講演情報

[AAS15-P11]地上デジタル放送波を用いた反射法による水蒸気量変動観測における反射波到来時間の設定について

*今 颯人1、小田 僚子1、花土 弘2、川村 誠治2、河谷 能幸2 (1.千葉工業大学、2.国立研究開発法人 情報通信研究機構)

キーワード:

水蒸気、地上デジタル放送波、伝搬遅延

大雨災害が全国で頻発しており、十分なリードタイムを確保した降雨予測の需要が高まっている。雨雲の発生を精度良く予測するため、現在、広く行われている鉛直積算された可降水量観測に加え、地上から高度数百mの大気下層の水蒸気量変動を観測することが望まれる1)。新しい観測手法として地上デジタル放送波(以下、地デジ放送波)の伝搬遅延を利用し水蒸気変動量を推定する手法があり、地上の気象測器での観測値から推定される遅延時間の変動とよく一致することが確認されている2)。著者らは現在、この手法の都市域への適用に向けた検討を進めている3)。都市域では、多数の反射体が存在し遅延プロファイル上に複数の反射波ピークがあり、送信局と受信装置の基準信号の周波数差補正を行う時に異なる反射体のピークを測定し、大きな測定誤差が発生する場合がある。そこで本研究では、都市域で長期間安定した水蒸気量変動観測を行うため、反射波到来時間の設定方法を検討した。
本研究では、送信局と反対方向にある構造物を反射体とする反射法により水蒸気変動量を推定する。千葉工業大学新習志野キャンパス2号館屋上に、東京スカイツリーからの直達波を受信する八木・宇田アンテナ1本と、反射波を受信する同アンテナA/Bの2本が設置されている。アンテナA/Bは北東-南西方向に約5 m離れて設置されており、それぞれ直達波用アンテナの信号と合波して観測装置に入力される。観測装置は 10 秒平均の遅延プロファイルと直達波との差(=反射波到来時間)で指定された反射波ピークの位相を記録する。
送信局と受信装置の基準信号の周波数差により直達波の到来時間は時間とともに変化する。直達波到来時間が所定範囲内では連続記録するが、範囲外では両基準信号の周波数差が増大したと判断して観測を停止し、周波数差を補正し記録を再開する。反射波のピーク位置は設定値周辺の遅延プロファイルの強度に対して二次関数フィッティングで求められ、線形補間により算出された位相とともに記録される。本研究では、反射波ピークの探索において、(1)連続的な位相測定時および(2)周波数差補正後の観測再開時に用いる2種類の設定値の違いが、ピーク推定精度や位相測定の安定性に与える影響を比較する。
図は、アンテナA/Bで観測された 521 MHz の反射波ピーク(設定値 22.87 μs)から算出した単位距離あたりの伝搬遅延の散布図である(期間:2024/11/20〜2025/11/16)。このピークは、受信点から約3.5 km離れた高層マンションによる反射と推定される。アンテナA/Bはほぼ同じ位置に設置され、同じ方向を指向しているため、同じ値が得られると期待されるが、散布図には大きなばらつきが見られた。そこで、ピーク位置と設定値との差の絶対値に基づき、データを4条件に分けて解析した。図中の青プロットは、設定値との差の絶対値が (a)0.4 μs、(b)0.3 μs、(c)0.2 μs、(d)0.1 μs以下のデータを示す。その結果、図(c)・(d)では散布のばらつきが小さくなり、相関係数も向上した。また、最小二乗法による回帰直線の傾きが 1 に近づき、アンテナA/Bで観測した伝搬遅延が良く一致することが確認できた。地デジ放送波の帯域は 6 MHz であり、これに対応する遅延プロファイルの時間分解能(約 0.17 μs)を考慮すると、図(c)・(d)の条件では同一反射体を捉えている一方、図(a)・(b)は異なる反射体を測定していた場合を含んでいると判断できる。

出典)1)気象庁HP, https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yohokaisetu/senjoukousuitai_ooame.html (2026.2.17 参照),2) Kawamura et al., Radio Science, 52, 367-377, 2017. 3)今他,水文・水資源学会2025年度研究発表会,PS-1-50,2025.