講演情報

[ACC45-P10]飛驒山脈に存在する氷河における質量収支および流動観測

*竹花 佑香子1、奈良間 千之1、有江 賢志朗2 (1.新潟大学、2.宇宙航空研究開発機構)

キーワード:

氷河、質量収支、流動、飛驒山脈

飛驒山脈北部ではこれまでに9個の小規模氷河が確認されている(福井ほか,2018,Arie et al., 2025など).これらの氷河は,世界の氷河分布域とは異なり,中緯度の標高2000m前後の温暖な環境で維持されており,その質量収支特性や流動機構の解明は,将来の気候変動に対して存続する氷河の環境条件を明らかにするうえで重要な課題である. Arie et al.(2022)は飛驒山脈の5個の氷河において,2015~2019年の年間質量収支,冬期の積雪深,夏期の融雪深を算出し,質量収支は主に冬期の積雪深に影響されていることを報告した.しかしながら,質量収支の永年変化をみるには最低30年の観測が必要であると考えられており(大村,2010),より長期間かつ複数の氷河で観測がおこなわれる必要がある. そこで本研究では,飛驒山脈の8個の多年性雪渓・氷河において1960年代~2025年の質量収支を算出した.また,杓子沢氷河において流動速度の年々変動および季節変動を観測し,その変動要因を検討した.
質量収支観測を実施したのは,飛驒山脈北部,後立山連峰に存在する白馬沢雪渓,杓子沢氷河,不帰沢氷河,唐松沢氷河,カクネ里氷河,立山連峰の小窓氷河,三ノ窓氷河,御前沢氷河である.これらの氷河・雪渓は,標高1700~2700mに分布しており,水蒸気を含んだ北西季節風による降雪に加え(朝日,2016;Kawase,2020),雪崩による多量の積雪によって維持されている.
1970年代~2010年代半ばの積算質量収支はわずかに減少または増加していたのに対し,2016年の少雪年を契機に減少傾向に転じ,その後2025年までにすべての氷河・雪渓で大幅な質量の減少が確認された.白馬アメダスおよびERA5再解析データより、1950年以降の積雪量に増加・減少傾向はみられなかったものの、熱収支法およびディグリーデー法による融解量が増加傾向にあったことから、主に夏期気温の上昇による融解量の増加が、質量収支の急激な減少に寄与していると考えられる。また,氷河によって質量減少量は大きく異なり,岩屑被覆のある氷河で減少量が少なくなった.氷河が岩屑供給を得るには,周囲岩壁の地質や氷河表面傾斜が関係していると考えられる.
また、杓子沢氷河における流動観測の結果、年間の流動速度が融雪末期の流動速度を上回る傾向が確認された。このことから、冬季の積雪荷重による塑性変形量の促進または融解初期の底面滑りの促進が生じている可能性が考えられる。