講演情報

[AAS08-P53]リモネン由来SOAの水相における光誘起OHラジカル生成

*水野 滉太1、田林 由佑吏1、澤邉 愛翔1、三笹 脩人1、松本 浩一1、河野 七瀬1 (1.近畿大学)

キーワード:

SOA、VOC、OHラジカル、リモネン

【目的】大気エアロゾル中で発生するOHラジカルは,その高い酸化力によってエアロゾル中の化学組成を変化させることで,大気質や,気候変動,生物の健康にも影響を与える可能性があることが示唆されている。特に,エアロゾルが水に溶解した際にOHラジカルが発生する場合,生体内の水と反応してOHラジカルが発生し,健康被害のリスクが増加する可能性がある。そのため,エアロゾル中のOHラジカルやその前駆物質の生成過程について調査することは重要な課題である。本研究では,植物起源VOC (Biogenic Volatile Organic Compounds,BVOC)の一種であるリモネンとO3の酸化反応による二次有機エアロゾルが水に溶解した際に発生するOHラジカルについて調査を行った。リモネンは植物からの排出だけでなく,嗜好品等にも使用されることから,その酸化生成物の成分分析や,健康影響の評価は大気化学分野のみならず,生命科学分野にも寄与する遂行すべき研究テーマのひとつである。

【方法】O3,ゼロガス,リモネンの蒸気をガラスの反応セル(容積7 L)に添加し,VOCのO3酸化反応によりエアロゾルを生成した。O3は低圧水銀ランプを用いて生成し,反応セル内で80~90 ppbとなるように調整した。反応セル内の流速は2 L/minとした。反応セル内で生成したエアロゾルを石英繊維フィルター(東京ダイレック, Tissuquartz 2500QAT-UP)上に捕集した。また,石英フィルター上でのO3による酸化反応を防ぐため,活性炭含有の拡散フィルターをエアロゾル捕集前に設置した。反応開始から24時間後に捕集フィルターを回収し,OHラジカルを検出するためのテレフタル酸(TA)水溶液(1.2×10-3 mol/L)を用いて振盪器で1時間抽出を行った。抽出溶液をろ過した後,310 nmの励起光 (Ocean Insight LSM-310A)を照射し,ファイバー分光器(BroLightTechnology, BIM-6002)で5分ごとに30分間,蛍光強度を記録した。TAはOHラジカルと素早く反応して安定な2-ヒドロキシテレフタル酸 (HTA)となり,HTAに310 nmの光を照射すると励起状態へと移行し, 420 nmの蛍光を発することが知られている。この性質を利用して,420 nmの蛍光強度を調べることでOHラジカルの生成を確認した。また,過酸化水素検出用の蛍光試薬(Sigma-Aldrich, MAK165-1KT, Fluorimetric Hydrogen Peroxide Assay Kit)を利用して,抽出溶液中のH2O2の検出も行った。他のラジカル種に関しては,マルチバンドESRシステム(JEOL RESONANCE, JES-FA200)を用いて観測を行った。ESR測定の際には,ラジカルを安定化させるスピントラップ剤としてDMPO (5,5-ジメチル-1-ピロリン-N-オキシド)を用いた。ESR測定では疑似太陽光としてXeランプを使用し、化学プローブ法と同様に5分ごとに30分間ESRスペクトルを観測した。SOA抽出溶液中で生成した有機化合物の検出には,GC-MSを用いた。

【結果】化学プローブ法におけるOHラジカル検出において,HTA励起光照射直後では420 nmにおける蛍光強度は低かったが,励起光を照射し続けることで,蛍光強度が増加していく様子が観測された (図1)。これは,310 nmの光を照射することにより,抽出溶液中でOHラジカルの相対濃度が増加していることを示している。抽出溶液中でH2O2も同時検出されたことから,リモネンのO3酸化反応により生成したエアロゾルが水との反応によりH2O2を生成し,H2O2の光解離反応によりOHラジカルが生成していることが示唆された。さらに、ESR測定の結果から酸素,炭素中心ラジカルも生成していることが明らかになった(図2)。特に,酸素中心ラジカルに関しては,OHラジカルと同様の光依存性を示したことから,OHラジカルがH2O2だけでなく有機過酸化物からも光解離により生成していることが示唆された。