作成し,同センターの透過型電子顕微鏡(JEOL JEM-ARM300F2, JEOL JEM-2100F)で組織観察を行った.蛇紋岩中の鉱物の安定領域を示す相図はPerple_X (Connolly, 2005)を用い,1kbar,カンラン石の#Mg=92で作成した.
結果と考察
楕円形の自然鉄を含む蛇紋石脈は幅10 µm ~ 100 µmで,薄片の肉眼観察では灰緑色に見える.岩石薄片のSEM観察では自然鉄は蛇紋石脈の中心に存在し,長軸が脈に対して垂直になるような楕円形で並び,一部の自然鉄の周囲には磁鉄鉱が形成していた.蛇紋石脈の破断面のSEMによる形態観察により,自然鉄は紡錘形で表面には明瞭な結晶面が見られなかった.脈の中心にブルース石に富む部分があり,脈とカンラン石の境界には長さ数 µmから20 µmの針状の変質部が蛇紋石脈からカンラン石結晶内部に向かって見られた.TEMによる観察で,針状変質部はリザーダイトとブルース石で構成され,カンラン石との境界は蛇紋石で中心にはブルース石が存在していた.また,蛇紋石脈は、カンラン石に近い場所はクリソタイルと多角柱状蛇紋石で構成される.脈の中心に近くなるとリザーダイトとブルース石,自然鉄,磁鉄鉱で構成されていた.STEM-EDSマッピングの結果から蛇紋石,ブルース石の化学組成を求めた.針状変質部の蛇紋石の#Mgは0.94でブルース石の#Mgは0.83であった.また,脈中のリザーダイトの#Mgは0.96,多角柱状蛇紋石+クリソタイルの#Mgは0.97で,ブルース石の#Mgは0.87であった.
自然鉄を含む蛇紋石脈に見られた針状変質部はPlümper et al. (2012)が報告したアモルファス前駆蛇紋石(APSP)に対応する.蛇紋石脈の成長に伴い,針状変質部のリザーダイトとブルース石を使って多角柱状蛇紋石とクリソタイルが発達した.これらの蛇紋石の形成によりSiO2(aq)が消費されるため,蛇紋石脈の中心部は反応の進行とともに低Si環境となり,リザーダイト+ブルース石が安定的に形成されたと考えられる.また,蛇紋岩化が途中で止まっていることから.カンラン岩に供給された熱水量は有限であり,反応の進行に伴って水分活性も低下したと推定される.Perple_Xを用いてH2Oの化学ポテンシャルを低下させた相図を作成したところ蛇紋石+ブルース石及びブルース石の安定領域が縮小し,代わって自然鉄や磁鉄鉱の安定領域が拡大することが確認できた.これらの結果は,大鹿村の自然鉄は蛇紋岩化作用の後期に低Si・低H2O活動度の環境で形成されたことを示唆する.
謝辞
本研究にあたり,Perple_Xの操作方法についてご指導いただいた大柳良介助教(指導当時:国士舘大学理工学部,現所属:東北大学大学院環境科学研究科)に深く感謝いたします.
蛇紋岩化作用においてカンラン石と熱水の反応に伴うFeの価数変化により,H2が発生することで,自然鉄,アワルワ鉱などが形成される場合がある(Frost, 1985).蛇紋岩化作用で形成した自然鉄は世界各地で報告があるものの産出量が少なく,微細構造や共生鉱物との関係性などを記載した例は非常に少ない.長野県大鹿村のカンラン岩中の蛇紋石脈からは日本で初めて蛇紋岩化作用で生じる楕円形の自然鉄が報告された(岡本ら, 1981; Sakai & Kuroda, 1983).昨年の鉱物科学会では自然鉄を含む蛇紋石脈の観察結果から自然鉄の生成にはシリカ活動度及び水分活性の低下によって形成された可能性を報告した.今回はこれらについて相図を作成し,自然鉄の生成について考察した.
方法
構成鉱物はX線回折分析(Rigaku Ultima Ⅳ, Rigaku RINT RAPID Ⅱ)で決定した.化学組成分析,組織観察には九州大学地球惑星科学科のSEM-EDS (JEOL JSM-7001F) 及びEPMA (JEOL JXA-8530F)を用いた.また,九州大学超顕微解析研究センターのFIB-SEM (Thermo Fisher Scientific Helios 5 UX)を用いて薄膜試料を作成し,同センターの透過型電子顕微鏡(JEOL JEM-ARM300F2, JEOL JEM-2100F)で組織観察を行った.蛇紋岩中の鉱物の安定領域を示す相図はPerple_X (Connolly, 2005)を用い,1kbar,カンラン石の#Mg=92で作成した.
結果と考察
楕円形の自然鉄を含む蛇紋石脈は幅10 µm ~ 100 µmで,薄片の肉眼観察では灰緑色に見える.岩石薄片のSEM観察では自然鉄は蛇紋石脈の中心に存在し,長軸が脈に対して垂直になるような楕円形で並び,一部の自然鉄の周囲には磁鉄鉱が形成していた.蛇紋石脈の破断面のSEMによる形態観察により,自然鉄は紡錘形で表面には明瞭な結晶面が見られなかった.脈の中心にブルース石に富む部分があり,脈とカンラン石の境界には長さ数 µmから20 µmの針状の変質部が蛇紋石脈からカンラン石結晶内部に向かって見られた.TEMによる観察で,針状変質部はリザーダイトとブルース石で構成され,カンラン石との境界は蛇紋石で中心にはブルース石が存在していた.また,蛇紋石脈は、カンラン石に近い場所はクリソタイルと多角柱状蛇紋石で構成される.脈の中心に近くなるとリザーダイトとブルース石,自然鉄,磁鉄鉱で構成されていた.STEM-EDSマッピングの結果から蛇紋石,ブルース石の化学組成を求めた.針状変質部の蛇紋石の#Mgは0.94でブルース石の#Mgは0.83であった.また,脈中のリザーダイトの#Mgは0.96,多角柱状蛇紋石+クリソタイルの#Mgは0.97で,ブルース石の#Mgは0.87であった.
自然鉄を含む蛇紋石脈に見られた針状変質部はPlümper et al. (2012)が報告したアモルファス前駆蛇紋石(APSP)に対応する.蛇紋石脈の成長に伴い,針状変質部のリザーダイトとブルース石を使って多角柱状蛇紋石とクリソタイルが発達した.これらの蛇紋石の形成によりSiO2(aq)が消費されるため,蛇紋石脈の中心部は反応の進行とともに低Si環境となり,リザーダイト+ブルース石が安定的に形成されたと考えられる.また,蛇紋岩化が途中で止まっていることから.カンラン岩に供給された熱水量は有限であり,反応の進行に伴って水分活性も低下したと推定される.Perple_Xを用いてH2Oの化学ポテンシャルを低下させた相図を作成したところ蛇紋石+ブルース石及びブルース石の安定領域が縮小し,代わって自然鉄や磁鉄鉱の安定領域が拡大することが確認できた.これらの結果は,大鹿村の自然鉄は蛇紋岩化作用の後期に低Si・低H2O活動度の環境で形成されたことを示唆する.
謝辞
本研究にあたり,Perple_Xの操作方法についてご指導いただいた大柳良介助教(指導当時:国士舘大学理工学部,現所属:東北大学大学院環境科学研究科)に深く感謝いたします.
