講演情報
[S2P-05]高度変成剪断帯からみたKCl流体流入による動的な下部地殻強度低下
*星野 百南1、宇野 正起1、小山 雪乃丞1、ウォリス サイモン1、山口 飛鳥2、河上 哲生3、東野 文子3、足立 達朗4 (1. 東大・理、2. 東大・大海研、3. 京大・理、4. 九大)
キーワード:
岩石-流体反応、下部地殻、反応-輸送解析、地殻強度
プレート境界におけるスロー地震は流体活動に関連した現象として理解されつつある。近年ではプレート境界だけでなく大陸地殻内部でも流体とスロー地震の関連が示唆されており、2024年の能登半島地震では、スロー地震が発生した断層帯に流体に富むと考えられるS波反射面が存在することが報告された[1]。特に下部地殻は、大陸リソスフェアの強度を支配し、地殻全体の変形様式や歪み局所化を規定する重要な層である。地球物理学的観測からは流体による下部地殻の弱化が示唆されているが[2]、従来モデルは単一鉱物のレオロジーに依存し、流体や含水鉱物の役割を十分考慮していない。一方、天然の高度変成岩では、岩石-流体反応による含水鉱物形成が著しい歪み局所化と対応することが知られている[3]。しかし、その反応と変形の時間スケールは十分に明らかではない。そこで本研究では、天然の下部地殻剪断帯に対する流体反応・変形解析と反応輸送解析[4]を統合し、歪み局所化プロセスとその時間スケールの解明を目的とした。調査地域は東南極セールロンダーネ山地プラットニーパネ地域の延性衝上構造境界である。セールロンダーネ山地はゴンドワナ大陸衝突(約650–500 Ma)時に形成された主要構造境界であり、中部~下部地殻起源の高度変成岩が広く分布する[5]。プラットニーパネ地域では、異なる温度圧力履歴をもつ変成ユニットの境界に延性衝上構造境界が見られる[6]。対象露頭は、この境界下盤側に位置するザクロ石–黒雲母–角閃石片麻岩で、著しい剪断変形とブーディンが発達する。本研究では、母岩である単斜輝石–ザクロ石–角閃石片麻岩から黒雲母–角閃石片麻岩の卓越剪断帯へ至る幅40 cmの反応–変形帯を解析した。卓越剪断帯からの距離をxとして、単斜輝石–ザクロ石–角閃石帯(母岩、x > 27 cm)、ザクロ石–角閃石帯(x = 8–21 cm)、角閃石帯(x = 3–8 cm)、黒雲母–角閃石帯(卓越剪断帯、x = 0–3 cm)の4鉱物帯が認められ、卓越剪断帯へ向かう累進的な水和反応を示した。母岩から角閃石帯にかけてザクロ石の粒径は数百µmから減少し、モードも減少し消滅する。卓越剪断帯では粒径数百µmの黒雲母、角閃石、斜長石が露頭全体の面構造と平行に強く配列する。XRFおよび鉱物化学組成・鉱物モードから推定した全岩組成では、卓越剪断帯へ向かってK、Cl、H₂Oの濃集が認められた。アパタイト中Cl濃度はx = 0 cmの0.46 wt%から遠ざかるにつれ減少し11.7 cm以遠では0.01 wt%未満まで低下した。角閃石-斜長石温度圧力計[7,8]から流体反応条件は600–700°C、0.4–0.8 GPaと推定され、これはピーク変成後の後退変成作用[6]に対応する。結晶方位解析では、母岩で弱かった形態定向配列が卓越剪断帯で顕著となり、斜長石(001)面および角閃石(100)面が強い配向を示した。さらに、アパタイト中Cl濃度プロファイルの反応輸送解析から、移流距離15 cm、拡散距離6.7 cm、流体活動継続時間約1年が得られた。以上より、KClに富む流体の浸透とK付加による黒雲母形成が歪み局所化を促進したことが示された。また、剪断帯面構造に斜交して成長する黒雲母の存在から、剪断変形は流体浸透期間中に進行し、歪み局所化は約1年以内という短期間で達成されたと考えられる。推定した変形継続時間と露頭から見積もった変位量から求めたすべり速度は3×10^-8 m/sであり、ゆっくりすべりの代表的な速度範囲に相当する。さらに、黒雲母の著しく弱いレオロジー特性[9]を考慮すると、岩石強度は数百MPaから数十MPaへ急激に低下した可能性が高い。本研究は、KCl流体と岩石との反応による剪断帯での黒雲母形成が約1年という短期間で生じ得ることを示した。これは下部地殻のレオロジーが流体浸透によって急激に弱化し得ることを示し、KCl流体の流入が活動的な下部地殻剪断帯における高歪み速度や局所的な地震活動を説明する物理化学的メカニズムの一つである可能性を示唆する。 [References]1: Nishimura et al. (2023)2: Wannamaker et al. (2009)3: Mérit et al. (2025)4: Mindaleva et al. (2020)5: Osanai et al. (2013)6: Adachi et al. (2023)7: Holland & Blundy (1994)8: Bhadra & Bhattacharya (2007)9: Kronenberg et al. (1990)
