講演情報

[S2P-08]水熱実験に基づく珪灰石の炭酸化反応におけるCaおよびSiの移動・固定化挙動

*韓 山1、岡本 敦1、大柳 良介1、Otgonbayar Dandar1 (1. 東北大学·院環境)

キーワード:

珪灰石、CO₂鉱物固定化、水熱炭酸化、Ca・Si移動挙動、マスバランス解析

塩基性岩や超塩基性岩はMgやCaを豊富に含み、CO2と反応することにより炭酸塩鉱物を生成し、このCO2鉱物固定化は長期的なCO₂地中貯留として注目されている。珪酸塩鉱物の炭酸塩化では、副生成物として石英、滑石、スメクタイトなどのシリカに富む鉱物を生成し、全体としては体積が増加する。従って、塩基性岩や超塩基性岩のCO2鉱物固定化において、炭酸塩鉱物とシリカ鉱物の空間分布や金属イオンと溶存シリカの挙動が効果的なCO2鉱物固定化の鍵を握る。珪灰石(CaSiO₃)は、高いカルシウム含有量と速い炭酸化反応速度を示す珪酸塩であり、これまでに多くの実験的研究がなされてきた(Huijgen et al. 2006)しかし、珪灰石の炭酸化反応におけるCaおよびSiの移動vs.固定化挙動を決める支配要因とメカニズムについては未だによくわかっていない。本講演では、珪灰石の炭酸塩化に関する水熱実験による反応生成物の組織とCaおよびSiの移動挙動に関する予察的な結果を報告する。
水熱実験にはバッチ式反応容器を使用した。反応容器に珪灰石粉末(粒径150-250 µm) 1.6 g、Milli-Q水50mLを加えた後、CO2を導入した。200℃、CO₂圧力20MPaの条件下であり、実験時間は24、48および70時間である。反応後の固体試料は電子線マイクロアナライザーおよび熱重量分析により分析し、反応後溶液中のCaおよびSi濃度は誘導結合プラズマ発光分光分析により測定した。
反応後の試料観察により、方解石とシリカの生成が確認された。方解石は珪灰石表面に自形結晶として産する。一方で、シリカは珪灰石の仮像を残しながら置換し、未反応の珪灰石のコアを取り囲むように産する。反応後の試料の熱重量分析では、方解石の分解に対応する約600-800℃における重量減少がみられた。重量減少率は時間とともに増加し、70時間反応後の試料で10.58 wt%であった。
反応後溶液のpHは24時間後 48時間後および70時間後でそれぞれ 5.96, 6.74 および 6.14であった。反応後の溶液中のCaおよびSi濃度は、24時間、48時間および70時間反応後でそれぞれ Ca: 80.1, 120.9 および 48.1 mg/kg-H₂O, Si: 133.9, 172.3 および 111.4 mg/kg-H₂Oであった。CaおよびSi濃度はいずれも48時間後に最大値を示したが、70時間後には減少した。特にCa濃度の減少量(72.8 mg/kg-H₂O) はSi濃度の減少量 (60.9 mg/kg-H₂O) より大きかった。これに対応して、溶液のSi/Ca モル比は24時間後、48時間後および70時間後でそれぞれ2.39, 2.04および3.31となり、70時間後に最も高い値を示した。
これらの固相や液相の分析結果を用いてマスバランス計算を行い、化学反応式の制約を試みた。その結果、珪灰石の炭酸塩化反応は次のような全体反応式として表すことができることがわかった。
1.000 CaSiO₃ + 0.980 CO₂ → 0.980 CaCO₃ + 0.956 SiO₂+0.020 CaO(aq)+0.044 SiO2(aq)
この結果から、Caの約98%は方解石として固定され、約2%が溶液中に残存した。一方、Siの約96%は固相中に残存し、約4%が溶液中へ移行したことが示された。また、反応式および各鉱物のモル体積から固相体積を計算した結果、炭酸塩化反応に伴い固相体積は約44.8%膨張することが示された。この体積膨張は、粒子表面に形成される方解石殻およびSiに富む反応層の緻密化を促進し、CO₂や反応溶液の拡散を抑制することで、反応速度の低下や未反応コアの残存を引き起こす可能性がある。
以上の結果は、炭酸塩化反応においてCaとSiが異なる分配・移動挙動を示すことを明らかにするとともに、珪灰石炭酸塩化反応に伴う固相体積の増加が反応進行に影響を及ぼす可能性を示した。本研究で得られたマスバランスは、CO₂鉱物固定反応の反応機構の理解や、将来的な反応速度モデルおよび物質移動モデルの構築に有用な基礎データとなる。今後は、反応温度や反応時間を変化させた実験を行い、CaおよびSiの分配挙動と体積膨張が炭酸塩化反応に及ぼす影響についてさらに検討する予定である。

参考文献:
1. Wouter J.J. Huijgen., et al. 2006. Mechanisms of aqueous wollastonite carbonation as a possible CO2 sequestration process. Chemical Engineering Science, 61-13