講演情報

[ACC45-P11]深層学習による天山山脈の短命氷河湖の高頻度モニタリング

*岡村 豪大1、奈良間 千之1、飯田 佑輔1、宇田 竜健2 (1.新潟大学、2.新潟大学・院)

キーワード:

短命氷河湖、深層学習、デジタル防災、高解像度衛星画像

1.はじめに 中央アジアのキルギス共和国に位置する天山山脈では,近年 小規模な氷河湖の出水による氷河湖決壊洪水(GLOF)が報告され ている.これらの氷河湖の多くは,形成から排水までが数か月と いう短期間で進行する「短命氷河湖」タイプであり(Narama et al., 2018),同一山系内でも毎年数十件の短命氷河湖が出現す る事例が観測されている.一方,大規模な出水を伴うGLOFは数 年に一度の頻度で発生し,下流域の集落やインフラに甚大な被 害を与える.したがって,被害軽減の観点からは,短期間で変動 する小規模氷河湖を高頻度かつ広域に把握し,早期に異常を検 知する監視体制の構築が喫緊の課題である. 従来のリモートセンシングによる氷河湖監視は,10~30 m級 の中解像度衛星データや手作業による目視判読に依存すること が多く,小規模湖の検出漏れや境界誤差,更新頻度の制約といっ た限界が指摘されている.特に山岳域では強い地形陰影や季節 的な積雪・氷雪の存在が誤検出を誘発し,広域での継続的監視を 困難にしている.近年は高解像度の商用衛星(例:PlanetScope) や深層学習に基づく自動化手法の発展により,これらの課題に 対する新たな解決策が期待されている.高解像度データは微小 水域の空間的特徴を捉えやすく,深層学習はピクセル単位での セグメンテーションにより再現性を向上させることが可能であ る. しかしながら,実運用に耐える監視システムを構築するため には,単に高解像度データとモデルを組み合わせるだけでは不 十分である.雲・影・積雪といったノイズ要因への頑健性,領域 間での汎化性能,ラベリングコストや処理時間といった運用性 の観点を同時に満たす必要がある. 本研究は以上の背景を踏まえ,天山山脈のテスケイ山脈を対 象に,PlanetScope衛星画像を主データとして用い,U-Netアー キテクチャを基盤にした小規模氷河湖検出モデルの開発とその 推論パイプラインの自動化を行うことで,高頻度かつ広域なモ ニタリングの実現可能性を検証することを目的とする.具体的 には,NIR(近赤外)を含む多バンド入力や検出精度と運用性の 両立を図り,GLOF 早期検知に資する時系列解析基盤の構築を目 指す. 2.方法 対象領域はキルギス共和国のテスケイ山脈とし,主データに PlanetScope 衛星画像を用いた.直近では2025年6月末〜7月 初めに同地域でGLOFが発生しており,本研究はこうした急変事 象の検出・監視に資する手法の構築を目的とする.光学衛星画像 から約200のデータセットを作成し,80%を学習用,20%を検証 用に割り当てた.各データセットは衛星画像と氷河湖領域を示す ground truth(GT)で構成し,画像サイズは256×256である. モデルにはU-Net(Ronneberger et al., 2015)を採用し,初期 は3 バンド入力に対して彩度調整や影領域判定を含む前処理を 実施した.精度改善のために近赤外(NIR)を含む4バンド入力, データ拡張(湖以外領域の追加含む)を導入した. 3.結果 学習したモデル(4 バンド入力)による氷河湖領域の予測結果 を図1に示す.NIRを含む4バンド入力とデータ拡張を組み合わ せたU-Net モデルは,従来の 3バンドモデルに比べて小規模氷 河湖の検出性能が明確に向上した.自動化した推論パイプライ ンにより広域データのバッチ処理が可能となり,週次〜日次レ ベルでの更新運用が現実的であることを示した.一方で,強い陰 影や積雪条件下での誤検出や,領域間での汎化性能の限界は残 存しており,これらは追加データと時系列解析の導入で対処す る必要がある. 4. 考察 本研究で構築した自動抽出パイプラインは,実運用に耐える 検出精度と処理頻度に到達しつつあり,氷河湖の時系列変動パ ターンを定量的に把握できる基盤を提供する.これにより,微小 湖の発生・拡大・縮小の頻度や増加速度,季節性,急激な異常拡 大といった挙動を時系列データから抽出・分類でき,GLOF に先 行する変動兆候の検出やリスクランク付けへ直接応用可能であ る.領域ごとの変動様式比較は危険度評価や観測優先度設定に も有用である.今後は陰影・積雪条件への対策,GT 品質向上, 多領域データによる学習強化,時系列異常検知アルゴリズムの 導入を進め,実際の早期警報システムへの組み込みを目指す.